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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
61/69

4-10

 いつもの教室に入る。中には学生が数人いるだけだった。

「あれ?もしかして休講?」そう言ってあまねがスマホで大学のアプリを開く。「ああ、通知来てた」

「俺も気付かなかった。昨日の夜にもう来てたんだね」

 まあ、しょうがないか。

「じゃあさ、直陽くん、今日もデートしようよ」

 ()()あまねはデリケートなこともサラッと言う。まあそこも嫌いじゃないんだけど。

「どこに行く?雨の中公園ってわけにもいかないだろうし」

「じゃあ、今日は私が考えるね」そういってしばらく逡巡しゅんじゅんして「よし、これにしよう」

と言ってあまねは直陽を手招きした。



 電車をいくつか乗り継ぎ、たどり着いたそこは⋯。

「あれだよ、あれ」

 駅からその施設に向かう途中に案内板があった。

「プラネタリウム」と書かれている。

「なんでまた、プラネタリウム?」

「何となくー。プラネタリウムなんて最後に行ったのは⋯小学生?何か楽しそうじゃない?」

「確かに。意識しないとなかなか来る場所ではないね」

 平日ということもあり人はまばらだった。

 幸い次の上映はすぐで、あまり待たされることはなさそうだった。

 上映ホールに入り、やや上方を向いた座席に座る。

「映画館とも違う。座席の角度とか独特だよな」直陽はその新鮮さに思いの外ワクワクしていた。

「私たちが小学生のころよりきっと進化してるよね、きっと」とあまねが答える。

 上映が始まる。

 まずオーソドックスな星座の説明から始まった。途中から未来の世界にお邪魔しよう、という設定になり、軌道エレベーターに乗って宇宙ステーション――それは今ある国際宇宙ステーションよりも比べ物にならないくらい大きかった――に行き、そこからさらに宇宙船に乗って遠くの銀河まで旅立つというストーリーだった。

 宇宙船は、どういう仕組みか分からないが、光速に近付く。なかなかぶっとんだ設定だ。周りの時間がゆっくりになり⋯といった相対性理論的な話も含まれていた。やがて宇宙の始まりと終わり、宇宙の果て、ブラックホールと時間旅行。かなり壮大なスケールになっていた。

「直陽くん」

 あまねの声で自分が遠い宇宙に飛んでいたことに気付く。

 隣を見ると、宇宙の深淵を覗くあまねがシートに横になっている。顔周りの綺麗な黒髪が重力に沿って後ろに流れ、いつもと少し違う表情を見せる。

「直陽くん」

 見とれていた直陽に、再びあまねの声がかけられる。

「うん、なに?」

「私ね、過去は変えないことにした」

 直陽は、あまねが以前「過去を変える」と言っていたのを思い出す。

「合宿の、演劇?」

「そう。その時の」

 真相を伝えるのはやめるということだろうか。いつまでも待つつもりだったが、今となっては無理に知ろうとは思わない。

「過ぎ去った過去は変えられない。だから――未来を変えようと思う」

「それはどういう――」

 そこで上映が終わった。



 誘導員に連れられて、ホールから退出する。

 ホールから出てきた二人は、ロビーの向かい合わせのベンチに座って話の続きをすることにした。

「未来を変えるってどういうこと?」

「さっき、相対性理論の話が出たでしょ。光速に近付いたり、ブラックホールに近付くことで未来には行けるけど、基本的に過去に行く方法は見つかっていないって。そこで思ったの。過去は変えられない。変えられるのは未来だけだって」

 あまねの目は真剣だ。プラネタリウムにかこつけて冗談を言おうとしているわけではないらしい。

「――でもね。私、()()自分に甘えるのも嫌なんだ。これは、その、私の完全なわがまま。必ず直陽くんには話すから。その時が来たら」

「うん。分かった」

 いつまでだって待つよ。俺はどんな君でもそばにいたい。

 あまねは一瞬(うつむ)いたかと思うと、立ち上がってくるっと背を向けた。肩で切り揃えられ、ハーフアップにまとめられた黒髪が宙を舞う。ほのかにシャンプーの香りが漂う。前にもこの香りを感じたことがあった。あれはいつだったか。

 直陽も立ち上がる。するとあまねは直陽の左手を握った。そして、

「行こ!」

 と言ったかと思うと、振り返らずに直陽の手をやや引っ張るようにして歩き出した。

 手を繋いだまま、少し前を歩くあまねの顔は見えない。

「直陽くん、ありがとね」

 つぶやく声がしたが、その声は少し震えているような気がした。

**次回予告(5-1)**


12月、写真部と汐里・あまねが集う部室で、莉奈がある提案をする。

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