116 朝廷激震
116朝廷激震2
side前久
この不思議な男を乗せながら前久は物思いに耽っていた。この男が台頭してから前久を取り巻く環境は劇的に変わった。自分の住処から近江を中心とした経済の活性化など様々な面で良いことを起こすこの男には景虎と違った魅力を受けていた。
景虎は理想を語るが、治頼は実を積む。前久は、六角の統治が民を潤し、朝廷を支える現実の力になっていることを、肌で感じていた。だからこそ、賭ける価値があると確信していた。
今回の件、義輝に頼もうにも頼りにならず、三好に貸しをつくるのはなんとか避けなければならない状況。この男にかけてみるのも一興、近衛は六角と共に繁栄していくのだ。
治頼を別室で待たせると少し早めに動きながら会議部屋へと向かう。
「皆、少しお待たせしてしまったかの。」
「いえ、皆着いたばかりにございまする。実は休憩前の議論で、皆が中々に疲れていたようで」
この場にいるもの達も少し遅めにきていたようで誰も咎める雰囲気はなかった。公家たちの顔には疲労と焦燥が滲んでいた。帝の容態、財政の逼迫、三好との距離感――すべてが重くのしかかっていた。前久の登場は、場の空気を一瞬だけ引き締めた。
「さて、議論に戻ろうか。」
「少し待って貰えぬか?別の手立てが一つできた。」
前久が進行係へと待ったをかける。皆が前久へと注目する。
前久の声には、いつもより力があった。彼は、六角治頼という名を出すことで、議論の流れを変える覚悟を持っていた。
「ほぅ、その手立てとやらお聞かせ頂きたい。」
「うむ、自宅へ戻った時にだが、六角より連絡があっての。皆も覚えているだろうが、六角に帝が大層感銘を受けた際に何か褒美はないかと聞いたことがあるだろう?」
あちこちで頷きが返ってくる。
帝が六角に感銘を受けたのは、治頼が献上した米と礼節の整った使者によるものだった。公家たちはその時のことを思い出し、六角がただの武家ではないことを再認識していた。
「その時が来たと言うことですか…。しかし、将軍を飛び越して六角を頼もうとするのは朝廷の姿勢として三好にも足利にも良くないのではないでおじゃるか?」
公家の一人が口にした懸念は、格式と筋を重んじる者として当然のものだった。だが、現実の逼迫がその理想を押し流しつつあることも、皆が感じていた。




