爆散
家に帰ったヴァンツァーたちが見たのは、仲間たちがクエットのラボへと大量の荷物を持ち込んでいるところだった。
「……これは?」
「……一応止めたんだけどね。ちゃんと金の計算をして、安い素材を大量に買い込みやがった。元研究者だったっけ? そんなお偉方だけあって頭いいんだろうね。うまいこと言いくるめられちゃった」
「いや、いいけど……、大変だったね。で、本人は?」
「もう研究だか実験だかに集中してるよ。話しかけても返事もしやしない。返事があるのは物をどこに置くか尋ねた時だけさ。ありゃあ相当な変人だよ」
もはやクエットの部屋と化した宿で最も広かった部屋を、三人がこっそりと覗くと、中はすっかり手狭になるほどにごった返していた。
どうしたらこんなことになるのかと、三人は一瞬呆けてしまったが、顔を露わにして動き回っているクエットの表情があまりに真剣であったため、余計なことは言わずに退散することにした。
「クエットさんってあんな感じの人でしたっけ……?」
「ちょっと印象違うわね」
「僕らにとっての探索が、クエットさんにとっての研究なのかもしれないね。放っとこう」
それぞれがそれぞれで、やるべきことをやっている。
三人が今日できることは、ジークがトラブルを起こさないで帰ってくることを祈るばかりであった。
さてそんなジークは、戦闘を終えた後、先ほどまで盛り上がっていたあたりを眺めて考え事をしていた。
「どうしたんだ?」
「……さっきまでの地面が盛り上がっていた。間違いなく何かがいたぞ」
三兄弟はジークの指差した場所をじっと見るが、他の地面とさして変わらないように見える。
「それっぽい痕跡はねぇけどな」
「戦闘中には間違いなくいた」
「そうは言ってもなぁ……、いや、待てよ」
地面に這いつくばるようにし、じっと観察していたソンミが声をあげてジークの指差していた場所を叩く。
「色がちょっと違うし、ここだけちょっと他より硬いぞ」
「硬い? 柔らかいじゃなくてか?」
「ああ、硬い。魔法で無理やり固めたんじゃねぇのかな?」
「ってことは……、ジークの言ってたことはホントってことになるな」
三兄弟とジークは、しばしそこで悩んでいたが、やがて最初に諦めたジークがさっさと探索を再開してしまった。
「まてまてまて、分かんねぇまま進んだら危ねぇって」
「そうだ、もうひとひねりあれば思いつきそうなんだよ」
「ホントに自由な奴だなぁ!」
文句を言いながら三兄弟はついてくる。
「まだ近くにいるだろう。また出た時に考えればいい」
「いや、多分そいつがあの黒石投げてきたかもしれねぇじゃんか!」
兄弟の真ん中、リャンが大声を出すと、三人が一斉にリャンの顔を見た。
「それだ!」
「絶対そうだろ」
「そうだな」
「あ、そっか」
ジークはなんとなくそうだろうと思っていたが、三兄弟はあまり頭の回る方ではないらしい。とりあえず一つの答えにたどり着いた兄弟は、素直にジークの後へとついてくる。
探索を続けていると、時折地面には黒石が落ちており、あの魔物を処理しない限り、何も考えずに戦闘を開始するのは非常に危険であることが分かった。
喋り慣れたついでに三兄弟が少しばかり心配になったジークは、念のため忠告を一つくれてやった。
「戦闘中に出てきていたから、戦っている最中の足元には気をつけろ。戦いはできるだけ早めに終わらせるよう心掛けろ」
「ジーク……お前、何も考えてなさそうで、考えてるんだな……」
忠告してやったのに失礼なやつである。
一人が言えば残りの二人が同意するように大きく頷く。
「うるせぇ」
ジークに軽口をたたいてくるものは少ない。
なんとなくジークも口が軽くなって文句を言うと、三兄弟は楽しそうに笑った。
「お、やっと探索者らしくなってきたじゃねぇか」
「よし、頼むぜジーク」
「協力してこの塔を制覇してやろうぜ」
「勝手に懐くな、鬱陶しい」
文句を言いながらも、ジークは幾度かの戦闘を繰り返すうちに、それぞれの欠点のようなものを見つけていちいち口を出して教えてやる。
三兄弟もジークが自分たちよりもずいぶん腕が立つことに気が付いているから、素直に言うことを聞いて、兄弟間でああだこうだと話し合いを繰り返していた。
同じ階での戦闘は五度。
これはジークが地面から出てくる魔物の正体を探りたいがために、わざと戦闘を求めてうろついたからだ。
五度目にして先ほどより安定感が出てきたのを確認し、ジークは戦闘を三兄弟に任せて、周囲の警戒だけをする。
そうして戦闘が長引いたその瞬間、広間の隅の地面が盛り上がる。
ジークは即座に肩を引き、その地点に向けて思いきり大剣を投げつけた。
ボコりと土がこぼれ魔物が顔を見せる瞬間、大剣がその体を真っ二つにすると、続けて地面が爆ぜ飛んだ。剣を追いかけるように走っていたジークは、即座に剣を取り上げると、仕留めた獲物の姿を確認する。
残念ながら、小さな魔物は木っ端みじんとなり原形をとどめていなかったけれど、僅かに飛び散った肉片から、仕留めたことは間違いなさそうだ。
地面が爆ぜたのは、剣が深く地面に突き刺さったことと、魔物が持っていた黒石か爆発したためであろう。
「仕留めたのか?」
「まぁな」
「……土だか死体だか分かんねぇな」
「ひでぇ殺し方」
「文句言うなら自分でやれ」
謎の魔物の退治が終われば、この階にはもう用はない。
四人は軽口をたたき合いながら、さっさと五十階を目指そうと、急ぎ足で階段を探して歩き始めるのであった。




