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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
62/69

5-1

 十二月になった。

 だいぶ冬らしくなり、時折雪もぱらつくようなった。街はコートを着た人たちであふれている。

 あれからあまねとの交流は続いている。時折おとなしくなったり、元気になったりするのは変わらない。LINEも普通にする。一時の怯えたような様子は見られなくなったものの、本人から何かを打ち明けるような素振りはない。

「部室はあったかくていいなりね」

 靖太郎は電気ケトルで沸かしたお湯でコーヒーを飲んでいる。

 その隣にはテーブルに突っ伏して寝ている涼介がいる

 靖太郎がコーヒーをズルズルすすりながら飲む音が、静かな部室に響き渡る。

「お茶みたいに啜るな」莉奈がバシッと注意する。

「はいー」生返事をしながら靖太郎は言葉を続けた。「そういえば欧米ではそばを食べるとき、やっぱりすすってはいけないなりかね?」

「まだまだ日本の啜る文化は、全体としては受け入れられていないと思うよ。海外では気をつけた方がいいかも」直陽が見解を述べる。

 ずずずー。

「で、なんで南条さんがここにいるんですか?自然と馴染んでますね。しかも。コーヒーすすってるし」

 直陽がツッコむ。

「冬ってさー、私好きなのよ。外は寒いでしょ?そうすると、部屋の中の暖かさがいっそう際立つというか。そこに幸せ感じちゃうんだよねー」

 一瞬沈黙が流れる。

 汐里が直陽の肩をトントンと叩いて合図する。

「で、なんでここにいるんですか?」

 直陽が汐里の求めに応じてツッコミを入れる。

「冬の幸せは、暖房がちゃんとあるからなのよ!寒かったらダメでしょ?」

「つまり?」莉奈が繋ぐ。

「文芸部の暖房が壊れてるの⋯。学校には言ったんだけどね。修理にまだ時間がかかるみたいで」

「じゃあ、他の部員はどうしてるなりか?」

「来てない。寒いの分かってすぐ出てく。まあそもそも普段は定期活動してるわけじゃないしね。ある意味ゆるゆるなのよ」

 その時、廊下でガタっと音がした。扉にぶつかったような音。

「誰か来たのかな?」莉奈が呟く。

「ちょっと見てくる」と言って、扉に一番近かった直陽が確認に立つ。

 廊下に出てみると、少しもじもじしたあまねが立っていた。

「部室、暖房壊れてるんでしょ?どうぞ、入って」

「うん、ありがと」

 直陽が中へと案内する。

「あ、久しぶり」まず声を上げたのは莉奈だった。「合宿以来かな?」

「うん」

「そういえば、二人は話したことあるなりか?」靖太郎が素朴な疑問をぶつける。

「合宿の時、ちょっとね」あまねが少し言いにくそうに呟く。

 何となく気まずい雰囲気が流れる。

 そこで汐里があまねに先ほどの話を振る。

「あまねはどう思う?冬っていいと思わない?外と中のあったかさのギャップがさ」

「え、あ、私?冬は、ちょっと不安かな。雪だし。ってか、汐里ちゃん、いつの間に」

「あー、確かに今も降ってるなりね。ここのことろずっと降ってるなりよ」

 直陽はちらっとあまねの方をみると自然と目が合った。

 直陽は窓の外に目をやり、

「なんか、雪さっきより強くなった気もするね。これ、電車止まったりしないよね」

「十分あり得るな」莉奈が不安を煽る。

「やめてよ」ベランダの扉が開き、外から琴葉が入ってきた。

「あんた、いたのかよ」莉奈がツッコむ。「ってかこの雪の中ずっと外にいたの?」

「盛り上がってたから入るタイミングを測りかねて」

「一人で何してたの?」

「あ、俺もいます」と言って、琴葉の後ろから瞬も入ってきた。頭や肩には雪が積もっている。

 部室前のベランダは外の非常階段とつながっていて、そちらから入ることもできる。

「たまたま、外階段で会って、少しベランダで話してたら、タイミングをいっしてしまって」瞬が説明する。

 莉奈は「まあ、とにかくあったまって」と言い、立ち上がって、コーヒーをれに行く。

「コガリナさんって、もしかしてモテる?」

 直陽の耳元でささやくあまねの声がした。直陽は立っていたのだが、気が付くとあまねも隣に立っていた。

「どうだろう。なんで?」

「姉御肌だし、気が利くし」

「言われてみれば、確かに」

 靖太郎と琴葉、瞬が椅子に座っていた。莉奈はちょうど琴葉と瞬にコーヒーを持っていったところだった。

「ありがとうございます。すいません、先輩に動いてもらっちゃって」瞬が恐縮すると、

「気にすんなって」と莉奈が応じる。

琴葉も「あ、ありがとう」と慌てて礼を言う。

「ね?」あまねがまた小声で言う。

「確かに」

 元来直陽はあまり人に興味がない。初めからの出会いがちょっと変わっていたあまねを除けば、もともと人の行動に興味を持ったりするたちではないのだ。

「直陽くんは、モテる?」

「この俺が?見てわかるでしょ。モテないよ」小声で呟く。

「見ただけじゃ⋯分かんないよ」

 消え入りそうな声で言う。

 直陽は途端に恥ずかしくなり、

「そういう、あまねさんは?」と訊き返した。

「私?⋯モテないよ」

「そんなハズ、ない」

 直陽のその言葉にあまねは頬を赤らめる。 

「はいはいはいはい!そこイチャつかない!」突然莉奈が間に乱入してきた。「全部聞こえてるからな、君たち。ってか、二人とも座りなよ」と言って椅子を勧めた。

「ふあぁ」やや大きめの莉奈の声に、涼介が目を覚ます。「ん?なんか勢ぞろい?」

「はい!じゃあ、みんな揃ったんで、月末のアレの話します」

「アレ?」瞬が首をひねる。

「クリパかな?」涼介が寝ぼけ眼で答える。

「そそ!冬と言えばそれでしょう」莉奈が待ってましたとばかりに答える。

「でももう予定ある人とか、いるんじゃね?」涼介がもっともなことを言う。「まあ、俺はないんだけどな」と言って莉奈をチラッと見る。

「もちろん、予定があるならそっちを優先してもらって構わない。あ、ちなみにやるなら、私のうちで」

「わ、私、莉奈ちゃんのうち、泊まったことある。メチャ広い」琴葉が情報をくれる。

「じゃあ、来れる人!」莉奈が挙手するよう促す。

「あのー、これは部外者の私たちはどうなるの?」汐里が当然のことを訊く。

「汐里ちゃんも、あまねちゃんも、もう部外者じゃないから」

 莉奈のその言葉に汐里は笑みを漏らす。

「じゃあ、改めて。来れる人!」

 そこにいる全員が手を挙げた。

「あれ?」涼介が直陽を見てくる。「直陽、お前付き合ってんじゃないの?」

 あまねが明らかにビクッとして直陽を見た。

「何をぶっ込んでるんだよ、涼介」慌てて直陽が返す。

「え?だって」と言って涼介はあまねに視線を向ける。「いっつも一緒にいるじゃん」

 そういう勘違いか。

「付き合って⋯!」急に強い口調であまねが声を出した。「⋯ないです」最後は消え入るような声になる。

「まあまあ、じゃあ、全員参加でいいね」莉奈が話を本筋に戻す。「あ、あと木島君、青柳さんと鳴海君にも声かけられる?」

「はい、連絡しておきます」

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