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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
40/69

3-15

 二年生の皆がバラけていった後、莉奈が残り、小さな声で訊いてきた。

「あの後、どうだったの?」

「あのって?」

「ほら、七月の打ち上げの後。あまねちゃんに駅で会ったでしょ?」

「見てたのか」

「結構人がいたから、じっと見てたわけじゃないよ。盗み見してるみたいなのも嫌だからすぐに離れたけど」

 目の前に広げてあるポテチを一口食べる。

「一緒に帰った」

「おー、すごいじゃん」

 驚いた後、莉奈は一瞬真顔になり、思い出したかのように訊いた。

「⋯言いにくいんだけど⋯その、あまねちゃん、その時別の男といなかった?」

「うん、あっちの部長といたみたい」

「あの時間ってことは⋯飲んでたのかな」

「かも」

「はあ⋯」

 莉奈は残念そうに、手に持ったグラスを揺らした。

「でも、『付き合ってない』って」

「え?⋯それ月城君が訊いたの?」

「いや、あまねさんから」

「おお。それで一緒に帰ろうって言ったの?」

「うん、あまねさんが」

「おおお!お前、それ勝ちじゃん!なのに、なんでそんなに落ち込んだふうなんだよ」

 莉奈の驚きの声に、視界の奥に見える靖太郎が一瞬反応し、直陽と目が合う。

「バスに乗ってる間、ずっと無言だった。何も話せない感じで。結局俺も訊けなかった。バス停での別れ際、『私、頑張る』って」

「頑張る?どういうこと?」

「分からない。バスに乗っている間、あまねさんはずっと俺の手を摑んでいた」

「摑んでた?つないでたじゃなくて?」

 少し離れたところでよろけて盛大に倒れる涼介の姿が目に入る。「大丈夫かあ」という声も聞こえる。こぼれたビールの匂いがかすかに香る。

「あの時はちょっと俺ものぼせてた。嬉しくて。でも今思うと、あれは⋯」

「何かに怯えている?」

「分からない。時々、そういう雰囲気になるときがある」

「確かに。七月の部室に来てた時も、ちょっと違和感感じてた」

 視界の先には、青柳さんと話をしている瞬の姿が見える。

 莉奈が続ける。

「⋯今回ここで会った時は?ちょっと話せたって言ってたよね?」

「もう前のあまねさんに戻ってた。明るくて、天真爛漫の」

「ただのメンヘラってわけでもなさそうだな⋯。琴葉と話してた時もすごく変ってわけでもなかったんだよ。ほんの少し違和感を感じたってだけで。まあ私の女の勘?みたいな」

「南条さんも――文芸部の三年生で、あまねさんの友達なんだけど――『私には特別変な風には見えない』って。ただ、『ああ見えて、繊細な子』だとも言ってた」

「うーん」

 莉奈も直陽も無言になってしまう。

「『いくら考えても推測からは推測しか生まれない。その人には、自分が把握してない事情があるかもしれない』」

「何それ?授業か何かで聞いたやつ?」

「ううん。あまねさんが言ってた」

「どっちの?」

「天真爛漫の方」

「何かのメッセージかな」

「かも。⋯それと、『あとは動くしかない』とも」

 莉奈が手に持っていたグラスのビールをぐいっと飲み干す。

「何か、助けを求めてる、とか?」

「うーん、動いてほしいって意味にも取れるし、ただ単に、考え過ぎないで、まずは動いてみようって励ましてるだけのようにも聞こえる。ちょうど成瀬さんとの件で落ち込んでた時だったし」

「なるほどね。あ、バスで何か言おうとしてたんだっけ?」

「うん。何か言いかけてた。言いかけて飲み込んだ感じ」

「じゃあ、自分から言おうとはしてるんだ」

「そう、だね。だからこそ、俺からは聞き出すのは嫌なんだ」

「自分から言い出すのを待つ、か。『助けを求めているわけではない』という前提の話だけどね」

 そういって莉奈は遠い目をする。

「確かに。だから、あまねさんに近い人たちから、時々それとなく情報を集めてみるよ」

「うん、私も気付いたことあったら言うね」

「うん、ありがとう」と言って直陽は立ち上がった。「ちょっと酔い覚ましに歩いてくる」

「おう」莉奈は軽く手を挙げて直陽を見送った。


**次回予告(3-16)**


酔い醒ましにロビーに行ってみると、あまねと男子の声がする。

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