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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
56/69

4-5

 夏目漱石と恋愛といえばということで逸話も紹介された。

「I love you.をどう訳したか、というのも有名ですね。正式な記録として残っているわけではなく、弟子たちに語ったと言われているだけなんですが、彼の考えからして、そう語ったとしてもおかしくはないとされてますね。知っていますか?」

 前の方にいた学生が何かを言っているが、こちらまでは聞こえてこない。

 教授はそれを聞き取り、

「そう、『今夜は月が綺麗ですね』です。当時の日本人には面と向かって『愛している』とは言わない、ということです」



 授業が終わった後、二人は教室を出て廊下のベンチに座った。

「あまねさん、この後は?」

「前は部室に顔出してたんだけど、部長とちょっとそりが合わなくて、行きづらくなっちゃった」

 ちょっと困っている様子のあまねを見て、直陽がはっとする。

「あ、ごめん。合宿で俺が余計なこと言ったから」

「え?」あまねは一瞬慌てた様子を見せ、手を振りながら否定する。「直陽くんのせいじゃないよ。そりが合わなかったのはもともとだし。それよりも⋯改めて、あの時はありがと」

「うん⋯」あまねの優しさが染み入る。「この後の授業とかの予定は?」

「毎週同じだから、午後までないよ」

 静かに微笑む。合宿の時のあまねとはまた違った笑顔。少しうれいを帯びているが、同時に包み込むような温かさもはらんでいた。

「じゃあ、天気もいいし、ちょっと出掛けない?」

「うん、いいね」

 断られるかもしれないと一瞬思ったが杞憂きゆうだった。

「じゃあ、さっそく、行こう」

 直陽はそう言うと、立ち上がり、手招きをした。あまねも立ち上がり、直陽に付いていく。

 並んで歩きながら、あまねがふふっと笑った。

「どうしたの?」

 直陽が訊く。

「なんか、今までと反対だね」

「確かに」

 少しあまねが柔らかくなってきたように感じる。

「どこ行くの?」

「うーん、気の向くままに?かな」

「それもいいね」

 心做こころなしか、あまねの笑顔が少し明るくなってきたような気がした。

**次回予告(4-6)**


直陽は静かに、しかしはっきりと、あることをあまねに伝える。

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