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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
63/69

5-2

「誰に見られてるか分からないね」

 直陽が、あまねと公園を歩きながら、白い息を吐いてつぶやく。

「直陽くんは、私といるところ見られるの嫌?」少し不安そうに訊く。

「どうして?嫌なんて思ったことないよ」

「そか。ありがと」

 隣を歩くあまねは、少し俯きながらも、口角がそっと上がるのが見える。

「あまねさんは、なんで俺といてくれるの?」

 あまねは急に立ち止まり、直陽の方に顔を向けた。

「なんでだろう」少し困った様子を見せる。「直陽くんは、不思議なんだよ」

「俺はもともとあまり人に興味がなくて、人の目も見れないような人間だった。そんな俺にどうして話しかけてくれたのかなって」

「⋯私にも興味なかった?」少し小さな声になる。

「いつも乗るバスにいたのは知ってた」

 直陽はゴールデンウイーク明けのころを思い出す。あの時はほとんど顔も知らなくて、ただ雰囲気だけを知っていた。

「そして、落とした定期券を拾ってくれた」

「君だとは分からなかったけど」

「誰にでも優しいんだね」

 そう呟くあまねの真意を測ろうと、直陽はあまねの目の中を覗き込む。

「でも、そこが直陽くんのいいところ。他人に興味がないと言いながら、他人の気持ちには無関心じゃない」

「買いかぶりだよ」

「ううん。私には分かる」

 あたりは軽く雪が降っていた。傘をさすほどではないが、長時間散歩するような気温でもなかった。

「またあのカフェ行ってみない?」直陽が提案する。

「うん。行く」

 今日は「静かなあまね」だったが、少し気分が弾んでいるように見えた。



 久しぶりに来たが、メニューが増えていて軽食も取れるようになっていた。

「あまねさん、決めた?」

「まだ」そう言ってメニューをあちらこちら凝視している。

「あまねさん、なにで迷ってるの?」

 あまねは視線をメニューから外さずに答える。

「たまごサンドか、ポテサラサンドか、ホットドッグ」

「久しぶりに、あれやろうか?」

「あれ?」少し逡巡しゅんじゅんしたあまねは思い当たったようで「あれかー」と言いながら思い出し笑いをした。

「チキンカツ記念」直陽がそう言うと、あまねも恥ずかしそうに笑う。

「ちょっと私のテンションおかしかったよね」

「それがいいんだよ」と言いながら、直陽はテーブルの上にメニューを広げた。「じゃあ、目をつぶって。せーので指さすね」

 あまねは目をつぶる。

 直陽は決まっていたので、『それ』を指差す。

「「せーの!」」

 あまねが指を差す。

「目を開けてみて」直陽が言う。

 二人の指は、どちらもホットドッグを差していた。



「こんな偶然ってある?」

 さすがに二度も続いてあまねも驚きを隠せない。

「これってさ、目をつぶる方は、どこに何があるか分かってるわけだし、別にルーレットをするわけじゃない。目の前に選択肢が複数あって、せーので時間を切られて咄嗟とっさに選んだのは何かってことなんだよね。だから、その瞬間に食べたいものを選ぶ」

「それで?」先が気になるようだ。

「寒かったよね?ホットドッグだけ、焼いてくれる」

「あ⋯」あまねは呆気あっけにとられる。「確かにまだ寒いなとは思ってた。あれ?でも」

 そう言って直陽を見る。

「直陽くんは本当に食べたいものを選んだわけじゃないってこと?」

「いや、食べたいものを選んだよ」

 そう言って、心の中で、あまねさんと同じものが食べたかった、と付け加えた。

「じゃあ、やっぱり、同じもの選んだってことだね」あまねは少し嬉しそうに言う。

「そうだね」

 直陽も笑顔で応えた。

**次回予告(5-3)**


莉奈の家でクリスマスパーティーが開かれることに。

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