5-2
「誰に見られてるか分からないね」
直陽が、あまねと公園を歩きながら、白い息を吐いて呟く。
「直陽くんは、私といるところ見られるの嫌?」少し不安そうに訊く。
「どうして?嫌なんて思ったことないよ」
「そか。ありがと」
隣を歩くあまねは、少し俯きながらも、口角がそっと上がるのが見える。
「あまねさんは、なんで俺といてくれるの?」
あまねは急に立ち止まり、直陽の方に顔を向けた。
「なんでだろう」少し困った様子を見せる。「直陽くんは、不思議なんだよ」
「俺はもともとあまり人に興味がなくて、人の目も見れないような人間だった。そんな俺にどうして話しかけてくれたのかなって」
「⋯私にも興味なかった?」少し小さな声になる。
「いつも乗るバスにいたのは知ってた」
直陽はゴールデンウイーク明けのころを思い出す。あの時はほとんど顔も知らなくて、ただ雰囲気だけを知っていた。
「そして、落とした定期券を拾ってくれた」
「君だとは分からなかったけど」
「誰にでも優しいんだね」
そう呟くあまねの真意を測ろうと、直陽はあまねの目の中を覗き込む。
「でも、そこが直陽くんのいいところ。他人に興味がないと言いながら、他人の気持ちには無関心じゃない」
「買いかぶりだよ」
「ううん。私には分かる」
あたりは軽く雪が降っていた。傘をさすほどではないが、長時間散歩するような気温でもなかった。
「またあのカフェ行ってみない?」直陽が提案する。
「うん。行く」
今日は「静かなあまね」だったが、少し気分が弾んでいるように見えた。
*
久しぶりに来たが、メニューが増えていて軽食も取れるようになっていた。
「あまねさん、決めた?」
「まだ」そう言ってメニューをあちらこちら凝視している。
「あまねさん、なにで迷ってるの?」
あまねは視線をメニューから外さずに答える。
「たまごサンドか、ポテサラサンドか、ホットドッグ」
「久しぶりに、あれやろうか?」
「あれ?」少し逡巡したあまねは思い当たったようで「あれかー」と言いながら思い出し笑いをした。
「チキンカツ記念」直陽がそう言うと、あまねも恥ずかしそうに笑う。
「ちょっと私のテンションおかしかったよね」
「それがいいんだよ」と言いながら、直陽はテーブルの上にメニューを広げた。「じゃあ、目をつぶって。せーので指さすね」
あまねは目をつぶる。
直陽は決まっていたので、『それ』を指差す。
「「せーの!」」
あまねが指を差す。
「目を開けてみて」直陽が言う。
二人の指は、どちらもホットドッグを差していた。
*
「こんな偶然ってある?」
さすがに二度も続いてあまねも驚きを隠せない。
「これってさ、目をつぶる方は、どこに何があるか分かってるわけだし、別にルーレットをするわけじゃない。目の前に選択肢が複数あって、せーので時間を切られて咄嗟に選んだのは何かってことなんだよね。だから、その瞬間に食べたいものを選ぶ」
「それで?」先が気になるようだ。
「寒かったよね?ホットドッグだけ、焼いてくれる」
「あ⋯」あまねは呆気にとられる。「確かにまだ寒いなとは思ってた。あれ?でも」
そう言って直陽を見る。
「直陽くんは本当に食べたいものを選んだわけじゃないってこと?」
「いや、食べたいものを選んだよ」
そう言って、心の中で、あまねさんと同じものが食べたかった、と付け加えた。
「じゃあ、やっぱり、同じもの選んだってことだね」あまねは少し嬉しそうに言う。
「そうだね」
直陽も笑顔で応えた。
**次回予告(5-3)**
莉奈の家でクリスマスパーティーが開かれることに。




