3-13
夕食時は、文芸部がいなかった。時間を少しずらしているのかもしれなかった。日中も見かけなかったから、どこかにこもって書いているのかもしれない。
旅館部分と研修所部分を結ぶ渡り廊下には簡易的なベンチが置かれている。そこに座り、食堂でもらったコーヒーを飲んでいると、旅館側からハーフパンツにTシャツ、短髪でやや童顔な、少年風の男子が直陽に近付いてきた。
「もしかして、直陽君ですか?」
「あ、はい。ええと⋯」
「俺は文芸部の佐伯大地っていいます」
ああ、朝、あまねさんの向かいに座っていた男子だと気付く。
「朝霧さんが直陽君のことを話してたんですよ」
「え?俺のことを?」
何を話していたんだろう。気になってどぎまぎしてしまう。
「朝、朝霧さんが手を振ってたじゃないですか?誰?ってなりまして。久我先輩も南条先輩も知ってる風だったんで」
「うん」
「朝霧さんは、『ひょんなことから』仲良くなった人、とだけ言うんです」
「うん、まあ、そんな大した話ではなくて。大地君は二年?」
「そうっすよ」
「同じ学年だね。敬語も変だから、普通に話そうか」
「おっけー」
そう言って大地は直陽の隣に座った。
「そういえば、今日文芸部を見かけなかったけど」
さっき疑問に思ってたことを訊いてみる。
「会議室にこもってワークショップだね。一つテーマを決めて、例えば『怒り』とかね、これに関わる短編小説を書いて、見せ合おう!みたいなやつ。久我先輩――部長なんだけど――張り切っちゃって。こうやって他サークルの人たちと話すこともほとんどできなかった。写真部はどうしてた?」
そういうことだったのか。
「写真部は和楽器部を回りながら、練習風景を撮らせてもらってた」
「それはうらやましい。やっぱ、いろんなのを見たり聞いたりした方が、執筆活動も捗ると思うんだよな」
「久我先輩に提案してみたら?」
「うーん、あの人頑固だからなあ。ちなみに、その部の人たちとは話はしてみた?」
「少しだけ。和楽器の曲の音階ってどんなものか、とか」
「面白そう!いいなあ」
大地君はだいぶ素直な性格のようだ。
「いいこと聞けた。久我先輩に提案してみるよ。うまくいくか分からないけど」
そう言って大地は立ち上がった。
直陽もそろそろ部屋での飲み会が始まる時間だったので、部屋に戻ることにした。
**次回予告(3-14)**
二日目の飲み会が始まる。後輩の瞬が直陽とあまねの関係に興味を持つ。




