104 新年の挨拶2
104新年の挨拶2
「はっ、それを踏まえずとも日々流れてくる山からの水には砂等も含まれており段々と港として使いづらくなることも考えられておりまする。ですので、それを解消するという目的を名目に整備しておりまする。」
地元の人達の理解がなければ整備して、一時的にこの場所は使えませんとしようとしても反感を食らうだけだ。代用の地と理由をしっかりと説明して、各エリアごとに少しずつ工事を進めていっている。
地元の漁師や商人には、丁寧な説明と代替案を提示。治頼は、力で押すのではなく、理解と協力を得ることで領地を動かしていた。
「伊賀と北伊勢に関しては治頼に任せたのだ。好きにするといい。困った時の相談や何かあった時の報告だけ忘れぬようにな。」
義賢の言葉には、信頼と試練の両方が込められていた。治頼が独自に動くことを許す一方で、報告と連携を怠るなという戒めでもある。
定頼が驚いているのを横目に新しく出てきた魚の天ぷらを楽しんでいる義賢は事前に甲賀から聞いていて内容を知っていた。
治頼は多分伊賀に頼んでいた甲賀にも情報を流しといて欲しいという頼みをしっかりと果たしてくれてるんだなぁと思いながら刺身のおかわりをしていた。
定頼はまだ治頼の全貌を掴みきれていない。だが義賢は、甲賀経由で情報が届いていることから、治頼の根回しの巧妙さを感じ取っていた。
「今年は内政に力を入れて大人しくしておるのか?」
「はい、手に入れたばかりの北伊勢を安定させねばなりませぬ。内政と外交に力を入れるつもりでございまする。」
北伊勢の安定は、六角の南方展開の土台となる。治頼は、戦を急がず、地盤を固めることで持続的な拡張を狙っていた。
「外交?織田や北畠か?」
「はっ、勿論その2勢力ともですが、若狭や朝廷とのやり取りも強化しようと思っております。」
若狭は日本海の玄関口、朝廷は格式と影響力の源。治頼は、力だけでなく格式と交易を手に入れるため、外交の幅を広げていた。
「朝廷はまだわかるが、若狭?公方様が大層気に入っている義統殿とやりとりをするのか?」
父が訝しげにこちらを見る。
「いえ、そちらは父上にお任せいたしまする。既にやりとりされておるようですし。私は父親である信豊殿と文のやり取りをし始めております。」
義統は公方の寵臣、信豊は実務の担い手。治頼は、表の顔と裏の実力者を見極め、後者との関係を築くことで実効支配への布石を打っていた。
胡散臭そうなやつを見る目で2人から見られたのでニッコリと笑いながら気付かないふりをしてやった。
治頼の笑顔は、計算された仮面。疑念を受け流しながら、着実に布石を打つ。彼の外交は、言葉よりも先に動いている。




