4-1
後期が始まった。
十月になり、いわゆる秋晴れが続き、気持ちの上でも晴れ渡る時期。しかし、大学生は少し事情が異なる。
大学生の夏休みは本当に長い。高校までとは違って、二ヶ月もある。とすれば、それだけ復帰への抵抗も強くなる。
朝五時半。スマホのアラームで目を覚ます。カラッと晴れた天気とは裏腹に、直陽の心は眠気と億劫さに支配される。でも今日はあの授業の日。
そうか、今日はあまねさんに会える日なんだ。でもどっちのあまねさんだろう、という考えが直陽の頭をよぎる。合宿は楽しかったし、その後のLINEでもあまり変わったこともなかった。ただ問題は解決していなくて、不安も残っている。
身支度をしてバス停へと向かった。
*
バス停に近付くと、遠目からあまねが並んでいるのが見えた。
近付くにつれ、あまねの姿が大きくなる。
こっちを見ている。そして、小さく手を振っているのが見えた。
そして直陽は気付くのだ。これはよそよそしい方のあまねさんだと。
「おはよう」若干気を遣っている自分に気付く。
「おはよう」あまねも返事をする。
ただ、夏のよそよそしさとは少し違った気もした。まず俯いてはいなかった。よそよそしいというよりは、少し元気がないように見えるといった方がいいかもしれない。天真爛漫さは鳴りを潜めているが、ある意味普通と言えるのかもしれなかった。
「私、どうかな」
「どう、って?」
「合宿のときと、比べて」
「ちょっと元気がないかなとは感じるけど。体調悪いとか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだ。心配してくれて、ありがと」
直陽はあまねの目を見た。その目の奥を覗けば、写真で切り取るように、何かが見えてくるかもしれないと思ったからだ。
何かが見えかけたと思った瞬間、あまねは目を逸らした。
「バス、隣に座っていいかな」あまねが訊いてきた。
「うん、もちろん」と直陽は答える。
**次回予告(4-2)**
バスの中で「恋愛の近代文学と心理学」の話題になり⋯。




