あしらう
ジークはじろりじろりと武器を構える探索者を順番に睨んでから、全員がこの階にいるべきでないことを悟る。少なくとも先ほど逃がした喋る魔物に一対一で出会った場合は全員が殺される。
数人の命を捨てる覚悟で戦えば、通常状態のこの階を生き残ることくらいはできるかもしれないが、少しでも上振れした魔物が出てくれば被害は甚大になることだろう。
「おい、帰れ」
伝えるべきか伝えぬべきか。
そんな葛藤はほぼなかった。
ここにいる全員の命にかかわることなのだから、あまり関わるなと言われていても、流石に従うわけにはいかない。
「お、おお、喋った……」
数人がほっとする中、しっかりと武器を握っていたアプロムだけが、周りの様子を見てようやく少しばかり安堵したようであった。
「……お前……探索者か?」
「そうだ」
代表者であるアプロムが尋ねる。
訝しげな問いかけに、ジークは愛想のない顔つきで返事をする。
人によっては怒っているようにも見えるだろうが、別にごく普通の表情である。
「魔物討伐の邪魔した上に、帰れってどういうことだよ」
突っかかるような言い方をしたアプロムに対して、周りにいる人物たちは動揺していた。現れた時の肌を刺すような威圧感は、苦戦していた喋る魔物ですら警戒して手を止めたほどだ。
できることならば言葉の通じる探索者と、こんなところでもめ事にはなりたくない。
「邪魔……?」
ジークは何を言っているかわからず、動けないほどの怪我をしている者たちの方へ歩み寄り、ベルトに取り付けたポーションを取り出しながら首をかしげる。
これだけのけが人を出しているのだ。
あのまま戦っていればさらに数人の死者を出していたはずだとジークは考える。
実際はアプロムたちの巧みな連携によって、ジークが考えているほどの被害は出ていなかったかもしれないが、少なくとも再起不能レベルのけが人はゴロゴロと転がっている。
事実との大きな違いはないはずだ。
ジークがポーションを取り出したのを見て、アプロムは鋭く忠告する。
「おい、何してんだ!?」
血を流しすぎている探索者がいるから、とりあえず止血するためにポーションをかけるだけだ。
ジークは、よく分からないがアプロムがとにかく喧嘩を売りたいのだろうと理解する。別に相手をしてやってもいいが、まずはけが人をどうにかするのが優先だ。
だから一言だけこう返した。
「黙ってろ」
ポーションの蓋を開けて、傷口にたらした瞬間、アプロムが剣を片手に駆け寄ってくる。
ジークはその大剣の一撃を、屈んだまま片手で受け止めて、意外な怪力に驚いた。
剣を斜めにして受け流そうとすると、アプロムはそうさせまいと上から押し込むように力を入れてくる。
「何をする」
「よそ者が邪魔すんじゃねぇよ」
「お前こそ邪魔をするな」
ジークは体をひねりながら腕を下げるように振って剣を滑らせ、先端についた鉤にアプロムの剣をひっかけて弾いて立ち上がる。
力だけではない、確かな技術を伴ったいなしであった。
その隙に立ち上がったジークは、左手で剣を持ったまま他にポーションが必要そうな探索者を見つけて移動する。その隙にアプロムがまた迫ってくるが迎撃態勢がしっかり整っていれば、アプロムの攻撃は受け止めるまでもない。
片手でいなし、鉤を上手く使い翻弄しながら、倒れている探索者たちにポーションをかけていく。
これだけ近くで見ていれば、アプロムもすでにジークが何をしているか気付いていたが、それはそれとして、こんなあしらい方をされて黙って引き下がるわけにはいかない。
「このっ、舐めるな!」
ジークは必要な者全員にポーションがいきわたったことを確認すると、ポーションの瓶をベルトにつけ直し、アプロムの力任せの大ぶりの一撃を両手で剣を持って受け止める。
仲間たちを引き連れつつ、命懸けの戦いを繰り返してきたのが分かる、力強い一撃だった。
ただし技術は粗削りで拙い。
力だけならテルマよりも強いかもしれないが、実際に剣を合わせたらどちらが勝つか微妙なところだ。
だからこそ、八十階はまだアプロムには早い。
ジークは鍔迫り合いのような状況からアプロムをじりじりと押し返す。
これまでどんな魔物にも力負けをしたことのなかったアプロムは驚き、無理にその場にとどまろうとするが、やがて押し込められ、最後には勢いよく地面に尻もちをつくことになった。
無理に競い合おうとせずに途中で引いていれば、そこまで無様を晒すこともなかっただろう。なまじ自信があったせいで、途中で引くことができなかった。
顔を真っ赤にして立ち上がろうとしたアプロムの前には、すでに剣が突き付けられている。
「いいか、帰れ。この階にいると死ぬぞ。お前も、お前の仲間も」
ジークは警告をすると剣を鞘へしまって、アプロムに背中を向けて歩いていく。
アプロムはその背に襲い掛かってやろうかと迷ったが、結局剣を握りしめたまま、地面を殴りつけるだけにとどまった。
犠牲も出ているし、致命傷を負った仲間も数人いる。
ジークの言う通り、撤退の判断をせざるを得ないのがまた、気に食わず、アプロムは無事を確認したりジークの悪口を言ったりする仲間たちを振り払い、塔から出て行っても終始不機嫌なままであった。




