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第84話 体の異変?!

 夏休み、悠人お兄さんと里奈は、週に一回はデートをするようになった。とはいえ、半日デートだ。それでも、里奈は嬉しいらしく、ラインや電話で報告をしてくる。


 悠人お兄さんも、デートの日もその翌日も、里奈がシフトに入っている日もわくわくしているのがわかった。二人がいい感じで私も嬉しかった。


 私と琥珀も、最近は一緒にいるのが当たり前みたいな感じだ。家族の中に琥珀も溶け込んで、食事の時間も家族の一員。敬人お兄さんとも琥珀は時々楽しそうに会話をしている。


 そして、琥珀は好きなものが増えている。冷たいお蕎麦、そうめん、暑いからかそんなあっさりとしたものを好み、神の世界でも作らせようと食べるたびに言っている。そんな琥珀の隣で、私はそうめんですら食べられなくなった。


「どうしたの?美鈴ちゃん。夏バテ?食欲ないの?」

 一口、二口だけでお箸を置くと、おばあちゃんが心配そうに聞いてきた。

「うん、ごめんね。なんだか全然食べる気がしなくて」

「大丈夫?」

「そう言えば美鈴、顔色も悪いな。青白いぞ」


 真ん前に座っているお父さんがそう聞いてきた。琥珀も私の顔をじいっと見ている。

「なんだか、だるいし…。もう部屋で休むね」

「そうだな。一緒に行こう」

「琥珀はいいよ、食べてて」

「俺も食べなくても大丈夫だ」


 琥珀は私に寄り添うように部屋まで一緒に来てくれた。他のみんなも心配そうに私を見ていたなあ。


 部屋を開けると勝手にまた布団が敷かれ、私は布団に横になった。

「掛け布団はいらないか?暑いだろう?」

「ううん、薄い布団かタオルケットがほしいな。なんだか、体が冷えている気がするの」

「体が冷える?」


 薄い布団が勝手に押し入れから出てきて、私の体の上に掛かった。琥珀は私の寝ている横にあぐらをかき、私の額に手を当てた。

「体温が下がっているようだな…」

「私の?なんで?」

「わからないが…」


「琥珀、なんだか眠くなってきた」

「眠い?!」

「うん。だるいし、体が重いし、眠い…」

「神のエネルギーになったというのに、なぜ眠くなるんだ。わからんな」

 琥珀は眉間にしわをよせ、

「美鈴は心配するな。親父にどうしたらいいか聞いてくる」

と、私を残し、突然消えた。


 琥珀がいなくなって、ズドンといきなり不安が押し寄せてきた。きっとお社に行っただけだ。それがわかっているのに、この不安は何だろう。でも、それよりも眠気に襲われ、一気に私は深い眠りに陥った。


 なんだか不思議な夢を見た。光から声がする。誰だろう。そして何を言っているかわからなかった。でも、その光は私の体内から放たれていた。


「美鈴、大丈夫なの?」

「青白い顔をして…。熱はなさそうだけど、体が冷えているんじゃないのか?」

「このまま、目を覚まさなかったら…」

「朋子、縁起でもないことを言うな!」

「どうしたんだよ、美鈴!医者呼んだ方がいいのか?」



 うるさいなあ。なんなの?人がせっかく眠っているのに。それも、気持ちのいい夢を見ているのよ。光に包まれて温かくって、なんだかふわふわしていて、天国にでもいるようなそんな気持ちだったのに。


「琥珀君はどこに行ったんだ?」

「わかんねえよ。それより、医者!」

 うるさくてパチリと目を開けると、目の前にお母さん、お父さん、悠人お兄さん、敬人お兄さんの顔が見えた。

「どうしたの?みんな揃って」

「美鈴!」

 みんなが一斉に声を上げた。


「心配で見にきたのよ。琥珀君が一緒にいるかと思ったらいないし」

「あ~、良かった!目を開けた。じゃあ、大丈夫だな?それとも病院に行くか?」

「まだ青白い顔をしているけど、どこか痛いところでもある?」

「美鈴、食欲もないって、どうしたんだ?」


「いっぺんに話さないで。頭が痛い…」

「ごめん、美鈴」

 みんなが黙り込んだ。でも、

「頭痛いの?大丈夫?」

とお母さんが心配そうに声を潜めて聞いてきた。


「うん、頭が痛くてだるくて…」

 ドックン、ドックン!

 ん?心音がどうしてこんなに大きく聞こえるの?それに窓の外から聞こえてくる風の音もいつもより大きい。そんなに風が強いの?


 みんなの声もうるさかった。それに、なんなのかな、このザーっていう雑音は。雨の音なの?でも、私の体内から聞こえてきている。


「やっぱり、病院に行った方が」

「いや、それより琥珀君を探そう。琥珀君ならわかるかもしれない」

「なんだって、こんな状態の美鈴を置いて琥珀君はいなくなったんだ?どこにいるんだ?」

 ああ、みんなが喋るとまたうるさい。


「美鈴…」

 そこにスッと琥珀が突然姿を現した。

「琥珀君!どこに行っていたの?」

 う~~。お母さんの声うるさいよ~~~。ズキンズキン。頭が痛む。


「なんだ?みんな揃って」

「美鈴が心配で来たのよ!それより、美鈴、どうにかなっちゃうんじゃないでしょうね?青白くなって、体も冷たいみたい…」

「お、お母さん、ちょっと声大きすぎる。頭痛いよ」

 私がなんとかそう言うと、お母さんは私を振り返り、

「そんなにうるさかった?」

と静かに聞いてきた。


「頭痛がするって言っているんだから、もっと静かに話せよな。母さん、もともと声がでかいんだから」

 敬人お兄さんがすごく声を潜めてそう言ったが、その声も大きく感じる。


「美鈴…。どうだ?調子は」

 あれ?琥珀の声はなんて気持ちのいい声なの?とても心地いい。うるさいと感じない。

「だるいし、頭も痛いし…。それに、心音とかザーッと言う雑音が聞こえるの」

「そうか」

 琥珀は優しい表情で私のすぐ近くまで来るとしゃがみ込み、私のお腹を触った。


「ああ、本当だ…。ちゃんとエネルギーを感じる」

「琥珀君、何をしているんだい?」

 お父さんが聞いた。他のみんなも琥珀に注目している。

「すでに神のエネルギーになった美鈴は、眠らなくてもいい体になっていた。だが、眠くなったりだるくなったり、体温が下がったりしたから親父に原因を聞きに行ったんだ」


「神の世界に戻っていたのかい?」

 悠人お兄さんが聞くと琥珀は首を横に振り、

「いいや、社は向こうの世界と繋がっている。そこでちゃんと聞いてきた」

と答えた後、一呼吸おいてから話しを続けた。

「おふくろも言っていたから間違いはない。美鈴は龍の子を宿している」


 え?龍の子を宿す?


 みんな一瞬目を点にした。でも、次の瞬間、

「赤ちゃんってこと?」

「妊娠したのか?!」

と一斉に声を上げ、またうるさくて頭がガンガンした。


「いった~~~」

「美鈴、もしかして声がうるさくて頭痛がするのか?」

「うん、琥珀。いつもよりも音がよく聞こえているみたい」

「ああ。やっぱりな。龍神の子がお腹にいるから影響を受けているんだ。体温が下がったのもそのせいだ。子に合わせ、体温も低くなり、龍神の持っているパワーが美鈴にも影響を与えている」


「龍神のパワーって何?」

 他のみんなは黙って琥珀の話を聞いていたが、私は気になり琥珀に聞いた。

「例えば、音が人間よりもよく聞こえる」

「ああ、そうか。琥珀、地獄耳だもんね」

「心音は美鈴の心音ではない。龍の子の心音だ。ザーッという音はきっと、美鈴の体の中の音だ。血の流れる音とかだな」


「え?そんな音が聞こえているの?」

「美鈴が聞いているというより、お腹の子が聞いている音を美鈴も同時に聞いているのかもしれない」

「へえ…。龍神のパワーの影響か。他には何かあんの?特別な力」

 敬人お兄さんが興味津々にそう聞いた。

「食欲がなくなったのもそうかもしれない。龍神は人間の食べ物を食さないからな」


「琥珀さん、食べてるじゃん」

「食べれないわけではないが、食べないでも生きていられる。エネルギーを受け取って生きているんだ」

「エネルギー?」

「そうだ。太陽のエネルギー、大地のエネルギー。そういったエネルギーだ」

「美鈴も、食べなくなるってこと?」

 お母さんが驚きながらそう琥珀に聞いた。


「ああ。だから、食欲が失せたのだ。食べるのが好きな美鈴には辛いだろうがな」

「いいよ、別に。だって、本当に食べたくないんだもん。でも、どうして眠くなったの?」

「最初の内だけ龍神のパワーがまだ体に合わなくて、だるくなったりしているんだそうだ。調節をしている間、体を休めるために眠くなるとおふくろが言っていた。だから、眠たくなったらちゃんと寝るといい」

「うん」


「妊娠…。美鈴が龍の子を…」

 お父さんがぼそぼそと呟いた。お母さんもなぜか青ざめ、

「龍を美鈴が産むってこと?そんなこと出来るの?だいたい、どこの産婦人科に行けばいいの?生まれてきたら龍でしただなんて、みんなびっくりして大変な騒ぎになるじゃない」

と琥珀に問い詰めた。


「人間界では産まない。この世界で産むことはできない。だから、その前に神の世界に行くのだ」

「……そうだったわね」

 お母さんの表情が曇った。

「でも、大丈夫なの?美鈴の体は大丈夫なの?こんなに青白くなって体温が低くなるだなんて」


「心配はいらない」

「そうは言っても、お腹にいるのは人間の子じゃないんでしょ?」

「お母さん、声でかい」

 私が頭を抑えながらそう言うと、お母さんは黙った。


「美鈴なら大丈夫だ。それに、美鈴は病気になることもないし、俺と同じだけの寿命を生きる。寿命が来るまでは死ぬこともない。無事、子を産む。だから、安心していい」

 琥珀は優しくお母さんにそう答え、私の頭を優しく撫でた。

「あ、頭痛が収まった」

「もう大丈夫だ。また頭痛がしたら、俺が治す」

 そうか。琥珀にはそんなパワーがあるんだもんね。


「美鈴が眠そうだから、みんな部屋から出てくれないか。多分、しばらくは寝たり起きたりを繰り返す」

「わかった。琥珀君、美鈴をどうか頼んだよ」

 お父さんと兄たちは静かに部屋を出て行った。最後にお母さんだけが残り、

「美鈴、何か欲しいものとかあったら言ってね。食べれなくても水とか欲しいでしょ?」

と聞いてきた。


「ううん、なんにもいらない」

「もともと俺らは水すら飲まないでもいられるのだ。心配はいらない。美鈴には俺がずっとついている」

「そう…。わかったわ」

 お母さんも琥珀の言葉にようやく部屋を出て行った。


「琥珀…。私のお腹に本当に琥珀との赤ちゃんがいるの?」

「ああ。ほら、お腹に手を当てて見ろ。あったかいだろう?」

 言われるがままお腹に手を当てた。本当だ。あったかい。それに光を感じた。そうか。夢の中で見た光は赤ちゃんだったんだ。


「不思議…。こうやって手を当てるだけであったかいなんて。それに、寝ていた時、光に包まれてとっても気持ちよかったの」

「お腹の子のエネルギーだな。さすが龍神の子だ。母をちゃんと護っているのだな」

「もうお腹にいる時から護ってくれているの?」

「そうだ。お腹にいる時から、自分の母親を愛しているからな」


「琥珀もそうだったの?」

「ああ。不思議とお腹にいる時の記憶がある。おふくろの愛に包まれていてあったかかったし、自分もおふくろを光で包んでいたのを覚えている。あれは人間界にいる時の記憶だ。神の世界ではおふくろを護る必要もないが、人間界では邪気からおふくろを護るということを本能で知っていたのかもしれないな」

「邪気?」


「ふ…。親父もそばにいたし、おふくろもすでに神のエネルギだったんだけどな。だが、人間界には邪気があることを多分俺は知っていたんだと思う」

「赤ちゃんの時から?それも、まだ生まれる前から?」

「ああ。だから、おふくろを護っていた。美鈴のこともお腹の子が護ろうとしている」

「…なんだか、生まれる前から護られているだなんて感激だな」


 嬉しくて涙が出そうになった。そんな私に優しく琥珀がキスをした。

「ずっとそばにいるから安心して眠るといい」

「うん。ごめんね、一緒に起きていられなくて」

「大丈夫だ。俺なら慣れている」

 琥珀は私の頭を優しく撫でてくれた。不思議と安心して私はすぐに眠りについた。




 


 

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