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第5話 まさかの妬きもち?!

 無理だよ。皆のために自分を犠牲にする人の精神がわからない。私には絶対に無理。

 ひいおばあちゃんの話を聞いて、頭がガンガンしてきた。なんだって昔の人は自分を犠牲にしたり、自分の娘を犠牲にできたりしたんだろう。


 ひいおばあちゃんは私が真っ青になっていることに気づいているのかいないのか、話をつづけた。

「美鈴、その若い神主はな、お千代さんを攫おうとして本性を現したんだ。これはじいちゃんだけじゃない。その時その場にいた人がみんな見たらしい。若い神主がどこからともなく風のようにやってきて、白無垢姿のお千代さんの前に立ちはだかった。それをじいちゃんも、お義父さんも他のものも止めに入った。その時に神主は姿を狐に変えたんだ。普通の狐ではないぞ。大きな大きな狐だったらしい」


「何それ。狐の化け物?」

「そうだ。尻尾も二股に分かれていたらしい」

「狐の妖怪?」

「あわや狐にかっさわれそうになった時、祠から突風が吹いてきて、なぜか狐だけがその風で飛ばされてしまった」

「突風で狐だけが飛ばされた?何その昔話にありそうな設定。それはいくらなんでも嘘でしょ」

「嘘なものか。じいちゃんもお義父さんも同じことを言っておった」


 まじで?え~~~っ、ありえないんだけど。日本昔話ならそんな話もありそうだけど、そんなことが現実にある?


「だからの、美鈴。あの琥珀だって狐かもしれないんだ。お前が龍神の許嫁だと知っていて、かっさらいにきたのかもしれない」

「え?」

 ちょっといきなりどういう展開?

「お千代さんを龍神に連れていかれた恨みがあるかもしれないしな」


「もう100年近く経っているんでしょ?」

「狐の妖怪なら、何百年でも生きるかもしれん」

「でもひいおばあちゃんだって言ってたじゃない。琥珀は遠い親戚で、前にも遊びに来たりしていたんでしょ」

「う~~~ん、記憶が曖昧での。子どもの頃の琥珀を思い出せんのだ。覚えているのは美鈴が小さかった頃、遊んでいた今の琥珀だ」


「今の?」

「今と同じ背丈の琥珀だ」

「でも、私よりも年が上なんだから、当時から背が高かっただけじゃないの?」

「そうかもしれんの」

「ちょっとしっかりしてよ、ひいおばあちゃん。耄碌するにはまだ早いよ」

「ひばあはもう90過ぎた。十分耄碌する年じゃ。ひゃっひゃっひゃ」

 いや、下手すりゃおじいちゃんよりもしっかりしているよ。


 っていうかさ、ひいおばあちゃんはいつでも、ひゃっひゃっひゃって笑うから結局私をからかっているだけじゃないのかって思っちゃうんだよね。どこまでが真実でどこからが嘘?もしかして、全部嘘なの?あ、エイプリルフールだから嘘ついたなんてことないよね。でも、とっくにエイプリルフールは過ぎてるけど。


 いきなりわけのわかんない異次元の世界にでも迷い込んだみたいだ。確かにこの神社は山の上にあって、どこか現世からかけ離れた不思議な空間かもしれない。だけど、山の上とはいえ、山を切り開き、近年土地開発も進み住宅も増えてきているし、大きなスーパーやコンビニもできたし、私が入学する頃、小学校や中学校も山の中腹部分に出来た。それまでお兄さんたちは、山を降りて歩いて50分もかかる学校に行っていたんだもん。


 高校はバスで1時間近くするところしかないけどね。だから部活動もできなかったし、バイトとかも無理だったな。まあ、高校の頃から神社を手伝わされていたから、バイト代は入っていたんだけど。


 それにしても、琥珀が狐というのも嘘くさいけど、そう思えるふしもある。だいたい名前も琥珀って普通っぽくないし、光の具合で目が金色に光って見える時もある。それに顔だって整いすぎていて人間離れしているし、あのきりっとした一重瞼の目も、狐っぽいと言えば狐っぽい。


 それから神出鬼没だし、あ、そういえば、琥珀ってもしや自由に風を操れるのかしらって思ったこともあったなあ。最初に出会った時、木の枝にひっかかっていた袋を風を操って枝から飛ばしたようにも見えた。そんな時には木に登らないで俺を呼べって言っていた気も…。



 翌日、風が強かった。私はまたどこかの木の枝にビニール袋がひっかかっていないか探しまくった。あれば琥珀を呼んで取ってもらって、本当に風を操れるか見てみたかったのだ。ところがどこにも袋はひっかかっていなかったし、風で境内は葉っぱだらけ。掃除もしないでうろうろとしていたから、それをお母さんに見つかり思いきり怒られた。


 あ~~、最悪。掃除に追われて社務所に行けない。今日は壬生さん来ているよね。もしかして社務所で琥珀と二人きりになっているんじゃないの?


 って、なんだそりゃ。私もしかして妬いてるの?

 え?妬いているってことは何?私、まさか琥珀を…。


「履いても履いても、葉っぱが落ちてくるなあ。美鈴」

 いきなり後ろから声がして、びっくりして振り返ると琥珀がいた。

「あ、あれ?琥珀、今日は社務所に行かないの?」

「特に用事はないからな」

「でも、昨日は社務所で手伝ってくれてた」


「今日はあの、くさい匂いのする女がいるからな」

「え?くさい?壬生さんのこと?!」

「そうだ。香水だかなんだかプンプンさせている。それも化粧を顔に塗りたくって素顔もわからん。ああいう女は嫌いだ」

 うわ~~~~。琥珀って好き嫌いが激しいとか?


「そうなんだ。ああいう女は嫌いなわけね…。じゃ、じゃあさ、どんな女の人が好みなの?」

 そう言うと琥珀は口元を一瞬緩めて私を見た。そのあとすぐに表情をなくして、宙を見ながら顎に手を当て、

「そうだな。まず木登りなどしない大人しい清楚な女性がいいな」

とのたまった。


 絶対に私に対しての嫌味だよね。

「ああ、そう。そうなんだ。へ~~。じゃあ、あれかな?私は嫌いな部類に入るのかな?木登りもするし、おとなしくも清楚でもないもんね?」

「いいや、嫌いではない」

 え?ドキ!そうなの?


「面白い部類に入る。見ていて飽きない」

 グサ~~~~~。

 飽きない?面白い?

 なんだか言い返す言葉もみつからない。そのくらい私はショックを受けた。


 なんだって、琥珀の冗談にこんなにショックを受けなきゃならないわけ?どんなやつかもわからないし、下手すりゃ狐だし。っていうのはさすがに信じていないけど。でも、性格悪くって最悪な人かもしれないのに、なんだってやきもち妬いたり、ショック受けたりしているわけ?


 こんなやつ、私には関係ないの。ショックを受ける必要もないの!!!


 私は琥珀を無視して掃除を再開した。でも、ふと風が止んでいることに気づいた。あれ?でも、境内の外の木は風で揺れていない?境内の中だけ、とっても静かなんだけど。


 クルっと横を向いて琥珀を見た。だが、そこにはすでに琥珀はいなかった。

「あ、あれ?どこ行った?」

 辺りを見回しても琥珀はいなかった。いきなり消えた?

「いやいや、ありえないって。きっとその辺の木の陰にでもいるんだよ。うん」

 そう思い直し、

「琥珀。琥珀!」

と呼んでみた。


 すると、

「呼んだか?」

と突然後ろから声がした。

「うわ!突然後ろにいないで。びっくりする!っていうかどこから現れた?!」

「木の陰にいた」

 やっぱりね!ああ、びっくりした。


「それで、何の用で呼んだんだ」

「あ、なんの用事もないよ。ただ、どこかに消えたかと思っただけで」

「俺がどこかに消えた?」

「う、うん。どこにもいなかったから」

「ははは」

 あれ?なんだか笑ってる。笑うとやっぱり可愛い。あ、もしかして八重歯だ。そこも可愛い。


「俺はどこにも行かない。ここにいるから安心しろ。今みたいに呼べばすぐに来る」

 そう琥珀は優しい目で言うと、そのまま背を向けて歩き出し、途中で立ち止まって振り返ると、

「美鈴こそ、どこにも行くなよ」

とそんなことを言ってきた。


「え?私?わ、私はしばらくはここで巫女をしているから、当分ここにいるけど」

「そうか」

 なぜか琥珀は安心したような顔をすると、また背を向けてお社のほうに行ってしまった。


 ん?なんだ?今のは。意味深に取っちゃうよ?いいの?琥珀は私がそばにいるのを望んでいるって思っちゃうからね。いいの!?


 ちょっと浮かれながら、私は掃除を済ませた。そしてご機嫌なまま社務所に行った。

「なんだ~~、美鈴ちゃんか。琥珀さんが来たのかと思った。さっき、境内で見かけたんだけどなあ」

「壬生さん、琥珀が言っていたんだけど、香水とか苦手なんですって」

「え?私の香水のこと?」

「はい」


「そんなに強いのはつけていないよ。香水じゃなくって、コロンだし」

 変わらないってば。

「そういうの苦手なんですって」

「ふうん。案外古風なのかな。まあ、そんな雰囲気もあるけど」

 壬生さんはそう言うとため息をついた。


「古風な男を落とすにはどうしたらいいのかしらね」

「あ、えっと。琥珀の好みの女性は清楚でおとなしい女性だそうです」

「え?そんなこと聞いたの?もしかして、美鈴ちゃんも気があるの?」

「いえいえいえ!違いますよ。私はあんな冷たい人より優しい人のほうがいいですもん」

「ふうん。でも、顔はけっこう好みなんじゃない?案外美鈴ちゃん、面食いでしょ?」

 う、なんで知ってるの?


「だけど、もっと優しい目をしている人とか、優しく笑う人とかがいいです」

 そうなんとか誤魔化していると、

「まあ、美鈴ちゃんも清楚でも何でもないから、どっちにしても琥珀さんの好みとは違うわけね」

と言われてしまった。

 ムカ~~~!ほんと、時々この人ムカつくんだよね。そのたび、怒りをなんとか面に出さないように我慢するんだけど。


「そうか。コロンをつけるのはやめようっと。化粧もナチュラルにしてみようかな~~」

「え?」 

 この人、本気で琥珀のこと落とそうとか思ってるの?

 ちょっと引き気味で壬生さんを見ると、壬生さんは私を見下した目で見た。


「美鈴ちゃん」

とそこへ、修司さんが顔を出した。

「あ、修司さん、なんのご用ですか?」

 私よりも先に壬生さんが椅子から立ち上がり、社務所の窓を開けた。

「壬生ちゃん、昨日いなかったね。寂しかったよ」

「本当に~~?私も修司さんに会えなくて寂しかったです」


 うわ~~~。さっきまで琥珀のこと落とすとか言ってたくせに。それに修司さんも、よく簡単にそんなこと言えるよね。やっぱりこの二人は似たもの同志で、私はついていけない。


「美鈴ちゃん、明日休みだよね。僕も休み取ったから、どっか遊びに行こうよ」

「は?」

 なんで私が修司さんと?

「え~~!デートですか?ずるい」

 うわ。丹生さんがへそ曲げたし。


「私、別に出かける気ないですから」

 そう軽く受け流した。でも、

「ねえ、美鈴ちゃん、明日私と休み変わって!美鈴ちゃんは出かける気ないんだったら、私が修司さんとデートするから」

と壬生さんが言い出した。


 うそ。私の休みなくなるじゃん。でも、修司さんに明日しつこく誘われても嫌だ。とその時、パラパラと雨が降り出した。

「はい。いいですよ。その代わり今日お休みを取ります。どうせ天気悪いし今日は参拝客も少ないと思うし。じゃ、そういうことで」

と私はさっさと社務所を出た。


「美鈴ちゃん、まじで明日休まないわけ?僕がせっかく美鈴ちゃんの休みに合わせて、休みを取ったっていうのに」

「まさか、今後もずっと同じ曜日に休むわけじゃ…」

「うん。そうしてもらった。じゃ、来週デートしようか」

 嘘でしょ!


「私が休みの曜日を変えます。デートなんてする気ないですから、壬生さんとデート楽しんでください」

 そう言って雨が降る中私は急いで家に入った。

 すると、雨の中を走っているのを見られたらしい。お母さんまでが後ろから走って玄関の扉を開けた。


「美鈴?何してんのよ。社務所から勝手に家に戻ってきて。忘れ物?」

「今日は休む」

「具合でも悪いの?」

 私が廊下を歩いて、2階の自分の部屋に行こうとすると、後ろからついてきてそう聞いてきた。

「明日の休みと交換した」


「何を勝手にそんなことを。それも誰と交換したの?」

「壬生さん。明日休みたいっていうから。そうだ!なんだってお母さん、私と修司さんの休みを同じ曜日にしたの?超迷惑なんだけど」

「迷惑ってなんで?」

「さっきもデートに誘ってきたの」


「いいじゃない。デートしてきたらどう?」

「はあ?あんな女ったらしと?冗談じゃない」

「冗談じゃないわよ」

 突然お母さんが真面目な顔をして、私の腕を掴み、なぜかずんずんと階段を上りだした。そして、私の部屋に私を引きつれて入ると、勢いよく襖を閉めた。

 何?怖い顔をしているけど、いったいなんなの?



 

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