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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
54/69

4-3

 地下鉄はそれほど混んでいなかったが、座席は空いていなかった。座席の前に二人は並んでつり革につかまった。

「さっきの話だけど、あまねさんは、『それから』を読んだ時、どう思った?」

 あまねは少し考えてから答える。

「『気持ちを伝えること』って何なんだろう、ってことかな。代助も三千代も言うべき時に言うべきことを言わなかった。自分の気持ちに正直だったのは平岡だけで、なのに、むしろ平岡は三千代にあまり関心がなくなっている。それを含めて悲劇だな、って」

 直陽も考え込む。代助や三千代は言わなかった。平岡は言った。

 直陽もあまねに続く。

「気持ちを伝えないことは取り返しのつかないことになることもある。でも、伝えることが悲劇に繋がることもある――でもやっぱり、言葉にして伝えることは大切だと思う。たとえリスクがあったとしても」

「でも、その言葉が本当かは分からない。本当の相手の気持ちは分からない。真実かどうか知りたくて訊いたとしても、本当のことを言うかは分からない。そもそも訊けないかもしれない」

 そう言ってあまねは少しうつむき、直陽からは、前髪で目が見えなくなる。

「でも――それでも、俺は気持ちを伝えたい。後悔はしたくないから。相手の気持ちが分からないなら、そして、訊けないなら、ただ近くにいればいい。心が読めなくても、何かが感じ取れるようになるかもしれないから」

 あまねは、何かに気付いて顔を挙げ、直陽の顔を見た。しかしすぐに前を向き、

「ありがとう」

とだけ言った。

 合宿の時とは少し違うあまね。直陽は、いつまでもそばにいたいと思った。

**次回予告(4-4)**


二人は「恋愛の近代文学と心理学」の授業に出る。とある文豪の小説がテーマになり⋯。

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