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第45話 思わず告白!

 居間に残ったのは、ひいおばあちゃんとおじいさんと私。ひいおばあちゃんはため息をつき、

「せっかく美鈴が決心したのに、邪魔するようなことを言って困ったのう」

とぼそっと言った。

「美鈴、本当に決心したのかい?」

「うん。琥珀と離れたくないし、琥珀は向こうの世界に行ってもずうっとそばにいるって言ってくれた」


「そんなにも美鈴は琥珀が好きか」

「うん、ひいおばあちゃん」

「そうか…。難儀じゃなあ、お前の恋も…。ああ、すまないなあ、美鈴。びいばあはよく決心したと、美鈴を偉いと思っている。じゃが、もしかすると龍神の嫁になる者は、元来そうやって決心できるくらい強い心を持っているのかもしれないな」


「強くなんかないと思う。だって、琥珀がいてくれなかったら、きっと私ダメだもん」

「…琥珀君の存在は美鈴にとってでかいんだね」

「うん、おじいちゃん」

「そうか…。まったく、琥珀君は何者なんだい。もう、遠い親戚だなんていうのは信じていないし、人間じゃないことも薄々わかっているよ。何しろあの妖怪をやっつけたくらいだしね」


「狐の化け物か。やはり、修司に憑りついていたんじゃな。しかし、最初は琥珀が狐かと思っていたが、修司に憑りついていたとはな」

「なんだよ、それは。お母さん、琥珀君が狐だと思っていたのか?」

「そうじゃな。最初から人間らしからぬものだと思っていたのじゃ。ひゃっひゃ」

「笑い事じゃないだろう、お母さん。じゃ、いったい琥珀君は何者だ?」


「琥珀は多分、ひいばあの読みだと…」

「美鈴」

 その時、悠人お兄さんがまた何やら古そうな書物を手にして居間に入ってきた。

「こんなものを実は見つけていて、美鈴に見せるかどうか迷っていたんだ」


「また蔵で見つけたのか?」

 ひいおばあちゃんが、よこせと手を出したが、

「美鈴に見せようと思ったんだよ。これは、お千代さんの日記だと思う」

と、私の方にそれを渡してきた。


「お千代さんの?」

「ああ、お千代さんは周りのみんなに逃げないようにって蔵に閉じ込められただろ?その時に書いたのかもしれないんだけど」

「また、そんなものを見せて。美鈴の決心を鈍らせる気か?」


「違うよ。僕もまだ最初の方しか見ていないけれど、お千代さんは龍神と結婚することを、何もためらっていないようだったから…。いったいどうしてそう思えたのか、気になっていたんだよ」

「そういうことが書いてあるの?」

「うん。お千代さんにも霊力があって、子どもの頃から妖や精霊が見えていたそうだ。狐の妖もね」


「狐?」

「狐の妖に、お千代さんは攫われそうになって、自ら蔵に閉じこもり、龍神の嫁になるまで身を護ったって書いてあった」

「え?閉じ込められたんじゃないの?」


「うん。なんだか、若い男がやってきて、ハルの時みたいにお千代さんに逃げようと言っているのを目撃した家のものが、お千代さんに蔵に入れって言っているようなんだけど、その若い男が実は狐の妖で、お千代さんもその妖に攫われないよう、蔵に身を隠したと自分で書いてあったんだよ」

「じゃあ、家族に無理やり閉じ込められたわけじゃなかったんだ」


「それに、狐の妖以外にも、蘇芳という男が日記によく登場してきて…」

「蘇芳?蘇芳って、年表に書いてあった龍神の名前じゃないのか?」

 ひいおばあちゃんが、目を丸くしてお兄さんに聞いてきた。


「ごめん、僕は途中までしか読めていないんだ。蘇芳が何者かもわからないけれど、もし、龍神の嫁になることを美鈴が決めて、その決意が変わらないものなら、この日記も何か役に立つかもしれない。お千代さんは龍神の嫁になるという思いに迷いはなかったようだからね」

「…。ありがとう、お兄さん」


「本当は、これを読ませたくなかったんだけどね。そんな決心はしてほしくなかったから」

「そうか。なぜ龍神の嫁になることを決意したのか、それが記されているというのじゃな、悠人」

 ひいおばあちゃんの言葉に、悠人お兄さんは頷いた。でも、悠人お兄さんの表情は暗かった。


「読んでみる。私も実は気になっていたの。お千代さんがどんな思いで、自分の運命を受け入れたのか」

 そう言いながら、私は座布団から立ち上がり、

「部屋で読むね」

と居間を出て2階に上がった。


 悠人お兄さんは、どんな思いでこの日記を渡してくれたのかな。私よりも、ずっとお兄さんやお母さんの方が辛いのかもしれない。残されるものの方が悲しかったりするのかもしれないな。だって、琥珀言ってたもの。神になったら未練もないって。


 未練は、ここにいる間に消さないとならないんだけどね…。


 お千代さんは、未練全然なかったのかな。いったい、どうやって受け入れたんだろう。それに蘇芳っていう男って?龍神の名前じゃないの?

 いろんなことが気になり、私はその日一気に日記を読み終えてしまった。


 夜、11時を過ぎてからお風呂に入り、それからまた部屋に戻った。お千代さんの日記をぼけっと眺めながら、布団の上に座り込んでいた。すると、

「美鈴」

と、琥珀が襖を開けた。


「あ、襖開けてちゃんと入ってきた」

 そう言うと、琥珀は変な顔をして、

「いきなり現れたら、どうせびっくりするのだろう?それとも前触れもなく現れていいのか?」

と聞いてきた。


「心臓止まるかもしれないからやめて。でも、どこでも神出鬼没で現れることができるってことでしょ?」

「そうだな」

「鍵が外からかかっていて、絶対に入れないような蔵でも?」

「蔵?」


「お千代さんの日記、蔵に閉じこもったって書いてあったの。龍神の結界もあって、妖も入れないような場所。ご飯も数日食べず、祝言を挙げる日まで蔵に閉じこもっていたんだって」

「そうか。そんな日記が残っていたのか。不思議な話だ。お社に入れば、そこは龍神の世界と通じる場。もとより龍神の結界がしてある。妖も入れない。もし、妖をそこに捕らえたとしたら、あの妖狐のように邪気を奪い取り、力も出せない場だ。なんだって、わざわざ蔵にしたんだか…」


「あれ?そう言えばそうよね」

「……お社だと、あれか。外から丸見えだからか」

「え?」

「蔵だったら、他の誰にも見られない。まあ、そういうことなら頷けるがな」

「誰にも見られないって?えっと…」


 どういうこと?それも、数日何も食べなかったって。

「体、おかしくならなかったのかな。蔵に閉じこもって何も食べないで」

「龍神のエネルギーがある。きっと気をもらっていたんだろう。いや、すでに龍神のエネルギーになっていたのかもな。そうすれば、何も食べなくてもいい」


「どういうこと?」

「龍神はもともと、食べたりしないのだ。エネルギーそのものだからな」

「え?食べないの?何も?」

「そうだ。龍神と結婚の義を行い、龍神の嫁となると龍神のエネルギーとなるのだ。もう何か食べなくても生きていけるようになる」


「お千代さんも?でも、祝言はまだ挙げていなかったんでしょ?花嫁衣装を着て祝言を挙げるために、祠に行ったんでしょ?」

「ん?ちゃんと日記を読んだのだろう?そういうことは書いてなかったのか?」

「えっと、なんか、数日蘇芳って男の人が、蔵に来ていたって。蘇芳は鍵がかかっていても、壁をすり抜けることが出来て、毎晩一緒に過ごしたって書いてあったけど…」


「それだけか?毎晩何をしていたかは書いてなかったのか?」

「うん、特に詳しくは……。ただ毎晩一緒に過ごして、お千代さんが、その蘇芳って人のことが好きで、一緒にいて幸せで、蘇芳と共に生きていくことを決意して、この世には何も未練がなくなったと…。そう蘇芳に伝えた翌日、蔵から出て花嫁衣裳を着て、祠に行ったって。つまり、その…。蘇芳が龍神ってことだよね?」

「そうだ」


「……人間の男の姿をしていたって書いてあったんだけど。なんで?」

「龍神はエネルギー体だ。姿を変えられる。ハルの時は、龍神の姿で会いに来てしまったから失敗したのだ。怖がられ逃げられたからな。次は怖がられないよう、人間の姿で会いに来たのだろう」

「………なるほど。じゃあ、壁を通り抜けるっていうより、琥珀みたいに自由にどこにでも現れたわけだね」


「そうだな。それに花嫁衣裳を着て祠に行くのが、祝言を挙げるということではないぞ」

「…え?そうなの?」

「昔は花嫁衣装など着なかったらしい。だが、嫁に行くという儀式めいたものを人間がするようになり白無垢になって祠に行くようになったのだ」

「そうなんだ…。じゃあ、私も着ても着なくてもいいの?」


「着たらどうだ?花嫁衣裳が似合いそうだ」

「私が?お千代さんは奇麗だったみたいだし、似合ったかもしれないけれど、私は似合わないよ。だからって、まさか洋装で行くわけにもいかないし、私は花嫁衣装は着ない」

「そうなのか」

 あれ?なんだか、すんごいがっかりしていない?これは、娘の花嫁衣裳を見たかった父親みたいな感じ?


「これ読んでなんとなくわかった。お千代さんは、犠牲になったわけでもないし、嫌々嫁になったわけでもないんだね」

「そうだ。ちゃんと自分で望んだのだ」

「蘇芳のことが好きになったんだ…」

 私と違って、お千代さんは龍神本人が迎えに来たってことなんだ。そうか。ちゃんと人間の姿をして、迎えに来ただなんて、それもお千代さんはそんな蘇芳にちゃんと恋をしただなんて羨ましすぎる。


「いいな…」

「何がだ?」

 うわ。声に出てた!

「あ、いや、えっと。だって、ちゃんと龍神自ら迎えに来ていて、そんな龍神のことを好きになって結婚しただなんて。龍神の蘇芳もお千代さんが好きだったんだよね?もしや、両想い?羨ましいな」


「………ん?」

 琥珀がすごく変な顔をして私を見ている。

「ちゃんと、両想いになれたなら、結婚できるのは嬉しいことだよね。それも、ずっと一緒に居られるんでしょ?今ももしかして、向こうの世界で仲良く幸せにしているのかな」

「ああ、夫婦仲はいい。龍神は伴侶を迎えたら、一生を共にする。半身のようなものだからな」


「でも、人間の方が寿命は短いよね」

「いいや。時間の流れがこことは違うし、龍神のエネルギーになるからな、龍神と同じだけ生きる。何しろ半身なのだ。死ぬ時も一緒だ」

「え?そうなの?どっちかが先に死ぬとかないの?」


「同時に命を終えるのだ。美鈴の体だって、右半身が先に死んで左半身は後に残るということはないだろう」

「当たり前だよ。そんな人間がいたら化け物だよ」

「そういうことだ。龍神と嫁というのは、そんな関係なのだ。だから、嫁を得ていない龍神は半人前だ。力が半分しかないのだ」


「右半身ってことなわけ?」

「まあ、右だか左だかはわからんが、半身ってことだ」

 え~~~。そうなんだ!びっくり。

「半身が、自分の半身と会うのだ。惹かれ会うのは当たり前なことだ。ハルの時には、惹かれ会う前に怖がられてしまった。恐怖は時に真実を見失う。本当の姿を見れば、自分の半身だとわかり、惹かれあったのにな」


「じゃあ、ハルさんはずうっと半身のまま一生を終えたの?」

「人間のままだから、半身だとしても生きられたがな。神になるのなら半身ではなれないがな」

「……だから、お千代さんは蘇芳に惹かれたの?でも、ハルさんが半身なら、この世に蘇芳の半身が二人いるってことにならない?」

「ハルが死んで、その生まれ変わりなのだ」


「そういうことなんだ!そっか…。じゃあ、龍神とそのお嫁さんは、絶対に会えば惹かれあうなら、私も…」

 私も龍神に会ったら、琥珀よりも好きになるってこと?


「あり得ない」

「何がだ?」

「龍神に私も惹かれるなんて、琥珀よりも好きになるだなんて、あり得ない。絶対にない。だって、私はこの先もずうっと琥珀が好きだもの。それはなんでだかわかんないけど、わかっているの!」

「……またわけのわからぬことを」


「わけわからなくないよ。これは絶対に確実に…」

 あ、やばい。告白しちゃった。思いっきり告白してた!

 琥珀に、告白はできないって思っていたのに、とんでもない告白をしてしまったよ!!!



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