113 六角の総意
113六角の総意
「伊賀か?」
「はっ、その様なところにございまする。」
俺が史実を知っているため伊賀にその裏どりをさせただけであるが、事実帝の崩御は近い。
伊賀の者は宮中の動きを密かに探り、医師の出入りや薬の内容まで把握していた。治頼は、史実の記憶と現実の情報を重ね、確信を得ていた。
「どうしたいのだ?」
「我々はこれまで朝廷を支えてまいりました。ここで更なる楔を打ち込むべきかと。幕府からの献金ではなく、六角からの献金という形で全額負担できませぬか?伊賀を使って稼がせていた私個人の銭も全て放出します。」
治頼の稼ぎは、戦場の混乱を利用した情報戦と物資取引によるもの。伊賀と甲賀を使い、戦の裏で銭を積み上げていた。今こそ、それを国のために使う時だと決めていた。
歴史チートを使って各地の戦場で荒稼ぎをさせて貰っていた。そのおかげで実は一国以上が稼ぐ銭を用意できている。
「公方に依頼が来た際に提案するのか?」
「いえ、その前に公家達が公方か三好かどちらを頼るか迷っている場面で六角が全て出しましょう。御大喪、即位、どちらも用意するのです。今の帝だけでなく、次代の帝にも六角は頼りになると思って頂き、他の武家達にも公方か三好かではなく、六角か三好かと思わせるのです。」
六角が全額を出すことで、朝廷にとっての「頼れる武家」が三好から六角へと移る。治頼は、格式と実力の両面で六角を再定義しようとしていた。
「公方の献金ではダメなのだな?」
「はっ、三好を倒す迄は良いでしょうが、三好を倒した後の標的は六角になりまするぞ。獅子身中の虫に餌をやるほど愚かではありませぬ。」
義賢は、三好を倒した後の空白を恐れていた。治頼の言葉は、その先を見据えた策。六角が主導権を握るには、今しかないと父も理解していた。
三好に対して強く出たがっていた父と祖父だこの提案には乗ってくるだろうとは思っていた。
「…分かった。父に行ってもらうか?」
「いえ、領内も安定してきましたし、私が直接前久殿に話をしてこようかと。つきましては公家用の衣服を用意して頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
公家の衣は、格式を示す道具であり、言葉以上に信頼を得る手段でもある。治頼は、見た目から入り、言葉で仕留めるつもりだった。
「分かった。好きにやるといい。」
義賢の声には、信頼と期待が込められていた。治頼が動く時、六角は動く。父は、息子の一手が国を揺らすことを知っていた。




