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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
33/69

3-8

 その日の夜、夕食が終わった後、自由時間となった。自由とは言いつつ、各部屋に戻り、部屋飲みになるのが通例だった。

 部屋は各四人部屋なので、直陽、靖太郎、涼介、そして三年生の村瀬、の男子上級生部屋、暁人、瞬の一年男子部屋、莉奈、琴葉、楓菜、副部長――高科美咲たかしなみさき――の女子部屋の三つを借りていた。

 上級生男子部屋に男子が、女子部屋に女子が集まって飲むことになった。もともと大騒ぎするサークルではないので、部長が――そして恐らく女子部屋では副部長が――簡単に挨拶をした後は静かな語らいの場になった。

 初め、二年生同士、一年生同士で固まっていたが、自然とバラけ始めた。

「先輩!」

 瞬が直陽の隣にやってくる。

「今日はペア、ありがとうございました」

「結局何も教えられなかったけどな」

 直陽が苦笑する。

「いえ、単純に楽しかったです、先輩と写真撮れて」

 楽しい要素があっただろうかと、思い返してみる。

「そうだ、あの時、木島君は何か言おうとしてたんじゃないかな?」

「いや、まあ⋯」曖昧あいまいにぼかそうとする。

 直陽は瞬の顔をじっと見つめるが、瞬は困るばかりで何も言わない。

「後半は、青柳さんとだったよ」

 直陽のその言葉を聞いて、瞬はピクッと動いた。

「どうして、それを俺に?」

「特別意味はないけれど」

 今度は瞬が直陽を見つめてくる。

「木島君は、青柳さんのことが気になってるんじゃないかと思ってね」

「どうしてそう思うんですか?」

「今日話してみて分かったんだけど、青柳さんは自分の感情を表すのが苦手みたいだね。言葉数も少なめだ。でも小さな仕草一つ一つに、儚さというか、か細い何かがあって、目が離せなくなる。人を惹きつける何かがあるように感じたよ」

 途中まで直陽の目を食い入るように見ていた瞬は、段々と伏し目がちになる。

「自分でも分からないんです。好きなのか、どうなのか。でも気が付けば視界の端で追っている」

「それはもう――」

「分かってます。好きなんだと思います。でも認めたくない自分もいるんです。何話しても一つか二つの返事で終わってしまう。きっと青柳さんは俺になんて興味がないんです。――でも、たまに、本当にたまに⋯。この前『《《木島君って》》前向きだよね』って言ったんです。俺が主語の言葉を初めて聞きました。それが飛び上がるほど嬉しくて⋯。こんな自分が本当に嫌になります」

「どうして嫌になるの?」

「だって嫌じゃないですか。明らかに俺のことなんて興味ないんですよ。なのに頑張って話しかけて、そのたびにいちいちヘコんで。どんどんみじめになります」

「普段なかなか話すのが難しい子だから、時々見せるそういう姿が嬉しいのかもしれないね」

「⋯はい」

「やっぱり、木島君は青柳さんのことが好きなんだよね?」

 うつむいたまま膝に乗せた手を強く握る。

「⋯はい」

「ならそれでいいじゃないか。好きなものは好き。木島君の気持ちは、誰も否定することはできないよ。恥じ入ることもない。誠心誠意、関わっていけばいい」

 瞬はまたうつむく。膝に乗せられた拳は小刻みに震えている。

 見るとその拳の上にポタッ、ポタッとしたたり落ちる涙が見えた。

「ありがとう、ござ、います」

「机上の空論かもしれないことを前提に聞いてほしいんだけど」直陽は記憶の片隅から知識を引っ張り出す。

「人は皆、一番興味があるのは、自分自身なんだって」

 ゆっくりと、充血した目を向ける瞬。

「相手のことを知りたいって思って――たぶん木島君は既に青柳さんのこと知りたいと思ってると思うけど――いろんなことを訊いてみるといいみたい。もちろん、青柳さんは感情表現も言葉も乏しいから、かなり精神的に疲れるかもしれないけど」

「青柳さんのこと、知りたいです。悔しいけど」

「うん」

「⋯青柳さんとゆっくり話す機会ありますかね?」

「合宿は、二日目以降はほぼ自由撮影の時間になる。その時かな。あと、明日の夜は男子部屋、女子部屋を行き来する雰囲気になるよ。三日目の飲み会は『公式』で、全体で飲むしね」

「分かりました。頑張ってみます」

 瞬は何かを考える風を見せる。早くも今後の作戦を練っているのかもしれない。

 ふと周りに目を向けると、涼介が既に出来上がっていて、靖太郎を困らせている。暁人のところに部長の村瀬が話しかけている。

 まだ一日目。やや控えめに夜は更けていった。


**次回予告(3-9)**


昨日撮った写真をお互い見合うことに。二年生の写真を見終わったところで、部長からある提案が出される。


**作者より**


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また、感じたことがあれば、短くても構いません。感想をいただけると嬉しいです。

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