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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
34/69

3-9

 翌日は台風がかなり接近し、午後には強風域に入るということだった。

 朝食後、写真部全員が会議室に集まった。椅子や机は取り払われ、真ん中のプロジェクターだけが残されていた。

 部長の村瀬が皆に告げる。

「では、昨日の午後ペアになって撮ってもらった写真をみんなで見ていこうと思う。先輩後輩関係なく、ざっくばらんに思ったことを言っていい」

 昨日撮った部員の写真は全て部長に渡されている。全て見るのは大変なので、部長がある程度選別している。

 一人一人の写真が映し出されていく。

 涼介の撮る人物写真はみんな笑顔で、誰もが楽しそうに見える。楓菜もややぎこちないながらも笑顔で映し出された時にはやや歓声が上がった。

 莉奈が涼介をひじで小突く。

「さすがは涼介、笑顔にさせる能力はピカ一。やるな、チャラ男」

 涼介は嬉しそうだ。

 直陽はちらっと楓菜を見た。ややムッとしているような気もする。

 楓菜のもとに、さりげなく琴葉が近付く。何かをそっとつぶやいている。直陽は、また怒らせるようなことを言うのではと心配になったが、驚いたことに楓菜は少し微笑んだ。

 靖太郎の写真が映る。

 これまで言葉を発していない一年の鳴海暁人が

「どれもポーズがわざとらしい」

と言った。全体がざわついた。第一声がそれか。なかなかのくせ者だぞという雰囲気が漂う。

 そこに瞬が手を挙げる。

「でも、どれも映画のポスターみたいで、映えます。やはり簡単にできることではないですよ」

 それを聞いても暁人はピクリとも動かない。

 確かに、とみなが頷いた。

 次は直陽の撮った写真の番だった。

 楓菜がロビーの椅子に座り、両手にペットボトルのジャスミンティーを持っている写真が映し出される。

「こ、これは⋯」どこからともなく、そんな声が漏れる。

 靖太郎が口を開く。

「決して派手ではないなりよ。展覧会で貼ってあったら、人によってはすっと通り過ぎてしまうかも。でも、よく見ると、目の中に、迷い、悲哀、喜び、期待⋯そういうものがほんのわずかに見える。それに気付くか気付かないか、すごく絶妙な度合いで垣間見えるのがすごいなりよ」

 琴葉の写真には、瞬が映っていた。

「頑張ったじゃん」莉奈が褒める。

 琴葉も嬉しそうだ。

 写真の中の瞬は、涼介が撮ったような満面の笑みを浮かべているというわけでもなく、直陽のように何かを切り取っているというわけでもない、ごく自然な笑顔。

「木島君だから撮れた。先輩たちと関わろうとしてくれるから。ありがと」

「いえいえ。先輩の力ですよ」

 瞬は言葉選びが上手だなと直陽は思う。

 莉奈の写真の番だった。

 映っていたのは靖太郎。スマホ画面を嬉しそうに差し出している構図。スマホ画面には、自身が撮ったコスプレイヤーの写真が映し出されている。恐らく自分が撮った写真について熱く語っているところなのだろう。実に靖太郎らしい。それがよく現れている。

「俺達の知る靖太郎、そのままだね」直陽が言う。「セイタはいろんな顔がある。オタクの顔と実は真面目でいいやつの顔。その中でも特に俺たちが普段見る、ある意味セイタらしいセイタ。それをあえてコガリナが撮るってのがまたいいよな」

「『オタクに優しいギャル⋯』ってやつなりね」

「それ、言おうと思ってた!」涼介が切り込む。

 場が温まってきたその時だった。

「とまあ、ここまで盛り上がってきて申し訳ないのだが」部長の村瀬が全体に響く声で話し出す。

「一年生の写真を品評するのはやめようと思う。合宿も一日目の写真だし、それをどうこう言いたくない。最終日には総括品評会をする予定だから、そこでやろうと思う」

 二年生は皆うんうんと頷く。

「俺は構いませんけど」と瞬が申し出る。

「まあ、その、なんだ」村瀬が口ごもる。そこで後ろに控えていた副部長の高科美咲たかしなみさきが代わりに状況を伝える。

「部長も、部長という立場で緊張しちゃってね。最終日まで見せたくないって言うの。だからってわけじゃないんだけど、一年生もまだ見せなくていいかなって」

「情けないなりね⋯」

と靖太郎が呟く。

「べつに俺達は問題ないですよ」と涼介。「一番人数の多い学年ですし、『見せしめ』としてはダメージが少ないです」

 涼介が言うと嫌味がなくていい。

「それに」美咲が続ける。「実は午後から

新しいことやろうと思って。そっちに時間を割きたいってのもあるの。台風が来ちゃったでしょ?それで、山登りとか、朝日見に行くとか、予定が全部ダメになっちゃったから。その代替案」

「そういえば、そうでしたね」莉奈が合いの手を入れる。

「それで、さっき、合宿所内の他のサークルに声掛けてみたの。そしたら、和楽器部が活動している姿を撮っていいって」

「それいいですね。今までとは違うものが撮れそうですね」莉奈が感嘆する。「何か条件はあるんですか?」

「練習や発表を邪魔しないというのは大前提。大きな声を出したり、視界を遮ったりしないこと。あくまで記録を残すカメラマンのように」

 皆黙って聞いている。これからのイベントにワクワクしているようだ。

「あと、撮った写真の扱いについて。部内の鍵アカのインスタに載せるのはいいって。不特定多数に見えなければ。あと、向こうのサークルの宣伝に使いたいから、撮った写真をくれることと、自由に使っていいこと」

 美咲が丁寧に説明する。

「著作権を使わせてってことなりね。何かコンテストに応募するわけじゃなくて、俺たちの練習用なんだし、それは気にしないなりよ」

 他の部員もうんうんと頷き、靖太郎に続く。

「じゃあ、決まりだね。昼食を食べたら、一旦ここに集合しよう。それから各自お邪魔することにしましょう」

 そう言って美咲は自分のノートのコピーを机に広げる。そこには活動場所とタイムテーブルがメモされている。

「今日は会議室ごとに分かれてパート練習や個人練習をしている。そして、明日の午前から午後にかけて、大ホールで最終日演奏会が組まれてるみたい。」

「演奏会も撮れるわけか。いいですね」直陽も楽しくなってくる。

 美咲は続ける。

「誰と組むかとか、どこに行くかとかの縛りは付けないことにする。どうせだから自由に動きたいでしょ」

 そこで部長の村瀬がまとめに入る。

「最終日――明後日の午前中に最終品評会をすることを忘れるな。それを目指していい写真を撮ってきてほしい」

「あんたがそれを言うなって」

 美咲が小声で突っ込むと、皆が笑った。

「まあ、一応部長にまとめさせてくれ」と言って村瀬はにこやかに続ける。「じゃあ、昼食を食べたらここに集合してくれ。解散!」


**次回予告(3-10)**


嵐が本格化しそうな時、文芸部が到着する。あまねは直陽を見つけ、「またお話ししよう!」と告げる。

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― 新着の感想 ―
Xからきました。 オタクに優しいギャル…いるんですね
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