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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
28/69

3-3

 合宿所の最寄り駅に到着した。時計は午前11時を回っていた。そろそろお腹が空いてくる頃合いだが、あと一踏ん張り、バス移動が待っている。バス停の標識を見ると、田舎のせいもあり、数時間に一本程度しか来ないようだ。しかし当然時間に合わせて予定は組んである。十五分ほど待つとバスはやってきた。



 研修所の前でまずは集合写真を撮る。

 一年生から三年生までで十人、引退した四年生が後から数名合流するとは聞いている。普段は特別、全体活動のようなものは設けていないので、部員全員が集まることは少なく、貴重な機会かもしれない。夏合宿で初めて会う部員もいるくらいだ。

 新入部員が確定する五月頭に部員全員のプロフィールが配られる。しかし写真は載っていないので、ここで渡される集合写真とプロフィールが合わさって初めて部員全員を把握するというのが毎年の流れだった。

 合宿所は研修所に民間の温泉旅館が併設されている。宿泊は温泉旅館に、研修は研修所の会議室などを借りる。渡り廊下で繋がっており、自由に行き来できる造りになっている。

 皆を集め、部長の村瀬が号令を出す。

「それでは鍵を受け取り、荷物を置いたら、三階にある食堂に集合してください」

 旅館部分の造りはやや古めかしく、ところどころ経年劣化でさびれた色をしている。しかし清掃は行き届き、むしろレトロさが一種の味を醸し出していた。

「部屋は四階、食堂のすぐ上なりね」

 靖太郎が、預かった鍵をチャラチャラさせながら言う。

 部屋はよくある普通の旅館という感じで畳敷きだった。真ん中にちゃぶ台があり、お茶が飲めるようになっている。奥の板張りの部分があり、テーブルと椅子が置かれている。

「ここで、村瀬部長と合わせて男子四人が寝るわけか」直陽が呟くと、

「すぐに寝るかどうかはまた別の話だけどな」と涼介が答える。

 少しだけ考えてから靖太郎が続ける。

「そういえば、去年は毎日眠かったなりね。何やかんや語ってた気がするなりよ」

「確かにそうだったな」直陽が天井の隅を見つめながら続ける。「去年の今頃はまだ女子とはほとんど話していなくて、男子だけでかたまってた記憶がある。今年はもっと自然に話せるかもしれないな」

 それ聞いて涼介が、

「コガリナと語り合いてー!」と言った。

「本当に涼介は気持ちを隠さないなりね」

 昨年の直陽は一人暮らしを始めたばかりで、クラスでも友達作りに遅れを取り、何とか居場所を見つけようと思っていた時だったから、この合宿はありがたかった。特にこの二人と気が置けない間柄になれたのは何よりの収穫だった。その時は女子と話したいとは思っていなかったが、一年とは早いものだ。ここまで関係性が変わるのだから。来年の今頃は、十年後は?未来は予測がつかない。とはいえ、琴葉とまともに話せるようになったのもここ数ヶ月の話だが。

 荷物を置いて、食堂へと移動する。


**次回予告(3-4)**


昼食が始まった途端、靖太郎と涼介が茶碗を持って走り出した。

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