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第67話 彩音ちゃんにバレた!

 修司さんは、しばらく呆けていたが、

「あはははは。ひいおばあちゃん、笑わせるなよ」

と大笑いをした。お腹まで抱えて笑っている。


「本当のことなんだよ、修司君。そして、美鈴は龍神の嫁になるんだよ」

「え?」

 お父さんの言葉でぴたりと修司さんは黙り込んだ。そして真剣な顔をすると、

「それって、本当のことだったの?父さんに聞いたことがあって、でも、父さんも信じていなかったよ」

とお父さんに聞いた。


「本当のことじゃ」

 お父さんではなくひいおばあちゃんが答え、

「なあ、琥珀君」

とひいおばあちゃんは琥珀に話を振った。琥珀はただ頷いただけだった。


「嘘だろ?美鈴ちゃん。琥珀さんが龍神で、美鈴ちゃんがその龍神の嫁って、いくらなんでも令和のこの時代、そんな話信じられるわけないよ」

 修司さんは顔を引きつらせ、

「それ、敬人は知ってんの?あいつ、昨日は何にもそんなことに触れなかったぞ?!」

と、大声を出した。


「いや、知らないよ。琥珀君が龍神だってことは、みんな今朝知ったばかりだ」

「じゃあ伯父さん、美鈴ちゃんが龍神の嫁になるとかそんなとんでも話、敬人は知ってるわけ?」

「それは悠人と敬人に、話したことがある。敬人が15の頃だ。信じたかどうだかは、わからないけどね」

 お父さんの言葉に、修司さんはゴクリとつばを飲み込み、

「あいつ、このこと知ったら、今すぐに日本に帰ってくるよ。あいつ、ああ見えて美鈴ちゃんのことは大事に思っていたし」

と、さっきよりも真面目な様子で静かにそう言った。


「今の、本当のことなんですか?」

 居間の入り口から、弱々しい声を聞いてみんなが振り返った。

「彩音ちゃん?!」

「今の話を聞いていたのか?」

 みんなが一斉に驚きの声を上げた。私も思わず声を上げたが、琥珀は振り返ることもなく静かに黙々とご飯を食べている。


「こ、琥珀、今の話を聞かれた」

「だから、どうしたと言うのだ?」

 琥珀!何を暢気にしているわけ?彩音ちゃんは琥珀のことが好きで…。って、そうか。別に困ることではないのか。かえって彩音ちゃんが、琥珀を諦めるかもしれないから、知ってもらった方がいいのか。


「美鈴ちゃん、もう龍神のお嫁さんになることを決めたの?前にならないって言ってたけど…」

「決めたのじゃ。彩音。もう決まったことだから口出しは無用だ」

 ひいおばあちゃんが、しっかりと彩音ちゃんに釘を刺した。


「でも…」

「それより、彩音ちゃんもお昼食べる?休憩に来たんでしょ?」

 おばあちゃんが立ち上がりながら聞くと、

「はい。社務所に悠人さんが来て、お昼食べに行っていいよって…」

と、彩音ちゃんは顔を青くしたままそう答えた。なんだか、目が泳いでいるし、心ここにあらずっていう感じにも見える。


「さては、悠人、里奈ちゃんと二人になりたかったのだな。ひゃっひゃっひゃ」

「え?悠人さん、里奈って子のこと気に入ってんの?」

「そうじゃ、修司。それも、里奈ちゃんも悠人に気があるみたいでのう」

「あの二人はデートもしているし、もう付き合っているんだよ、おばあちゃん」

「お父さんも知ってたの?」


 びっくりして思わず私が聞くと、

「なんだ。美鈴も知っていたのか?そうか。あの里奈ちゃんなら、神門家に嫁いでもしっかりとやっていけそうじゃな。どうだ?琥珀君。里奈ちゃんは神門家の嫁として合格か?」

とひいおばあちゃんが、暢気にそんなことを琥珀に聞いた。

 琥珀も暢気な顔をして、

「ああ、そうだな。なかなかの強いエネルギーを持っている。神門家に嫁いでもやっていける」

とひいおばあちゃんに答えた。


「ひゃっひゃっひゃ。龍神のお墨付きとあれば、大丈夫じゃな。直樹、悠人の嫁が決まったぞ。良かったのう」

「彩音ちゃん?」

 お父さんがひいおばあちゃんの言葉に返事せず、突然私の後ろの方にそう叫んだから、私も慌てて振り返って彩音ちゃんを見た。でも、彩音ちゃんはそこにはいなかった。


「お父さん、彩音ちゃん、どうかしたの?」

 また振り返ってお父さんに聞いた。

「青い顔をして、廊下を走って行ってしまった。外に出て行ったんじゃないかな」

 玄関の扉が閉まる音がしたから、それはみんなもわかっていた。


「ひいおばあちゃんも琥珀も、暢気に里奈とお兄さんの話している場合じゃなかったよ。彩音ちゃん、琥珀が龍神だって知って、ショックを受けたんだよ」

「美鈴だって一緒に話に加わっていたではないか」

「そ、そうだけどさあ」


「なんでまた、ショックを受けるんだ?そりゃ、俺もびっくりしたけど」

 修司さんはキョトンとしている。

「彩音は琥珀を好いていたのか。まあ、人間とは思っていなかったかもしれんが、龍神とも思っていなかっただろうなあ」

「ひいおばあちゃん、何それ?彩音ちゃんは琥珀さんを好きだったってこと?それも、人間とは思っていなかったって何それ?!」


「修司は相変わらず、好奇心旺盛だのう。それにしても、この神社に来てからの記憶が全部ないんじゃな?」

「うん、ない。ぼんやりとカスミかかっているみたいにさ。で、人間じゃないとか、なんでわかるの?」

「まあ、それはみんな薄々と勘付いてはいたんだよ。何しろ色々と不思議なことを琥珀君はやってのけたからね。狐の妖もやっつけたし」

 お父さんが、ひいおばあちゃんの代わりに答えた。ひいおばあちゃんは暢気にお茶をすすっている。


「俺に憑りついていたやつか。俺、琥珀さんは陰陽師か何かかと思ったよ」

「かつて、陰陽師は確かにこの辺にもいた。だが、今はいない」

「そうなんだ」

「だから!そういう暢気な話をしている場合じゃないってば!」

「美鈴、そっとしておいてやれ。彩音の恋が終わったのだ。そっとしておいてやるのが一番じゃ」

 ひいおばあちゃんは、湯飲み茶わんをテーブルに置くとそう言った。


「彩音ちゃんにとって、叶わぬ恋ってやつなんだ。まあ、龍神だし、すでに美鈴ちゃんという嫁もいるわけだし。あれ?もう結婚したの?違うよね?だったら、彩音ちゃんにもチャンスはあるってこと?神門家の血を引き継ぐ娘が、龍神の嫁になるんだったら、彩音ちゃんも条件にはまるってわけだろ?」

「そうじゃな。それも、彩音の方が美鈴より先に生まれておるしな」


 ひいおばあちゃんも、修司さんも、どうしてそんなことを言うの?琥珀が、やっぱり彩音ちゃんの方がいい。美鈴のことは嫁にしないとか言い出したらどうするのよ。


「ウメも修司もバカなことを言うな。美鈴が不安がる」

「ひゃっひゃっひゃ。こりゃ、美鈴を大事に思っているってことだのう、琥珀君」

「当然だ。美鈴以外は俺の嫁になどなれん。彩音は笹木家の人間だ。神門家ではない」

 琥珀はとっても冷静にそう言ってのけた。


「条件に当てはまらないってこと?」

 修司さんが聞いた。

「ああ。条件も何も、美鈴が嫁として生まれたのだ。それは決まっていたことだ。彩音が同時期に生まれたのは、笹木家の苦しみを開放させるためであろう。きっと、それも決まっていたことだ」

「誰がが決めたわけ?琥珀さんってこと?神が決めたっていう事?」

「俺ではない。もっと大いなるものだ」

「……よくわかんないけど」

 修司さんがぼそっとそう呟いた。でも、私にはなんとなくわかっていた。なぜかわからないけれど。


 それにしても、みんな放っておいていたけれど、私は彩音ちゃんのことが気になった。お昼を食べに来たのに結局食べていないし…。本当に放っておいていいのかなあ。



 13時になる前に、社務所に戻った。でも、彩音ちゃんはいなかった。

「悠人お兄さん、彩音ちゃん来なかった?」

 里奈と二人のところを邪魔して悪いけど、私はすぐにそう聞いた。

「うん。なんで?お昼食べに行ったよね?」

「そうなんだけど、実は琥珀が…」

 あ、里奈が聞いているからここでは言えないな。


「なんでもない。ちょっと探してくる。だから、もう少し悠人お兄さん、ここにいてね」

「うん、いいけど」

「琥珀さんと彩音ちゃん、何かあった?美鈴、頑張ってよ」

「え?何が?」

 悠人お兄さんがキョトンとしている。


「美鈴のライバルなのよ」

「彩音ちゃんが?まさか、琥珀君が好きってこと?」

「そう。もしかして今、琥珀さんにコクっているのかもよ?」

「それはないと思う。琥珀、姿消したし」

「消した?どういうこと?」

 里奈が不思議がって聞いてきた。


「あ、消したって言うか、いつも境内のどこかに行ったかわからないんだよねえ、えへへ。とにかく、彩音ちゃんの様子がちょっと変だったから、探してくる。もし、こっちに戻ってきたら教えてね。お昼も食べていないと思うから」

「わかったよ」

 悠人お兄さんに頼んで、私は社務所を出た。


 琥珀が彩音ちゃんにつかまっていることはないと思う。どっちかって言えば、彩音ちゃんと話したりするのを琥珀は嫌がりそうだし。嫌がるって言うか、面倒くさがりそう。


 境内の中を探していると、山吹が丁寧に箒で掃除しているのを見かけた。

「山吹」

「美鈴様。どうかしましたか?」

「ううん。ちゃんと掃除をして偉いなあって思って」

「はい。ただ、昨日よりも今日は、境内がやけに奇麗なんですよ。そんなに頑張らないでも、すでに奇麗になっていて…」


「そうなんだ」

 もしや、琥珀の力が増したからとか?

「それより、彩音ちゃん見なかった?」

「彩音というのは?」

 うそ。覚えていないのか!


「女の子で、私と同じくらいの年齢の子」

「さあ?こっちには誰も来ていません」

「ありがとう」

 私はお社の方に向かった。お社にはおじいちゃんがいた。

「あ、おじいちゃん、彩音ちゃん来なかった?」

「来ていないよ」

「わかった」


 境内はお祭りの準備で、作業をする人もたくさんいた。事務員さんも買い物から戻ってきたようで、その人たちに何やら指示を出していた。

「すみません、忙しいところ。彩音ちゃん来ませんでしたか?」

「彩音ちゃん?さっき、鳥居から出て行ったようだけど。何か用事でも頼まれたかと思ったけど、違った?」

「鳥居から外に?」


 私は慌てて鳥居に向かった。まさか、帰っちゃったのかな。もし、バスの時間がまだなら、まだバス停にいるかな。


 鳥居から出ようとすると、

「彩音を探しているのか」

と、後ろから琥珀が声をかけてきた。

「そう。もしかしたら、バスで帰ったかもしれないんだけど」

「まだここいらにいるぞ。バス停ではなく、山の方に向かって行った」

「琥珀、なんで止めないわけ?危ないじゃん!」

「精霊たちには頼んである。いざとなったら呼びに来る」

 なんなの、それ~~!薄情だなあ。


「美鈴様、境内から出られるのですか?」

 そこにあーちゃんとうんちゃんがどこからともなく現れた。

「うん」

「ですが、霊力が高いのですから、どんな妖に狙われるかもわかりません。境内の中なら、琥珀様の力で護られていますが…」


「大丈夫だ。阿、心配するな。美鈴はもう妖にやられるような人間ではない。すでに神になった。妖もそれに気が付き、恐れおののいて逃げていく」

「え?!神になった?!」

 わあ。それ、祝言を挙げたって言うの、丸わかりじゃない。きゃあ、恥ずかしい!


「おめでとうございます。琥珀様。そうか!だから、琥珀様の力が上がって、わたくしたちも前よりも力が増したんですね。結界の力も増したし、何かあったのかとは思いましたが」

「美鈴様もおめでとうございます!これで、琥珀様も一人前の龍神ですね」

 あーちゃんとうんちゃんがそう言うと、目を潤ませた。


「狛犬たち、礼を言う。今まで半人前の俺のためによく頑張ってくれたな。お前たちの力も半減していたが、もう大丈夫だ。お前たちの力も100に戻ったからな」

「はい!力が蘇ったのを感じます!」

 そうなのか。琥珀が半人前だと、琥珀に仕えている神使まで力が半減するのね。


「あれ?じゃあ、私はもう妖に狙われることはないの?」

「ああ。馬鹿な妖が美鈴が神だと気づかず近づいても、龍神の力で跳ね返す」

「彩音ちゃんは?」

「彩音はまだやられる可能性がある」

「それじゃ、危ないってこと?大変!」

 私は慌てて鳥居から出た。

「何かあれば、俺を呼べ」

 後ろから琥珀の声が聞こえた。琥珀は来ないのか。まだ鳥居から出ることはできないのかな。


 


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