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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第二章 夏
24/69

2-11

 写真部二年生の五人は駅に向かった。靖太郎は、まだふらふらしている涼介の肩を抱えている。駅前の照明が白く、アスファルトには昼の熱がまだ残っている。

「いいかげん起きるなりよ」

 改札の電子音が連なり、途切れがちな人波がホームへ吸い込まれていく。

「ふあぁ」

 涼介はまだ半分夢の中にいるらしい。

 改札を越えたところで丸くなり向かい合う。莉奈が音頭を取る。天井の送風口が低く唸り、ポスターの端がわずかに揺れた。

「とりあえず、テストお疲れ様でした。夏休みに入るけど、インスタの活動はそのまま続けよう。時々部室に来てもいいしね。じゃあ、次にみんな揃うのは九月の合宿の時だね」

「なんかもう、部長の貫禄あるなりね」

「確かに」直陽が同意する。

「莉奈ちゃん、いろいろごめん、ありがと」琴葉が呟く。

 輪がほぐれ、靴音が別々の方向へ散っていく。構内アナウンスが途切れ、週末の喧騒が際立つ。

 直陽が歩き出そうとした時、左の方から、「あ⋯」という声が聞こえた。つられて左を向くと、あまねと久我先輩が立っていた。

「こ、こんにちは」直陽は不意を突かれて、ついどもりがちに挨拶をしてしまう。

 久我先輩があまねに向かって、

「それじゃ、今日はどうも。また明日」

と言ってさっと手を挙げる。蛍光灯の光がその手の甲で白く反射する。

「こちらこそ、ありがとうございました」

とあまねも答えた。

 直陽は久我先輩を目で追いながら、

「やっぱり爽やかで、さすが先輩って感じ」と言って、あまねに視線を向ける。

 直陽とあまねは、二メートルほどの間隔を置いて立っていた。足元のタイルに二人分の影が、少し離れて並ぶ。あまねはややうつむきがちだ。改札脇の自動ドアが開閉し、そのたびに涼しい風が流れる。

「「あのっ⋯」」二人同時に声を出す。

 どうぞ、と直陽が手で示すと、あまねが、

「付き合って⋯ないから⋯」と言った。

 発車ベルが遠くで短く鳴り、言葉の余韻を途切れさせる。

「え?」

「久我先輩はただのサークルの先輩、だから⋯」

「うん」

「⋯次は直陽くんの番」

「あまねさんはこれから帰るところ?」

「うん。⋯一緒に帰っても、いい?」

 直陽は少し驚きながらも、

「うん、もちろん」

と答えた。


**次回予告(2-12)**

一緒に帰ることになった直陽とあまね。「思っていることを言ってくれていいよ」と言ったあまねに対して直陽は⋯。


第二章「夏」編、完結。直陽とあまねの心は再び近付くことができるのか?

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