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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
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5-4

 リビングの中で誰もいないキッチン前のカウンターに移動した。

 そこから見渡すと、人間模様が見られて、なかなか興味深かった。

 和室にはテーブルが置かれているが、その一辺に、琴葉とあまねが座っている。その向かいに楓菜と暁人がほとんど無言で座っていた。時折口を開いているが、あまり話が弾んでいるようには見えない。

 洋間側のソファーには、男三人――靖太郎、涼介、瞬が話し込んでいる。

 加わりやすいのはこっちだなと、直陽は靖太郎たちのところへ近付いていった。

 そのことに瞬がまず気付き、

「あ、月城先輩」と声を掛ける。「男にとって大事なものは何かって話してたんですよ」

「またいきなり突っ込んだ話ししてるな」直陽は少し呆れる。「まだ一時間もたってないぞ」

「まあ、いいから。先輩も加わってくださいよ」

 と言って瞬はソファーに直陽を座らせた。

「それで、三人はどんな意見になったの?」直陽も観念して話に加わる。

「では、月城先輩も来たので、改めて。――まず中川先輩から」瞬が靖太郎に話を振る。

 オホンと咳払いをして、靖太郎が話し始める。

「男として大切なこと、それは『好きなものを好きと言えること』なりよ」

 なるほど、靖太郎らしいなと思う。

「確かにな。好きなものを好き、いいと感じたもをいいと公言するのって結構怖かったりするもんな。さすがセイタだ」直陽は感心する。

「おお、嬉しいことを言ってくれるなりね。そんな直陽を、俺は好きなりよ」

「やめろ、気持ち悪い」直陽が軽口を叩く。

「では」瞬が涼介に続きを促す。「相馬先輩、お願いします」

「『周りを楽しませること』だな」涼介は、当然じゃんとばかりにサラッと断言する。

「どう思います?」

 瞬が直陽に意見を求める。

「エンターテイナーの涼介らいしな。やっぱりみんなが笑顔になれることって大事だよな。俺にはない力だから尊敬するよ」

「『尊敬する』とかってサラッと言っちゃう直陽もなかなかだぞ」と涼介が指摘する。

 それを聞いて直陽が考えていたことを言う。

「最近思うんだよね。思ったことは言葉にしないと伝わらない。せっかくの温かい心も、伝わらなければなかったのと同じになってしまうって。ちゃんと言葉で伝えるって大事だなって」

「ちょっと待ってください!」瞬が慌てて直陽の言葉を遮る。「まだ先輩の番じゃないです。僕の後です」

「あ、ごめん。なりゆきで」直陽がはにかむ。

「では、俺の意見を言いますね。俺は――『誠実であること』だと思います」

「もったいぶったわりには普通なりね」

「先をしゃべらせてください。ちゃんとそれなりの『深み』があるんですよ」瞬は慌てて付け加える。「自分が間違ってることをしたと思ったら謝る。いいことをしてもらったら感謝を伝える」

「それって当たり前じゃね?」涼介がツッコむ。

 瞬が明らかにショックを受け、意気消沈していたが、直陽はその肩をぽんと叩き、瞬を擁護した。

「いや、結構難しいことだと思うよ。人は誰だって自分が正しいと思いたい。間違いを素直に認めるって、自分に自信がある人ほど難しいんじゃないかな」

「あ、同じこと俺も考えてたなりよ」靖太郎が頭の中の引き出しから言葉を選び出して続ける。「人ってみんな不安なりよ、自分は価値ある人間なのかって。人が他人に攻撃的になるのって、大抵、自分の存在がおびやかされたときなりよ。間違いを指摘されたら、受け入れたくなくて反発してしまうものなりよ」

 さすがは靖太郎だなと思う。

 直陽は「木島君。最近腹が立ったりしたことはある?」と聞いた。

 瞬は腕を組み、記憶を辿った。そして、

「恥ずかしいことなんですが、クラスの友人が彼女自慢をしてきて。あまりにしつこいんで、『もういい。聞きたくない』って言っちゃったんですよね」

 と言った。それを受けて直陽が続ける。

「セイタの言う『人は皆、自分に価値があるのかと不安になる。自分の存在が脅かされたとき攻撃的になる』という言葉とその自分の怒りを照らし合わせると、どう?」

 瞬がまた逡巡する。そして、

「自分に彼女がいないこと、自分には価値がないんじゃないかって、不安になったからですかね」

「おお、なんかスゴい」涼介が感嘆する。

 靖太郎が受ける。「自分は何故イライラしたのか、怒りが湧いたのか、それを客観的に見つめ続けて、自分の弱さを直視し続けることが『誠実である』ということなのかもしれないなりね」

「いいまとめッスね」瞬は目を輝かせている。

「じゃあ」と言って瞬は続ける。「最後に月城先輩、意見お願いします」

「えーっと何だったっけ」

「男にとって大事なこと、です」

「もはやこれは男云々の話ではなくなってきたけど――人間として大切なことでもいいかな?」

「もちろんです」瞬は直陽の言葉をワクワクした様子で待つ。

「そうだな――『人の気持ちを考える』ってことかな」

「意外と、普通だな」涼介がバッサリと切る。

「解説をお願いします」瞬は完全にインタビュアーになっている。

「そのままだよ。人の気持ちは分からない。分からないけど、分からないなりに想像する。表情とか目とか、そういうところから。もし不安そうだったら安心させたいし、怒りがあるなら取り除きたい」

「そのままじゃねーよ」涼介が溜め息をつく。「やっぱすげーな、お前。直陽ってそんな奴だったっけ?」

「いやいや」直陽が慌てて付け加える。「ちゃんとできてるわけじゃないし。そうしたいってだけ。俺は涼介みたいにみんなを笑わせたり、盛り上げたりすることもできない。そういう人に憧れる」

「そうかあ?」その言葉とは裏腹に、涼介はまんざらでもないという顔をする。

「月城先輩って、前はこうじゃなかったんですか?」瞬が素朴な疑問をぶつける。「俺は《《この》》先輩しか知らないので」

「うーん、そうなりね。もっと、こう、『独り』だったなりよ。俺らと話していてもどこか一線引いてるような」

「何があったんですか?」と言って瞬は直陽の後ろの和室をチラッと見た。「あっ⋯なんか分かった気がします」

「もう敢えて触れる必要もないなりね」

「だな」

 靖太郎も涼介も微笑みながら軽い溜め息をついた。

「てか、もう付き合ってるんじゃないんですか?あの雰囲気は絶対そうっすよ」

 三人の男の視線が直陽に集まる。

「そう言われてもな。俺もよく分からない。『特別な人』であることは確かだけど」

「はあ、煮え切らねーな」涼介が直陽の背中をぽんぽんと叩く。「まあ、それがお前なりの距離感なんだろうな――応援してるぜ」

 直陽は「ありがとう」とだけ言って、自分の後ろに座っているあまねのことを想った。そして、心の中で、あまねにもその言葉を繰り返していた。

**次回予告(5-5)**


汐里が莉奈の高校の卒業アルバムを開きながら、興奮気味に語る。

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