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第9話 高校時代の友達と

 6時ちょっと前に指定されたお店に着いた。最近できた居酒屋だ。もちろん、未成年だからお酒は飲まないけど、いろんなメニューが頼めるし、長居できるからここに決めたらしい。


 お店に入るとすでに里奈が来ていた。

「ここだよ!美鈴」

「里奈、早かったんだね」

「うん。10分も前に着いちゃった」

 里奈が遅刻することはなかったもんなあ。いつも早めに行動しちゃう人だから。


「真由はまだ?」

「あの子は支度に時間かかるから、遅いかもね」

 真由は逆に時間通りに来たことないもんなあ。

「こんなお店できたんだね。平日だから人少ないけど」

「でも、意外と7時過ぎると人が来ているようだよ。居酒屋じゃなかったら、ファミレスぐらいしかないしさ、ファミレスって知っている人に遭遇する率高いし、ここに決めたんだ」


「ふうん。だけど、真由も里奈も地元の大学にしたけど、東京行った子も多いから、そうそう会うこともないんじゃない?」

「就職組とたまにばったり会うんだよね。一昨日だって、そこのファミレスで夕飯を真由と食べてたら、田中にばったり会ったもん」


「田中って、真由が私に紹介してきた男?」

「そう。家業を継いで、葬儀屋になるらしい」

「へえ。腰抜けだったのに、なれんの?」

「あははは。デートの日に高熱出して、次のデートでは階段から落ちて骨折して、もう美鈴と付き合うのやめちゃったんだよねえ」


「笑い事じゃないよ。そんなのばっかりだった。あ、飲み物だけ頼んでいい?喉乾いた」

 私はウーロン茶を店員に頼み、ふうっと頬杖をついた。

「美鈴に真由がよく男を紹介していたけど、みんな災難にあっていたじゃない?一人事故にあった人もいた」

「ああ、うん。デートの時間になっても全然来なくて連絡も取れなくて、確か真由からラインが来て、事故ったみたいだって…」


「その頃から、美鈴と付き合う男は災難に合う。疫病神だみたいな、そんな噂が流れたんだよね」

「え?!何それ!聞いていないよ!」

「ああ、そうなの?本人には入ってこない噂だったんだ。真由も美鈴にはそれ言わなかったんだね。でね、真由が美鈴を紹介するって言っても、男のほうがみんな断ってきちゃうんだって。美鈴はもう彼氏もできないかもねって、真由がそんなこと言ってた」


「まじで?」

「地元じゃ、そんな噂流れるの早いじゃん?他の高校の子にあたっても、その噂を知ってて断られるんだって」

 彼氏を作りなって言って、真由がやたらと男を紹介してきたけど、ある時を境にぴたりとそういうことをやめたのは、そんな事情があったからなんだ。紹介するような男もいなくなったのか、もしくは私に彼氏を作るのを真由が諦めたのか…なんて、そんなことだろうと思っていたのに。


「お待たせ」

 ウーロン茶で乾杯を終えた頃、真由がやってきた。女友達に会うだけなのに、しゃれこんでいる。化粧もばっちりだし、髪形も可愛らしい。

「真由、卒業以来だね」

「うん。春休みもバイトしてたし」

 真由は座ると早速オレンジジュースを注文した。


「何食べる?食べ物はまだ注文していないよ」

「そうだなあ」

 みんなそれぞれが食べたいものを言い合い、オーダーした。そして、いきなり真由が私に男を紹介すると言い出した。


「え?なんで今頃」

「今頃じゃないよ。大学で知り合った男が合コン開くっていうから、美鈴も来なよ」

 ああ、もしかして地元の人じゃないから、私の噂も知らないってこと?

「いいよ。面倒くさい。コンパとか嫌いだし」

「そんなじゃ、一生彼氏できないよ!美鈴、神社の巫女とかやってるんでしょ?男と出会うチャンスないじゃん!」


「どうどう。真由、いきなりどうした?っていうか、真由は彼氏できたの?」

「彼氏っていうか、大学でいい感じの人を見つけたの。その人が合コン開いてくれるんだって」

「早いねえ」

「里奈はいいよ。黙って立ってるだけでも男が言い寄ってくるじゃん。私は積極的にいかないと、ゲットできないもん」


「真由、自分のことだけしてて?私はいいからさ、放っておいてよ」

 高校の頃は真由に感化されて、紹介された男とデートしようかと思っていたけど、いい加減放っておいてほしいなあ。


 私は出てきた焼き鳥をばくっと口に入れた。里奈はサラダを取り分けてくれている。

「一生結婚出来ないかもよ」

 真由が言ってきた。もう~~、大きなお世話だよ。

「見合い結婚っていうのもいいじゃない」

 里奈が取り分けたサラダを真由に渡しながらそう言うと、

「今時見合いとかある?」

と真由は顔を突き出して言ってきた。


「神主と巫女でコンパとかないの?」

 里奈はいたって冷静だ。サラダを食べながら聞いてくる。

「ないよ。でもさ、この4月から若い神主も来たし、まったく出会いがないわけじゃ」

「え?若い神主?顔は?イケメン?」

 なぜか冷静だった里奈のほうが興味津々だ。


「あ、一人は神主じゃなくて事務員みたいなもんだけど。神主は従兄だから」

「従兄でも結婚出来るんでしょ?イケメン?」

「どんな感じの人?美鈴好み?」

「女ったらしで、嫌いなタイプ!神主のくせに茶髪にしていてチャラくて大嫌いだわ」

「ふうん。で、もう一人は?」

 里奈は急にテンション下がって、また冷静に聞いてきた。


「もう一人は…、顔はイケてる。かなり整っている。背も高いし細身だし」

「そうなの?何歳?」

 いきなりまた里奈がくいついてきた。里奈ってイケメン好きだったっけ?

「悠人お兄さんと同じぐらいだって…。でも、性格悪いよ。意地悪で嫌味っぽくって」

「性格が少し悪いぐらいいいじゃない。年上だから、甘やかしてくれるかもよ?」

 真由がそんなことを言ってきた。


「性格が一番大事でしょ。口を開けば嫌味を言うんだよ。それも冷たく。ほんと、頭にくる。絶対に私のことバカにしてる。嫌っているのかもしれない…」

と自分で言って、ちょっと落ち込んできた。


「そうなんだ。美鈴はその人が好きなんだ」

「は?そんなこと言ってないじゃないよ、里奈」

「でも、従兄の話をする時と、顔が明らかに違ってたよ」

 にんまりと里奈が笑った。

「でも、見込みもないから。無理無理」

 そう言って私は、動揺を必死に隠しながらウーロン茶をごくっと飲んだ。


「何言ってんの。嫌われていようが、見込みなかろうが、これから頑張るんじゃない」

「頑張る?どうやって?」

 真由の言葉に私が聞くと、また真由は身を乗り出した。

「美鈴って、ノーメイクでしょ?化粧するとか、髪だって洗いざらしなんじゃない?ボサボサだし、いつ美容院に行った?その辺もちゃんとして、格好だってもう少しお洒落しなよ。Tシャツとパーカーにジーンズって、高校の頃から同じ服着てるよね」


「化粧の仕方もわからないし、それに、その人厚化粧嫌いみたいだし」

「薄いメークならいいんでしょ?別に厚化粧しろって言ってないよ」

「だけど、外側を奇麗にしたらなびくような男は好きじゃない」

「何言ってんの!じゃあ、美鈴はひげもじゃでむさ苦しい男が、いきなり髭もそってすっきりしたらどう?むさ苦しいままのほうがいいわけ?」


「う、う~~~ん。でも、その人はむさ苦しくもないし」

「さわやかなタイプ?」

 里奈が目を輝かせて聞いてきた。

「ううん。クールで、とにかく冷たい印象。でも、髪もすっきりしているし、小奇麗にしているとは思う」

「それじゃ、美鈴も頑張って奇麗にしなきゃ。つり合い取れないでしょ!」

 そんなに今の私って酷い?


「美容院はいつ行った?」

 少し落ち着きを取り戻し、真由も焼き鳥を食べながら聞いてきた。

「ちゃんと5か月前に行ってるよ!」

 ドヤ顔でそう言うと、

「はあ?5か月前に行ったきり?だから枝毛もできているんじゃない?」

と、私の髪の先を掴んで真由がほぼ叫びに近い声を出した。


「うるさいよ、ちょっと。だけどさ、巫女をしている時には髪の毛を一つにまとめているし、気にならないし」

「もうちょっと気にして!こんなにパサついて。安いシャンプー使ってるんじゃないの?」

「お母さんが買ってくるやつだもん」

「は~~~。高いの買ってもらいなよ」

 真由は思いきりため息をついた。


「いいじゃないの、美鈴の好きなようにすれば。このままの美鈴を好きだって言ってくれる男もいるかもしれないじゃない。だいたい真由はおせっかいをやきすぎだよ」

 そうだ、そうだ。

「だって、美鈴、運も悪そうだし、心配なんだもん」


「運が悪い?」

 何それ。

「変に男に夢を持っているところも心配だよ。まさか、まだ自分だけを愛してくれる王子様がいいとか言ってないよね?」

「王子様がいいなんて言ってないよ。だけど、大事に思ってくれる人がいいとは思っているよ。それのどこが悪いの?」


「もっと軽く考えたらいいのに。そんな出会いを待っている間におばあちゃんになっちゃうよ」

 いいもん。そうしたら龍神にもらってもらうから。なんて、そんなこと言えないけど。

 それに、思ってもいないし。龍神の嫁になろうなんて、これっぽちも思っていないし。


 心の中でつぶやきながら、今出てきた唐揚げをパクっとかじった。あ、美味しい。

 それからは、里奈が大学の話を始めた。こんなサークルが楽しそうだとか、変な先輩がいるとか。まだ数日しか行っていないのにもう大学になじんでいるんだなあ。


 いや、もっとすごいのは、2~3日で彼氏になりそうな人をゲットした真由だ。高校の時も遊びに行く時はメイクがばっちりだった。アイラインもマスカラもばっちりだから、本当はそんなに目が大きいわけじゃないのに、デカく見える。化粧を取った時に彼氏がどんなふうに思うんだろうって、そんなことをつい考えちゃう。


 きっと琥珀が嫌いな部類に入るんだろうな。厚化粧嫌いだって言ってたし、何かコロンもつけているみたいだし。

 里奈は素に近い。リップだけは赤いけど、その赤いのが似合っている。顔がもともと派手だから、特に化粧をしないでも、下手すりゃ素顔のほうが美人なくらいだ。


 明るくて、元気で、琥珀が好きなタイプかな。いや、清楚でおとなしいのとは違うから大丈夫かな。ん?大丈夫って何が?


「その神主に会ってみたいな。いつでも行けば会える?」

「へ?神主って修司さん?」

「修司さんっていうの?」

「うん、従兄の女ったらし」

「違うよ。クールなイケメンのほうだよ」


「里奈、興味あるの?」

 真由が聞いてきた。

「でも、横恋慕はダメだよ」

「嫌だな、真由。見てみたいだけだよ。真由だって興味ない?クールなイケメン」

「ある!よし、見に行こう。里奈、明日は暇?」

「新歓あるけど、昼間なら空いてる」


「じゃあ、神社にお参りついでに行くから、よろしくね」

 真由はそう言って、思いきりにっこりとほほ笑んだ。里奈もニコニコ顔だ。

 

 まじで?まじで琥珀に会いに来るの?会ってどうするの?

 え~~~~。どうなっちゃうわけ?


 私はまだ、うんとも何も言っていないのに、二人はなぜか、何を着ていくかだの、何時に待ち合わせるかだの、来る気満々になっている。


 わ~~~。会わせたくない。よくわかんないけど、会わせたくないよ~~~。


 それも里奈。きっと琥珀は真由は苦手なタイプだと思うけど、里奈はわからない。だって美人さんだし…。


 モヤモヤしながら二人と別れ、私はバスに乗り、山守神社前の終点で降りた。ここまで来る人は私以外にいない。何しろ、神社の周りには家がないからだ。ひとつ前の停留所辺りには何軒か家が建っているから、時々そこまで人が来ることもあるけれど。今日も一人だけ、一つ前の停留所まで乗ってきていた。


 終点で降りてから、5分くらい上り坂を歩く。山守神社前という停留所のくせに、実際は神社の真ん前じゃない。坂道を5分は歩かないとならないのだ。まあ、しょうがないと言えばしょうがないかな。神社の前の道が塗装されたのは1年前で、それまでの終点の場所と、わざわざこっちの都合で変えてくれたりはしないってもんだ。


 それに、神社まで石の階段も上る。階段の周りにも木が鬱蒼と生えていて、街灯はあるものの、結構暗い。まだ9時前だというのに、辺りは暗闇が広がっている。

 人家がないからとっても静かだしなあ。ここ、高校生の頃から帰ってくるのが怖かったんだよなあ。


 石段を上りだすと、なんだか後ろから気配を感じた。誰かがついてきている?

 実は何度もその気配を感じたことがあって、そのたびに怖くて私は走って石段を上がった。鳥居をくぐってから振り返ると誰もいないんだけれど、いつも誰かがついてくるような感覚があった。


 鳥居をくぐるまで怖くて振り返れない。今日もまた、振り返ることなく石段を上っていると、

「おい」

といきなり前から声がして、私は驚きのあまりひっくり返りそうになった。

「遅かったな、迎えに行こうかと思ったぞ」

 鳥居から、琥珀の姿が見えた。


「琥珀!!!!」

 思いっきり安心して、私はダッシュで琥珀のもとに近づき、思わず琥珀の胸にダイブしてしまった。

 うわ。抱きついちゃったよ。どうしよう!!??



 


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