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この作戦だめかも

 私が考えた作戦は、次のようなものだ。

 まず、おいしいご飯とお酒でエレナさんをリラックスさせる。

 ほどよいところで、「キミが好きなのはミレイちゃんだね?」と聞く。根が正直な上に、私を尊敬している彼女は、嘘がつけないはず。当然「はい」と答える。

 ニカッと笑い、「だったら今すぐ家に帰って告白しなよ。きっとうまくいくから!」と背中を押す。

 ハッピーエンド。

 という感じ。われながら完璧なプランだ。

 これでラニヤン姉妹はめでたく両想い、家族の枠を越えて思う存分イチャイチャできる。私はそれを間近で見て興奮できる。ついでに言えば、恩を売ることによって、契約切られる心配もなくなる。登場人物全員がハッピーになれるという算段だ。


 さて、当日。

 待ち合わせ時間の前に、身だしなみを整えるため街へと赴いた。

 いくら私がドラゴンを倒した英雄といえども、普段の薄汚い恰好でしゃれた店に乗り込めるほどタフではない。パジャマで冒険するより難事業だ。

 なのでまず、髪切りショップへと向かった。

 私の髪。

 昔はこれみよがしに長い金髪たなびかせ、颯爽とダンジョンを闊歩していたものだが、今は見る影もない。伸ばし放題の猫っ毛を、強引に紐でしばっているだけだ。

 もちろん十年手つかずってわけじゃなく、ときどき切ってはいる。でも自分で適当にチョンチョンはさみを入れているだけなので、端的に言ってブザマだ。

 そんなわけで、髪切りショップの主人は、私の髪をみてドン引きしていた。

「こりゃひどいな」と、髪をないがしろにする私に対して、怒りさえ覚えている風だった。これだから嫌なんだ。

 主人に


「いっそばっさり短くしますか。あまりお手入れをしないのであれば、その方が。」


と言われたが、それは断った。

 それをするくらいなら、とっくにしている。短髪の方が手入れ格段に楽なのはわかっている。

 でも、できない事情があるのだ。

 お察しの通り、かつて元カノに「長いのがいいネ」と褒められたのが忘れられないのだ。私ってやつぁ、ほんとにさ。


 ともあれサッパリした後は、服を買いに行った。

 持っていたオシャレ服は、みんな着られなくなった。太ったから。

 普段はフリーサイズのだるんだるんのやつを愛用しているが、よそゆき用の服ともなるとそうもいかない。

 気合を入れれば強引に着られなくもないが、なんというか、ピッチィーとなってしまう。生地が。はち切れんばかりに。

 憧れの人がピッチィーとした服を着て現れたら、さすがのエレナさんも幻滅であろう。

 しかし私は服屋で「人間とは弱い生き物なのだな」ということをつくづく思い知った。

 人間は弱くて愚かだ。

 なので、都合の悪いことはすぐに忘れてしまう。

 服を選んでいるとき、ついつい現在の体重を忘れて、昔のサイズのものを選んでしまうのだ。脳内の自分のイメージが、十年前のそれなのである。

 結果、ピッチィーとなりがちな服を選択してしまう。馬鹿かよ。

 試着室から出てきた私を見て、店員さんは困ったように笑った。そして


「お客様は肉感的でいらっしゃいますから、そちらですとセクシー過ぎてしまいますねえ」


と迂遠なディスをもらった。太ってるから似合わないってはっきり言え。

 イラっと来た私は、反射的に


「セクシー上等です。これください。」


と啖呵をきってしまった。

 そして、似合いもしないワンピースを買ってしまった。だらしない体のラインがあらわになるワンピースを。嗚呼。


 ともあれ、爪とかもきれいにして、ムダ毛も処理して、準備万端整えて、夕方に待ち合わせスポットへ向かった。




 姉妹の縁結びを後押しするための食事会。

 ではあるのだが、食事会自体もそれはそれで楽しみだった。

 かわいい娘との素敵なディナー。それはやっぱり、どうしたって魅力的だった。

 なんせ、外食がそもそも久しぶりだ。

 無職になってからというもの、私の摂取する食事はひっでえ有様だった。

 まずいけど安くて大量に買える豆。

 成分不明だけど体にいいとされるお茶。

 あと、値引きされた腐る寸前のなんやかんや。

 おなかがすくと、そういったものを口にぶちこみ、事足れりとしてきたのだ。人呼んで自堕落メシの女。

 収入がゼロだから節約していた、という理由もある。

 しかしそれだけじゃない。

 のんべんだらりとした生活をしていると、だんだん食に対する欲求も薄まっていくのだ。食えりゃなんでもいいし、死ななきゃなんでもいいし、となってきちゃうのだ。

 が、曲がりなりにも職を得た今、まともなごはんが食べたいという欲望も復活してきている。きれいな女性と一緒となれば、そりゃもう言うことなしだ。

 ついでに言えば、いい感じの店を紹介して「素敵ですねさすがですねセンスいいですね」と褒められたい。そんな欲望もあった。センス褒められ欲が。

 なので私は、結構ウキウキ気分だった。

 場所は、予約した店の前。


 レストラン・ヴァハドーラ。


 お城みたいな外観の大きな店で、待ち合わせ場所としてもうってつけだ。料金は、個室三時間貸し切りで三万マニィ。なかなかの出費だが、思い切ってしまった。

 ここは、元カノと「いつか行こうね」と約束して、果たせなかった場所である。十年前の無念を今晴らそうという腹積もりだ。完全個室完全防音で、ゆっくりできるのが売りらしい。

 繁盛しているようで、何組ものカップルが中に入っていく。


「テス様ー!お待たせしましたー!」


 遠くの方から声がして、エレナさん駆け寄ってきた。

 バトル中の獣の如き疾走とはうって変わって、「とたとた」という擬音が出そうな、かわいらしい走り方だ。


「待ってないよ。私も今来たところ。」

「…ふふふ。」

「ん?」


 なんか、エレナさんが私の方を見てニヤニヤする。なんというか、なめるような視線でこっちを見ている。


「え、な、なに?」

「…あっ、ごめんなさい。えと、その、今日は一段と素敵だなーって。見惚れちゃいました!」

「お、そう?でへへ。まあ久しぶりに、髪とかちゃんとしたからねー。」

「髪?あ、そ、そうですね!ヘアースタイルもとても素敵です!」

「…ん?」

「いえあの、髪よりも、お召し物の方に気を取られていたというか。」

「あー、ほんとー?よかったー。絶対似合ってないから、エレナさんに笑われるんじゃないかと不安だったんよー。」

「そーんな!褐色のお肌に赤いタイトなワンピースがフィットしていて、とてもえっち…魅力的です!」

「いやーははは。照れちゃうねどうも。なはは。」


 さすがエレナさん、全力の褒めで気持ちよくしてくれる。お世辞とわかっていても心地よい。いい気分。

 かくいう彼女の恰好は、清楚な寒色薄手ニットのセットアップ。年相応にはしゃぎ過ぎず、かといって地味過ぎず、センスの良さがうかがえる。ていうか、シンプルにきれい。正直、若干「ミレイちゃんにあんな提案しなきゃよかったかも」と後悔した。


「それでテス様、今宵はどちらに?ヴァハドーラというお店は、初耳なのですが。」

「いや、ここ、ここ。目の前のこの店だよー。」

「え、だってここって、『恋人たちの家』じゃ…。」


 エレナさんが、振り向いて建物を見上げる。看板に目をやる。

 つーか、恋人たちの家ぇ?なんじゃそりゃ。

 って、そうか。そういや、そんなこっぱずかしい通称があるって聞いたな。この店。


「ちゃうちゃう。本当は、レストラン・ヴァハドーラってのが店名なんよ。」

「…えっ?!そ、それってつまり、えええっ?!」


 エレナさんが、口元を抑えてやたらびっくり仰天する。どうしたってのさ。


「どしたん?なんかまずかった?この店じゃだめだった?別のとこにしよっか。」

「いえっ、いえいえいえいえいえ!全然まずくないですだめじゃないです最高です!ぜひ!ぜひともここにしましょう!さあ行きましょうテス様!今すぐ!」

「あ、う、うん…。よくわかんないけど、喜んでくれて何よりだよ。」


 にわかに鼻息荒くしたエレナさんに引きずられるように、私はレストランの門をくぐった。

 なんとなく、おかしなことになっている予感を抱きつつ。

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