111 朝廷の転換期
111朝廷の転換期
天文26年1557年 8月 近衛前久
「うぅむ。どうしたものかのう。」
帝を除いた公家の重要人物だけで集まりが行われていた。内容としては帝の体調が最近になって一層悪くなってきたため、それに応じて必要になってくる費用に関してどうやって掻き集めるかを苦悩していた。
帝の容態は伏せられていたが、側近の表情と医師の往来がそれを物語っていた。公家たちは格式を守りつつも、内心では次の時代への備えを始めていた。
「やはり、三好を頼るのが良いのではないでしょうか?」
「しかし、三好を頼れば彼奴らは調子に乗り必ずや様々な要求をしてきますぞ。」
「それはどこでも同じことよ。三好が今京を実質的に差配しているのだ。彼らを頼るのはおかしいことではない。」
三好の力は否定できぬが、頼れば朝廷の独立性が揺らぐ。公家たちは、格式と現実の狭間で揺れていた。
前久が悩んでいる間に話は堂々巡りを繰り返す。
「やはり、筋としては公方を最初に通す必要がある。その上で三好や他の武家達から銭を集めて献金してもらうのが常道だ…。」
前久がポツリと言葉を漏らす。前久の言葉は、理と情の折衷だった。公方を立てることで筋は通るが、現実には三好の影が濃すぎる。誰もが答えを持ちながら、口にするのをためらっていた。
「しかし、今の公方が見ているのは三好だけ、武家をまとめ朝廷を守るのが幕府の役割であろうに、今の公方は全くと言っていいほど役に立たない。無能だな。」
九条の言葉は辛辣だが、的を射ていた。義輝は理想を語るが、実務に乏しい。公家たちは、幕府が機能不全に陥っていることを肌で感じていた。
前久の政敵である九条から声が上がる。
「公方に声をかけてその場で返答が貰えない、もしくは拒否された場合には三好に話を持っていくのが1番収まりがいいかと思いまするが、如何に?」
他の公家も仕方がないことだと思いながら賛同を示している。前久としては従兄弟となる義輝のことをなんとかしてやりたいと言う気持ちもありながら九条の言う事にも理解を示していた。
前久は義輝を見捨てたくはなかった。だが、朝廷の維持には現実的な手段が必要だ。彼は、従兄弟としての情と公家筆頭としての責務に引き裂かれていた。
「まぁ、近衛殿がそう仰るならばそれで良いのではないでしょうか?」
「うむ、では使者を誰にするかですな。」
「とりあえず、ここまで長い時間お話しして疲れたと思いまする。一度休憩を入れませぬか?」
「そうでおじゃるな。」
皆の賛同も得られたところで1刻後に再度集まる事にして解散した。議論は一時の休止を迎えたが、誰もが次の一手を探っていた。使者の人選は、朝廷の立場を左右する。前久は、自らが動く覚悟を固めつつあった。前久は公方への配慮と公家としての責務に板挟みになっていた。




