2-11
写真部二年生の五人は駅に向かった。靖太郎は、まだふらふらしている涼介の肩を抱えている。駅前の照明が白く、アスファルトには昼の熱がまだ残っている。
「いいかげん起きるなりよ」
改札の電子音が連なり、途切れがちな人波がホームへ吸い込まれていく。
「ふあぁ」
涼介はまだ半分夢の中にいるらしい。
改札を越えたところで丸くなり向かい合う。莉奈が音頭を取る。天井の送風口が低く唸り、ポスターの端がわずかに揺れた。
「とりあえず、テストお疲れ様でした。夏休みに入るけど、インスタの活動はそのまま続けよう。時々部室に来てもいいしね。じゃあ、次にみんな揃うのは九月の合宿の時だね」
「なんかもう、部長の貫禄あるなりね」
「確かに」直陽が同意する。
「莉奈ちゃん、いろいろごめん、ありがと」琴葉が呟く。
輪がほぐれ、靴音が別々の方向へ散っていく。構内アナウンスが途切れ、週末の喧騒が際立つ。
直陽が歩き出そうとした時、左の方から、「あ⋯」という声が聞こえた。つられて左を向くと、あまねと久我先輩が立っていた。
「こ、こんにちは」直陽は不意を突かれて、ついどもりがちに挨拶をしてしまう。
久我先輩があまねに向かって、
「それじゃ、今日はどうも。また明日」
と言ってさっと手を挙げる。蛍光灯の光がその手の甲で白く反射する。
「こちらこそ、ありがとうございました」
とあまねも答えた。
直陽は久我先輩を目で追いながら、
「やっぱり爽やかで、さすが先輩って感じ」と言って、あまねに視線を向ける。
直陽とあまねは、二メートルほどの間隔を置いて立っていた。足元のタイルに二人分の影が、少し離れて並ぶ。あまねはやや俯きがちだ。改札脇の自動ドアが開閉し、そのたびに涼しい風が流れる。
「「あのっ⋯」」二人同時に声を出す。
どうぞ、と直陽が手で示すと、あまねが、
「付き合って⋯ないから⋯」と言った。
発車ベルが遠くで短く鳴り、言葉の余韻を途切れさせる。
「え?」
「久我先輩はただのサークルの先輩、だから⋯」
「うん」
「⋯次は直陽くんの番」
「あまねさんはこれから帰るところ?」
「うん。⋯一緒に帰っても、いい?」
直陽は少し驚きながらも、
「うん、もちろん」
と答えた。
**次回予告(2-12)**
一緒に帰ることになった直陽とあまね。「思っていることを言ってくれていいよ」と言ったあまねに対して直陽は⋯。
第二章「夏」編、完結。直陽とあまねの心は再び近付くことができるのか?




