127若狭侵攻3
127若狭侵攻3
「どうだ?城内の様子は伺えたか?」
物見に出ていた伊賀衆に話を聞く。日が落ち始め暗くなった中で闇夜に紛れて出てくる事にすでに慣れていた治政は特に驚かなかったが今回から出兵についてきた北近江の諸将は驚きを隠せない反応をしている。
「はっ!だいぶ敵の士気は低いようで易々と侵入できました。敵の総兵力は150程で、その大半がかき集められた農民にございまする。しっかりと戦意がある者は50にも満たないと思われます。」
この報告を聞いて治政以外のもの達が楽観的な意見を述べたり安心したりしている。そんな様子を見た治政はドンっと机を一度叩く。
治政の声には、若さと責任が混じっていた。姉川の戦いでの経験が、彼に「油断の怖さ」を刻み込んでいた。諸将はその言葉に、単なる激励以上の重みを感じ取っていた。
「各々方、油断なされるな。これは戦ぞ。戦に絶対や確実と言うものがないのは私よりも各々がよく理解しているはずであろう。この城は必ず落とす。そして援軍を待ち、国吉城の戦に駆けつけてさらに武功をあげるのだ。良いな?」
「「「はっ!」」」
分かりやすい飴と鞭だがこの激励で気が引き締まったのか諸将の顔つきが変わった。
「まずは、降伏の勧告だ。大隊長は大倉見城を囲う形で進軍を開始せよ。」
約350の兵が城の東側から、治政率いる150が南側から進軍を開始する。進軍よりも先に外に出た斥候隊が矢文を打ち込み降伏を勧告する。六角軍が布陣を終える頃には矢文が再度こちらに打ち込まれていた。
内容としては降伏拒否である。
矢文には「武田家の名にかけて、降伏せず戦う」と記されていた。筆跡は熊谷自身のもの。治政は、敵がまだ誇りを持っていることを見抜き、油断をさらに戒めた。
「治政様如何なさいまするか?」
副官である雨森が声をかけてくる。浅井家大名時代から付き従ってくれている優秀な将だ。六角家内の軍位であれば治政と同じ兵を率いることができる准将格である。
「ここは気を衒わずに物量による力押しだ。大砲はない上に、伊賀による工作もない。となれば優秀な武具と兵による圧倒的な兵力差で押し潰すべきだろう。」
隣で雨森が頷いている。雨森も同じことを考えていたのだろう。元々自分の考えに自信はあったが歴戦の雨森に同意して貰えると更に自信になる。
治政は、姉川の敗戦を経て「勝つための冷静さ」を学んでいた。雨森の同意は、過去の自分との決別でもあり、今の自分が六角の一員として戦えている証でもあった。




