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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
35/69

3-10

 昼食までまだ時間があったので、直陽は旅館側のロビーで一人くつろいでいた。そこにはソファーとテーブル、新聞・雑誌立て、テレビが置かれている。さっきからテレビは繰り返し台風のニュースを流している。予報円は日本列島を弓なりに連なっている。

 このまま行けば今日の夜にはこの地域は暴風域に入る。窓から外を見ると、嵐、というほどでもないが、普段の雨よりも強い、という感じの天気になっていた。外に出ようとは全く思わない。副部長には感謝だな。

 その時だった。

 旅館の扉が荒々しく開けられ、「早く早く!」という声が聞こえてきた。何人かの学生が雨に濡れながら、駆け込んできた。

「あれ?!月城君?」

 そこには見知った顔、汐里がいた。

「写真部も合宿だったんだね」

「はい。昨日から。これは文芸部の合宿ですか?」

「そう。今日から三泊四日」

「じゃあ、一日遅れですね。うちは一日早く出ていくことになりそうです」

 文芸部が合宿。ということは――

「直陽くん!」

 そこには朝霧あまねがいた。あまねの顔を見る自分が緊張していることに気付く。

「写真部も合宿なんだね。もしかしてそうなんじゃないかなーって思ってたんだよね。確か去年も一日くらいかぶってた気がする」

「そうだっけ?」記憶にない。というか、去年の自分はそんな余裕さえなかった。見てさえいなかったというのが本当のところだろう。

「今年は二日半かぶりってとこかな?時間あると思うから、またお話ししよう!」

 そう言って、あまねは直陽に手を振りながら、汐里とともに学生たちの流れに戻っていった。

 学生の流れの真ん中あたりに久我先輩もいた。全体に指示を出して後輩たちに道案内をしている。ああやってるのを見ると、先輩なんだなと思う。皆の前に立って、大きな声で指示を出す⋯今の直陽には想像もできない。

 ハッとして直陽は時計を見る。慌てて食堂へと向かった。



 食堂の席に座る。こうして見てみると、今この合宿所に来ているサークルの構成が分かった。初日には気付かなかったが、各団体の通路側には、サークル名を示すプレートが置かれている。

 ここが写真部で、隣が和楽器部、さらに文芸部と続いていた。和楽器部は40名ほどもいる。文芸部は10名程度で、写真部と同じくらいだった。

 少しすると、続々と部員が入ってきた。

 ちらっと文芸部に目をやると、あまねが談笑している姿が見えた。隣には汐里、その向かいには久我先輩が見える。

 あまねの隣は、別の談笑の輪がある。男女六人グループ。一年生かもしれない。

 あまねの向かいには見たことはない男子がいた。あまねたちの会話に自然に加わっている。胸がきゅっと締め付けられるのを感じる。

 はぁ⋯。周囲に聞こえない程度の溜め息をつく。いちいち気になる自分が情けない。

 次の瞬間、あまねと目が合う。あ、という感じで手を振っている。

 直陽はどきっとする。え?俺?まさか。

 しかしあまねと直陽の直線上に、あまねを見ている人や手を振っている人はいなかった。後ろを振り向いてみるが、そににあるのはやや黄ばんだ壁だけだった。

 前に向き直り、直陽はぎこちなく、小さく手を振った。


**次回予告(3-11)**


和楽器部を回り始める。昔学校の授業でやったことを思い出し、直陽は懐かしい気持ちになる。


**作者より**


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