3-20
夕食も終わり、飲み会の時間になる。
これまでも毎日のように飲み会はあったが、あくまでも非公式な部屋飲みだった。今日は合宿最後の夜なので、公式な飲みがある。部屋のある四階の同じフロアの端に座敷の休憩室があった。研修室まで行くほどではないちょっとした打ち合わせにも使えるような部屋だ。そこを最終日の夜だけ借りている。
部員十人が集まった。
部長の村瀬が音頭を取る。
「それではいよいよ明日が最終品評会になります。昨日・今日は和楽器部の方々のお陰で、今までにない写真が撮れたかと思います。明日は――」
「もういいよー」
涼介が野次を飛ばすと、
「そうだー」
と莉奈が便乗した。
慌てて村瀬が、
「――かかかかかんぱーい!」
と言ってグラスを掲げた。
二年生を中心に笑いが起きる。瞬も笑っているが、楓菜と暁人は無言のままだ。美咲ははぁと溜め息をつく。
「かんぱーい!!」
一同改めて乾杯の声を挙げた。
*
初めは学年ごとで固まっていたが、次第にバラけ、それぞれの話に花を咲かせていた。
今年の夏も、もうすぐ終わるんだな。
直陽はそう考えながらしみじみと仲間を眺める。いつの間にか何人かのセットになって話し込んでいる。
村瀬、美咲。
暁人、涼介、琴葉。
莉奈、靖太郎。
瞬、楓菜。
お、木島君、頑張ってるじゃないか。
直陽は一人になってしまったが、特に気には留めていなかった。もともと一人が嫌いではないし、飲み会の「谷間」というのはいつでもあるものだと思っているからだ。
そうだ。
どうせだから、この場を残しておこう。そう思い立って、撮影して回ることにした。
村瀬、美咲のところに近付く。
「自然にしててください。邪魔はしませんから」
そう言って二人の写真をいろいろな角度から撮る、二人も心得たもので、撮られ慣れている。カメラマンの存在をなきものとして振る舞っている。
撮りながら思う。すごく自然だなと。サークル内で付き合うとなると、皆の前でではよそよそしくなるか、逆に見せびらかすかどちらかだと思うのだが、この二人は「仲の良い友達+アルファ」という雰囲気をまとっている。恋人同士に見えなくもないが、ただの友達にも見える。そういう絶妙な空気をまとっている。写真としては面白いものが撮れる。
「ちょっと話しかけていいですか?」
「うん、いいよ」美咲が答える。
「どっちからだったんですか?」
「訊くねえ」美咲が笑う。こういう話を二人は嫌がらないことは何となく分かっている。
「私からだよ」美咲が言う。「ね?」
「お、おう」
むしろ慌てているのは村瀬の方か。
「部長のどこを好きになったんですか?」
そう言いながら、時々シャッターを切る。
「かっこよかったからかな」恥ずかしげもなく美咲は答える。「ほら、村瀬って体がガッチリしてるでしょ」
「元球児でしたっけ?」昔どこかで聞いたことがある。
「そうそう、どういう雰囲気に惹かれたのかな」
「まあ」村瀬も口を開く。「万年ベンチだったけどな」
「高科先輩は誰もが認める『綺麗なお姉さん』ですけど」インタビューアーになりきって直陽は続ける。「付き合い始めた時、話題にならなかったですか?」
「なったな」村瀬が少し誇らしげに答える。
「当時は――」美咲は目線を天井に向け、昔を思い出す。「入部したてのころは
、他にも三人くらい部員がいたんだよね。その中でかなり話題になった」
美咲はちょっと自嘲気味に笑いながら続ける。
「さっき綺麗なお姉さんって言ってくれたけど、私、大学入るまでめっちゃ地味っ子ちゃんだったからね」
「あ、そうそう、入部したばかりの頃は顔が隠れるような髪型しててね」
村瀬はそう言って笑いながら美咲を見る
。
「そんな頃もあったねえ。村瀬を好きになって、クラスの友達に相談したのよ。そしたらいろいろ指南してくれてね」
「なるほど。二人にも歴史があったんですね」
何枚かさらに写真を撮って、軽く挨拶をしてその場を離れた。
**次回予告(3-21)**
自分の席に戻り撮った写真を眺めていると、あの子からLINEが届く。
**作者より**
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