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さあ行こう、変なダンジョンに

 人生変えちゃうドキドキ体験をすることとなった。


 はなはだ不本意(というか面倒)である。

 私は元来、変化を好まないたちだ。

 髪型もめったに変えないし、呑むお酒もずっと同じ銘柄だし、服も似たようなのばっか着まわして、ご近所さんから「一生同じ服を着続ける女」という目で見られてるし。できうる限り、人生変えちゃわずに済ましたいのだ。

 だが、しかたない。これも仕事である。


 私が大恥かいて逃げ帰った数日後、ラニヤン姉妹がお金を持ってやってきた。トロル退治の分け前だ。そして、次の冒険の話になった。

 最終的に醜態を晒したので、解雇もやむなしかと覚悟していたから、それはよかった。次があってよかった。

 よかったのだが、その次というのが、人生変えちゃうドキドキ体験だというのだ。


「そのダンジョンに行くとですねー、人生変わっちゃうドキドキ体験ができるらしいんですよ。ね、一緒に行きましょう?」


と、エレナさんは言った。にこにこ顔で。


「え、嫌だけど…。」


と、私は答えた。


「なにその、うさん臭い上に漠然としたミッション…。ベヒモスとかがボスのダンジョンより、ある意味怖いんだけど。」

「怖くないですよー!ぜったい楽しいですって!ね、テス様、行きましょ?」

「いやだからね、もうちょい具体的にね…。」


 にこにこ顔で、ずいずい前に出てくるエレナさんをたしなめる。どうも彼女は、言葉より気持ちが先走るタイプらしい。私は困って、ミレイちゃんの方を見た。


「まあ要するにですね。変わった攻撃を仕掛けてくるボスがいるらしいんですよ。そのダンジョンには。」

「はあ。」

「いや、ボクもざっくりとしか話聞いていないんですが…。その攻撃っていうのが、要は、精神攻撃らしいんですね。精神攻撃のたぐいって、トラウマえぐるようなのじゃないですか。普通は。でも…。」

「そいつのは、そうじゃない、と。」

「はい。なんでも、やみつきになるくらい素敵な気分になる精神攻撃らしいんです。噂によると、『またあの攻撃くらいたい』という冒険者が続出しているとか。」

「へー。」


 そんな浮かれポンチな攻撃があるもんかい。

 と一瞬思ったが、よくよく考えれば変でもない。

 人は、ハッピーな気分になれば隙だらけになるものだ。油断を生じさせるための攻撃。そう考えれば、けっこう有効な技という気もする。現に、いまだ誰も攻略できていないことがその証拠だ。


「まー、確かにそりゃあドキドキ体験かもしれないね。で、なんでそれくらうと人生変わってしまうの?やみつきになって、日がな一日そのダンジョンをうろつく廃人になっちゃうとか?」


 正に人生変えちゃうドキドキ体験だ。そんなのに誘うんじゃないよ。笑顔で。怖いよ。


「それがですねー。その攻撃って、くらうとハッピー気分になるだけじゃなくって、その後の人生もハッピーになるらしいんですよー!開運とか、運気上昇的な?そういうやつらしいんです!」

「はあ?」


 さすがにそれは意味がわからない。

 精神攻撃くらって運気が上昇するって、なんだそりゃ。話の理屈が通っていない。

 人の運気を操るような攻撃。ないことはないが、そんな攻撃が可能なのは、神格クラスのモンスターくらいだ。

 でもまあ、あれだろう。単に噂がエスカレートして、尾ひれがついただけだろう。どうせ。その辺のダンジョンにひょいと神格モンスターがおりましたなんて、そんな馬鹿な話があろうはずもない。

 きっと、「人生変えちゃう『ような』ドキドキ体験」、最初そう言われていたものが、「人生変えちゃうドキドキ体験」と歪められて伝播したんだろう。


「だから、ぜひそのダンジョンに、テス様とご一緒したいなーって!楽しそうじゃないですかー?!攻略失敗しても、あたしから報酬出しますから!ね?」

「ふむー。つまり、一風変わったダンジョンに、ちょいとレジャー感覚で行ってみようってこと?」


 と言うと、ミレイちゃんが肩をすくめた。


「そうまとめられると、身もふたもないですが…。まあでも、そういうことです。不真面目だと言われれば、返す言葉もないですけど。嫌だったら断ってもいいですよ。全然。」

「別に不真面目だとも思わないけど。めんどいだけで…。」

「それでテス様、ど、どうです?!」

「いや、どうもこうも、行きますよ。キミ達の冒険についてくって契約なんだし。」

「やったー!」

「むほー。」


 と奇声を発したのは、ほかならぬ私である。

 エレナさんが、ピョンと飛び跳ねて抱きついてきたのだ。むほー。

 パジャマ逃亡の件で、好感度下がったのではないか。そう危惧していたが、今日のこの感じだと、どうやら全然大丈夫そうだ。

 いやむしろ、好感度が上がっているような気さえする。パジャマ着てたのがばれて恥ずかしくて逃げ帰った、その姿にキュンときたのだ。…というわけじゃないだろう。トロル倒したときの勇姿が、パジャマ逃亡の悪印象をまだ上回っていたのだろう。見せとくもんだね、勇姿。むほほ。


「……。」


 むほむほ言ってる私の横で、ミレイちゃんが、何やら憂鬱そうな顔をしていた。

 ちょっと気になったが、エレナさんの体の感触に夢中になっていた私は、何も声をかけなかった。

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