人生変えちゃうどきどきダンジョン
というわけで、こちらがそのダンジョンになります。
レジャー感覚で来たものの、道中モンスターはガッツリ出た。しかも、わりと強めの連中が。
こちとらお遊び気分なので、
「ボスがハッピー攻撃してくるダンジョンなんでしょ?風船持ったクマちゃんとか、立って歩く猫とかがお出迎えしてくれないかな」
と悠長に構えていたが、そんなことはなかった。火吹き羆が狂乱しながら突進してきたり、首無し猫の群れが壁から床から天井から這いよってきたりと、ハードな歓待を受けた。
「昏き昏きて闇夜に非ず 遠き遠きて冥府に非ず 音は聞こえず風も無く されば彷徨い朽ちるべし… 『アダムズ』!」
「風刃、一閃!でやあああっ!」
そんな並み居る魑魅魍魎どもを、ラニヤン姉妹が次から次へと打ち倒していった。
そして私は、そんな彼女たちを必死に応援した。
ちょっと離れた安全な場所から、一生懸命応援した。二人ともがんばって、と。
「愚者の指先滅びの徴 亡者の眼差し死の兆し… 『グリムイコン』!」
「ミレイちゃんふぁいとー。」
「刺突!刺突!刺突!斬撃!両…断!」
「いいぞーエレナさーん。」
しかし、そんな私の気持ちが届かないのか、ミレイちゃんはこちらを白い目で見るばかりだった。まったくこの人は、的な。
「気のせいかな。なーんか、キミから軽蔑の眼差しが向けられているような。」
戦闘が一区切りついたので、ミレイちゃんに小声で聞いてみた。
まあ普通に考えたら、先日ウルトラ大活躍した私が、軽蔑されるはずはないのだけれど。
われながら心配性だなとは思うが、けっこうデリケートなたちなのである。「そんなことないですよ」、そのひとことを聞いておきたかった。
するとミレイちゃんは、こちらの目を見て、大きくうなずいた。
「気のせいじゃないです。大正解ですよ。軽蔑というのは言い過ぎですが、まあ、『なんだこいつ』とは思ってます。」
そして、さらりとひどいことを言った。あんまりだ。
「そんなっ。納得いかないよ、こんなに一生懸命応援してるっていうのに!そりゃあ、戦闘こそサボりはしているけれど…。」
「それですよ。」
「はん?」
「前回あなた、最後に大活躍したじゃないですか。」
「うん。」
「あのときは『ああ、本当は凄い人だったんだ。やるときはやるタイプだったんだ。見直したな』って思ったんですが。」
「今はそうではない、と。」
「冷静に考えれば、やればできるのにやんないのって、余計むかつくなって。」
「あう…。」
手厳しい意見だ。「何もしなくていいって契約なのに応援がんばってえらいね」ぐらいのことは、言ってほしいものである。優しさが足りないよ。
「ていうか、『何もしなくていい』って言われて本当に何もしないなんて、どういう神経しているんですか。普通はこう、そうは言ってもでしょ。冒険者として。いや、大人として。」
「いやー、確かに私は大人だけど、心はいつまでも少女のままだから…。」
「はあ?」
はあ?ってキミ。こっちは一応年上なんですけど。
ミレイちゃんは、どこまでもつれない態度だった。ひどい。温厚な私も、だんだんウワーって気分になってきた。どうにかして、この生意気ガールをキャンと言わせることはできないものか。
と、そこで私は、あることを閃いた。
「はーやれやれ。ミレイちゃん、どうやらキミは、考え違いをしているようだね。」
大きなため息をつき、肩をすくめて見せる。
「なんですか、急にその感じ。」
「私はね、ただサボってるわけじゃないんだよ。これは、魔力を温存しているわけなのサ。それがひいては、みんなのためになると思ってね。」
「はい?」
「わからないかなー。私の強さの秘訣は、湯水のような魔力の大量消費。だから、普通の戦闘はキミらに任せて、いざってときのために魔力とっといてるって作戦なんだよ。そういう深―い考えがあるのさ、大人にはね!おわかり?」
ばーんと完璧な理論を叩きつけ、胸を張る。
「うわ…。一理あるだけになおさら腹立つ。絶対今思いついた理屈なのに、反論できない。」
「はっはっは。」
「あれー?なんだか楽しそう。いつのまにか仲良くなってます?」
年下を言い負かして高笑いしていると、少し離れた所にいたエレナさんが、こちらを振り返った。
「いやー、そんなそんな。ははは。ねえ。」
「そうだよ姉さん。楽しくもないし仲良くもない。」
「身もふたもない。」
「そうなの?あたしも混ぜてもらおうって思ってたのに。」
「まあどっちにしても、ここいらでちょいと休憩しようよ。思いのほかハードなダンジョンだし。休めるところで休んどかないと、もたないよ。」
「賛成ですけど、ずっと休んでた人がそれ言いますかね。」
というわけで、関係がギスギスしだしたところで、ひと休みとなった。
まあ、「遠慮のいらない関係になってきた」と、ポジティブにとらえることも出来よう。だいじょうぶだいじょうぶ。なんの問題もない。本当だよ。




