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第60話 琥珀の両親とご対面

 琥珀とお社に行き、中に入った。琥珀が何やら唱えると、お社にある鏡がいきなり光りだした。

 うわ。まぶしい!目を開けられないくらいだ。でも、その光が穏やかな光に変わり、

「琥珀か」

という低い声が聞こえてきた。


「誰?もしかしてお父さん?」

 私は隣にいる琥珀にひっつき、小声で聞いた。

「そうだ。親父、今日は美鈴もここにいる」

「お~~~!美鈴ちゃんか。われの声が聞こえるのか!」

 いきなり、声のトーンが高くなったような…。


「はい。初めまして、美鈴です。えっと、よろしくお願いします」

 私は思いきり頭を下げた。

「まあ、美鈴ちゃん」

 今度はとっても優しい声が聞こえてきた。もしや、お母さんのお千代さん?


「あ、あの、初めまして!こんにちは。お、お初にお目にかかります」

「ははは。美鈴、そんなに畏まらなくてもいい。親父もおふくろもとって喰ったりしないし、安心しろ」

「まあ、琥珀ったら。変な云い方をしないで。とって喰うなんて美鈴ちゃんが思うわけないじゃないの。美鈴ちゃん、こんな琥珀だけどよろしく頼むわね」


「ははは、はい。こちらこそです!」

 うわ~~~。緊張して喉がカラカラだよ。

「美鈴ちゃん、可愛いねえ。琥珀が溺愛するのもわかるよ」

「親父!そういうことはいいから、今日は調べてほしいことがあって呼んだんだ」


「ああ。聞こえていたよ。美鈴ちゃんの指摘はもっともだ。笹木彩音のことだろう?」

「すみません!私生意気なことを言いました」

「いいんですよ。この人はどこか抜けているところがあるんですから。それで、笹木家のある土地神の様子を見ればいいのね?琥珀」


 お母さん、旦那さんのことを、それも龍神のことを軽くマヌケ扱いした。旦那さんを立てている感じ、まったくしないんだけど…。


「そうなんだ。もしかしたら、神社に神がいるかどうかも危ぶまれる」

「神社自体が機能していないのかもしれんな」

「どういうこと?琥珀」

 私はまた小声で聞いた。

「神社というのは、人間が参拝に来るから神がいるのだ。誰も人間が来なかったり、そこに神主もいなかったり、荒れ果てた神社には神がいなくなる。神が消失することもあれば、逃げ出すこともあるのだ」


「消失?逃げ出す?神様が?!」

「そうだ。神というのは人間ありきだ。中には人間によって神になったものもいる。生きているうちは人間だったが、死んでから人間に祀られ、神になったものもいるだろう?」

「あ、そうね。天皇とか、菅原道真とか」


「まったく人間が来なくなり、忘れ去られるとともに消えてしまう神もいれば、消えるのを嫌がり逃げ出す神もいる」

「逃げてどうするの?」

「まあ、神の世界で過ごしている神もいるし、他の神社に親父みたいな全体を司っている神に命じられ、赴く神もいる」


「そうなんだ。でも、消えちゃうなんて悲しいね」

「そうだな。だが、人間のすることだ。そこまでは親父も干渉できない。人間に神を祀れとか、神社に参拝しろだの、命じることができないんだ」

「そうなの?なんとかできないの?」

「こっちの世界に人間の姿でやってこれる、俺みたいなものが動くしかない。美鈴も人間の間に手伝ってくれ」

「うん。もちろんだよ」


「そう?美鈴ちゃんも手伝ってくれるのね。ありがとう」

 お千代さんの優しい声が社に響いた。

「いいえ!だって、彩音ちゃんは私の従姉だし、助けたいし、逆に琥珀のお父さんやお母さんにも協力してほしくって、よろしくお願いします」


「わかっているよ、美鈴ちゃん。早速調べよう。わかったら琥珀を呼ぶ」

「ああ、親父。頼んだぞ」

 そして、穏やかな光が消えた。琥珀はお父さんにも、相変わらず偉そうに話すんだなあ。


「美鈴?そこで何をやっているの?」

 ギョ!お母さん?またお社に勝手に入ってと怒られる?お母さんがお社の前で怒っているのが見える。

「龍神に挨拶をしていたのだ」

 琥珀がすぐさまそう返した。


「龍神に挨拶ですって?まさか、嫁になるとかそういうこと?」

「まあ、嫁になるのは決まっているからな。ちゃんと挨拶くらい済ませてもいいだろう?」

「勝手にそういうことはしないでと言ったでしょう?」

「勝手に連れていくことはしない。安心しろ」

 琥珀は少し怖い声でそう答え、私の背中を抱き、お社の裏にある戸へと向かった。


 お母さんにはあの光が見えたわけじゃないのかな。気になりそっと琥珀に聞くと、

「人間には見えないし、時間も止めていた。光が消えた瞬間から時間が進みだしたのだ」

と琥珀も小声で教えてくれた。





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