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大公開!私の実力…。

「あのー、テスさん。ちょっといいですか。」


 溜まりかねたように、ミレイちゃんが眉間にしわを寄せて話しかけてきた。


「なんですのん。」

「泰然自若は結構ですけど、もっとこう、なんというか…。」

「ちっとは働けと?」

「まあ、はっきり言えば。」

「あんたほんとに凄いのかよ、なんにもしないんじゃなくて、なんにも出来ないんじゃねえの、と。」

「はっきり言えば。」


 ふーやれやれ、と私は肩をすくめた。

 いつかこうなる気はしていた。予感は最初からあった。「何もしなくていいって言われて本当に何もしなかったら、嫌な顔される」という予感が。思っていたより早かったけど。困ったものだぜ。


「何言ってるのミレイちゃん!テス様は、いるだけでありがたいというか、存在自体が尊いというか、そういうあれなんだから…」

「オーケー、いいでしょう。」


 ぷりぷり怒るエレナさんを、手で制す。


「ミレイちゃん、あなたの気持ちはよくわかりました。」

「はあ。」

「もちろん、だからと言って働きはしません。なんにもしなくていいって契約ですし。」

「はあ…。」

「ですが、役立たずのデクノボーと誤解されるのも、私としては非常に不本意。」

「誤解というか…。」

「なので、働く代わりに、私の得意な魔法を披露しましょう。それで、このテス・ギャラガーがただものではないということがわかるはず。どう?」


 私の提案に、ミレイちゃんがウザそうな顔をする。


「どう?と言われても…。戦闘に協力してくれないなら、そんなの見せられたところで」

「テ、テス様!もしかして、あの伝説の技を見せてくれるのですか?!」


 やんわり拒否されかけたところで、エレナさんががっつり食いついてきた。


「ふふふ、ま、そういうことです。もちろん、興味ないというならやりませんが。」

「ありますあります興味あります!絶対見たいです!ね、ミレイちゃん!ね?!」

「あーっと…。」

「ね?!ね?!ね?!」


 エレナさんが妹の手を握り、キラキラした瞳でみつめる。顔が近い。姉妹じゃなかったら惚れちゃう距離だ。ミレイちゃんが、ちょっと頬を赤らめて目をそらした。


「うん…。興味ない、こともないかな…?じゃあ、まあ、よろしくお願いします。」

「オッケー、目ん玉ひん剥いてとくとご覧あれ!」


 エレナさんの圧により、どうにか披露する流れになった。危なかった、よかった。自分から「凄い技見せてやんよ」と宣言して「結構です」と断られたら、あまりにもブザマである。ブザマが過ぎる。


「じゃあ、ええと…。ご存じの通り、一つの魔法を鍛錬していくと、呪文詠唱を短縮できるわけですが。」

「はい。」


 魔法とは、体内の魔力を外部に出力すること。正しく出力するには、術の顕現するビジョンを、しっかりイメージすることが重要。

 呪文は、そのイメージを手助けするためのものだ。語感とリズム…いわば言霊の力で、正しい術のイメージを導く。

 つまり、脳内で正確なイメージを描くことさえ出来れば、呪文は必要なくなる。


「今から、私が一生懸命がんばって、詠唱時間ゼロで使えるようになった術をお見せしましょう。」

「おお、それは凄いかもしれません。」

「はわ…!まさかあれをもう一度拝見できるなんて!感激です!ミレイちゃん、まばたき厳禁よ!」

「え、そんなすごいやつなの?」


 エレナさんが、期待感をガンガンに煽る。うーん。いや、まあいいけど。現役時代、この魔法を使いまくっていたのは事実だし。


「じゃ、いきまーす。さん、にー、いち。ほい。」


 ほい、のタイミングで、私は消えた。


 で、五歩くらい先の地点に出た。


 これが私の得意魔法、ちょっとだけ瞬間移動である。

 正式には、超短距離転移魔法、「ラーナ」。

 自分の足元に入り口用の魔法陣、前方に出口用の魔法陣。その二つを同時に脳内で描き、魔力で具象化するのだ。

 今もトイレに行くときとかに使うので、腕はぜんぜん落ちていない。まあ本当は、ダンジョン以外で魔法使ったらいけないのだけど。


「どう?」

「す、素晴らしいですテス様!ああ、まぶしい!後光!後光が!」

「いや…。」


 胸を張って振り返ると、エレナさんは拍手喝采だが、ミレイちゃんは曇り顔だ。なーんだそりゃ、って顔だ。なぜ。


「あの、テスさん。それって、初級魔法のラーナですよね…。」

「そうだけど。」

「シルフ・ウィザードの人達が、魔法学校で、かなり序盤に習うやつじゃないですよね…。」

「そうだけど。お気に召さない感じ?」

「確かに無詠唱でやってるのは初めて見ましたけど、もっとこう、派手なものを期待していたので…。姉さんの前振りが過剰だったというのもありますが。」


 そのエレナ姉さんは、感激のあまりむせび泣いている。この落差よ。


「うーん、そっかー。この凄さ、お子様にはまだわかんないかー。」

「うざ。」

「でも弱ったな。これ以外に私が知っている魔法は、手の平からちっちゃい光の玉出すやつだけだよ?パチッとするやつ。」

「それ、『メルト』…。ウィザード系の全生徒が共通で使える、初級も初級の魔法じゃないですか…。え、なに、ドラゴン退治した人ですよね。ドラゴンって超弱い生き物だったんですか?」

「そうでもないけど…。私呪文覚えるの嫌いだったから、魔法学校じゃずっと瞑想ぼんやりしてたんだよねー。だから、二つっきりしか魔法知らないっていう、ね。」


 ちょっとだけ瞬間移動、ラーナ。

 パチッとくる攻撃魔法、メルト。

 この基本魔法二つだけで、私はやりくりしてきたのだった。なんだって基本は大事。高等魔法など邪道よ。


「よくそれで…。まあ、よほど仲間に恵まれていたんでしょうね。」

「で、一応見る?光の玉出すの。」

「いいですよ、もう。あなたの実力はよくわかりましたから、端の方でおとなしくしててください。」

「望むところだ!」


 けっきょく、失地回復とはいかなかった。だけどまあ、これで大手を振って「何もしない」ができるので、結果オーライと言えよう。


 ずーっとこのまま、なんの仕事もせずに楽してダンジョン攻略できたらいいな。

 そんなことを思っていた。

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