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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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緩やかな尋問

 食事の場はやや緊張した雰囲気だった。

 事情が事情だけにどこの誰ともわからぬ者がいると、今日の報告もろくにできやしない。迂闊に情報共有をして、三兄弟がアプロム側の人間だった場合は大ごとだ。

 ジークのことだから必要最低限のことしか喋っていないだろうという信頼はあるが、だからこそ余計な情報は漏らしたくない。

 ジークが連れてきた手前『帰れ』とも言いづらいし、仕方なく一緒に夕食をとることになった。

 もちろんヴァンツァーたちはジークとは違い、どちらかといえばコミュニケーション能力が高いので、そんな雰囲気はみじんも出さずに三兄弟を受け入れたのだけれども。


 食事が始まって三兄弟の事情を聞いたヴァンツァーは、ニコニコとその話に相槌を打った後、質問を投げ返す。


「なるほどね。君たちはどこの街から来たんだい? 国外っていうと……、どこから?」

「シャンワラだな」


 なんとなく場の雰囲気を把握しつつある三兄弟は、ジークと話している時よりもずいぶんと口数が少ない。

 仲間にはジークみたいな妙なやつばかりがいると思ってやってきてみれば、随分とまともな人間が多いようで当てが外れた形だ。長男のシュンイだけが受け答えをしている。


「随分と遠くから来たものだね。ひと月以上旅をしないといけないんじゃない?」


 シャンワラといえば、ヴァンツァーも足を延ばしたことのない東の果ての街だ。

 感心すると同時に興味を持って更に尋ねる。


「途中寄り道しながらだったから、この街に来るまで四か月はかかったなぁ。いくつか塔のある街も探ってきたんだが、ここが一番賑やかで自由な感じがしたんだ。街の雰囲気も明るいしな。でもいざ腰を据えてみたら、案外探索者たちが排他的でよぉ」


 旅をするとなれば先立つものも必要だろうし、ここにいたるまではいくつかの塔がある街も存在する。塔は国の資源でもあるから厳重に国に管理をされていたり、利権関係で揉めていたりと大変な部分もあるのだ。

 この国の塔は比較的開かれていて、だからこそ探索者の数も多く、貧困層の救済にもなっている。塔ができた当時の国王の英断が、よい循環を作り上げていた。


「なるほど……、確かに他国では探索者の地位が高い国もあるらしいもんね。窮屈そうだったけど。それで、三人はどうして国を出たの?」

「ん、ああ……」


 次々と繰り出される質問に、シュンイはどうしたものかと暫し躊躇する。

 しかし、ここらで味方を増やしておいた方がいいだろうという打算もあって、仕方なく答えた。


「シャンワラはな、こことよく似た雰囲気のある街なんだよ。商人が多くて色んな地域から人が集まってた。でもな、数年前から妙な雰囲気でな。ここと同じように、低階層に強い魔物が増えてきたんだよ」


 どうやら遥か遠くの街でも、こちらと同じような現象が起こっているようだ。

 その情報が得られただけでもヴァンツァーにとっては一つの収穫である。

 王国がこの事情は外へ漏らしていないように、おそらくシャンワラも外の国にこの事実を隠している。現地からやって来た者からしか得られない情報だ。

 これだけ離れた場所で同じことが起きているのだから、どこの塔でも同じ現象が起きていると考えられる。


「そうなると商人どもの監視、みたいなのが厳しくなってきてな。それぞれ徒党を組んで塔へ挑むようになった。俺たち三兄弟も一度はそれに所属したんだが、上の命令でばらけさせられてな。一度ソンミの奴が捨て駒にされそうになって、嫌気がさして街を飛び出してきた。雇い主がそれなりの権力者だったから、街にいられなくなったんだよ。俺たちの事情はこんなとこだ。聞きたいことは他にねぇか?」


 そっちの意図は分かってるぞという意図を込めての最後の返しにヴァンツァーは苦笑する。急ぎ事情を知りたくて、それを隠す気もなかったので多少の嫌味は仕方がない。


「ま、そんなとこかな。折角だからお互いのために、この塔の情報共有くらいしておこっか?」

「ありがてぇ、それで十分だ。……いや、勘違いされたくないから言っとくけどな、俺たちは別にそんなことのためにここに来たんじゃねぇんだよ。ジークに助けられたから、礼もかねてちょいと仲良くしようと思っただけで」

「うん、それは良いけど惚れたらだめだよ」

「は?」


 当然三兄弟にはヴァンツァーの様な意図はないので、何言ってんだこいつといった具合である。


「ま、いいか。んで、あんたらはどんな関係なんだよ」

「妻です」

「愛人」

「知人」

「お客さん」

「一応、家族みたいな……」

「は?」


 ただでさえ一斉に答えられて訳が分からないのに、一人わけわからないことを言った奴がいるせいで三兄弟は思わず聞き返した。しかもそれが今までまともに会話していた奴だったせいでなおさらだ。

 ジークとニコラがじろりとヴァンツァーを睨み、テルマがあきれ顔。

 ヴァンツァーの仲間たちはやれやれと首を振ったりため息をついたりし、クエットは興味なさげに食事を再開した。


「兄さん、適当なこと言わないで。こっちは私の兄で、私も兄も、あなたたちと同じで昔ジークさんに助けてもらったの」

「へぇ、怖い顔して、昔からそんなことしてんだな」

「かっこいいと思うけど……」


 ぼそりとニコラは呟くが、誰もそれは拾わない。


「ま、君たちと事情は近いかな。塔の様子が変だから、他の街の塔の様子も見てこよっかな、みたいな感じで、精鋭引き連れてやって来たって感じ。で、ベッケルの探索者たちに嫌われたのも君たちと一緒」

「やっぱりそうか……、ったく、どうなってんだよこの街は」


 自己紹介が済んだことと、状況が近いことに共感を持ったのか、シュンイの言葉はぐっと柔らかいものになる。

 ただ、よそ者同士であるせいで、どうにも状況が改善するようなことはなさそうであった。


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