109 朝倉の内情
109朝倉の内情
「いえ、ここで他家を引き入れれば義統と同じことになりまする。今こそ、我らの独力で当たるべきかと。最近では近江から来た商人が兵糧や武具を格安で売り捌いております。まだまだ我らでも戦えまする!」
逸見は、戦の機運を感じていた。近江からの物資は、六角の支援であると同時に、若狭の自立を促す火種でもあった。
強硬策を主張する逸見。確かに、現状だけを見れば義統よりも信豊の方が若干ではあるが優勢だった。朝倉の動きがとても鈍かったのだ。
「うぅむ。ならば、万が一の時に備えて六角家と繋がりを持ちながらも限界までは我々の力で事に当たろうではないか。これならば良いだろう?」
信豊は、義統と同じ轍を踏まぬよう、外との繋がりを持ちつつも内の力で決着をつける道を選んだ。だが、それは綱渡りの策でもあった。
「「はっ」」
信豊のどっちつかずな意見に纏まり、とりあえずは三好と朝倉に備えながらも義統を押し返し次男を当主にする方向で話は決まった。
若狭の命運は、密室の会話で静かに動き出した。次男擁立は、家中の再編と六角への布石。信豊は、血統よりも秩序を選んだ。
それを屋根裏から聞いていた伊賀忍者は音を立てない様に入ってきた時と同様にそっとその場を離れていった。
伊賀の者は、音もなく情報を持ち帰る。治頼の元に届くその報告は、若狭の内情を手に取るように伝える。戦は、言葉より先に情報で動く。
天文26年1557年 7月 朝倉義景
越前小京都と呼ばれる一乗谷の城で当主である朝倉義景は家臣達を集めて評定を行っていた。
一乗谷は静かに雪解けを迎え、谷間に風が通る。だが、城内の空気は重く、戦の報告が義景の眉間に皺を刻んでいた。内容としては激化の一途を辿る加賀の一向一揆についてだ。
「最近の戦いはどうだ?」
義景は前線で指揮を振るう将達に問いかける。最近の一向一揆との戦は芳しくなかったため苛立ちを隠せずにいた。
義景は言葉を選びながらも、声の調子に焦りが滲んでいた。加賀の火種が越前に燃え移る前に、何とか手を打たねばならぬと感じていた。
「はっ、加賀・越前一向一揆どもの勢いが増してきております。最近では、狂信ぶりに加えて肉付きや武具も良くなってきており段々と農兵だけでは対処が追いつかなくなってきております。」
一向一揆は、信仰だけでなく武力も備え始めていた。伊賀から流れた武具と兵糧が、彼らをただの民兵から戦力へと変貌させていた。
「確かに、押されることが多くなってきた…。我々の指揮だけでは如何ともしがたい地力の差を感じまする。」
伊賀忍者が裏から行っていた一向一揆への支援が上手く作用しており、朝倉軍を史実よりも切羽詰まった状態まで追い詰め始めていた。




