ヴァンツァーの責任
一方ジーク以外の者たちは、普通に朝ご飯を食べて人々が活動し始める時間に出かける準備をする。
情報収集をするのに、人がいない時間に出かけたって何の意味もない。
よく考えてみれば、そんな人があまり活動していないような朝一番からジークを待っていた三兄弟は、その時点で相当律義な性格をしていることが分かる。
もちろんジークは、自分がいつも朝早くから探索に出かけるものだから、三兄弟がどんな気持ちで朝一番からあんな場所にいたかなんて知る由もなかったけれど。
「ちょっと買い物がしたいのですが、どなたか荷物を持ってもらえませんかねぇ。力持ちの方を数人。あとお金下さいな」
当たり前のように要求をしたのは実験大好きクエットだ。
「何を買うんですか……?」
常識からかけ離れた場所にいる上、普段のポーション作成で世話になっているせいであまり強く出れないヴァンツァーである。
クエットはほぼ万能であるヴァンツァーにしては珍しく苦手なタイプだ。
「昨晩思いついたことを色々実験しようと思ってるんですよねぇ。上手くいけば役に立つと思うんですよぉ」
「……どれくらい必要なんです?」
「お金はできるだけたくさんで、人はそちらの女性たち全員いれば足りると思うんですけどねぇ」
曖昧な要求だった。
とりあえずヴァンツァーは、仲間の女性たちにお金を預けて耳打ちをする。
「基本的には自由に買ってもらっていいんだけど、あまりに変なものを大量に買うようだったら止めて。本当に必要そうなら、ある程度実験をしてから買い足すように伝えてくれればいいから」
「……あいつ話聞きそうにないけど」
「いざとなったらギルドにきて僕のこと呼んでよ。悪いけど頼むね」
相手方からの要求なので任せるのは仕方がない。
ヴァンツァーは内心ちょっとほっとしていたけれど、申し訳ないことを頼んでいる自覚もあったので、いざとなればきちんと尻拭いをする所存だ。
とりあえず宿を出て途中から二手に分かれて行動をする。
買い物に行くのはクエットとヴァンツァーのパーティ仲間たち。
ギルドへ向かうのはヴァンツァー、テルマ、それにニコラの三人である。
比較的物腰の柔らかい三人組でうまいこと情報収集しようという作戦であった。
ギルドへ着いてヴァンツァーが最初にやったことは、現副ギルド長であるマクマンと面会することである。
最初と比べるとすっかり柔らかい雰囲気となった受付の女性に案内されて、前も通された部屋で待機する。ほどなくしてやってきたマクマンは、額の汗をぬぐいながら、部屋へ入るなり「何かありましたか?」と問いつつソファに腰を下ろした。
急かすようではなく、単純に心配して思わず先に喋ってしまったといった印象を受ける問いかけだった。演技だとすれば大した役者である。
「本題から入ります。昨日塔に登った仲間の一人が、爆発する石で怪我をした探索者を助けました」
「ほう、爆発する石……。なんにせよ、さっそくこの街の探索者を助けていただいたのですね。大変ありがたく……」
「いえ、本題はそこではなく、マクマンさんは石についての情報を何か知らないかなと」
ヴァンツァーは礼を言おうとしたマクマンの言葉をあえて遮る。
そんな大事な情報が知らされていないのは、問題があるだろうと責める意味もあった。
的確にその責めを察知したマクマンは「ふぅむ」と唸って難しい顔をした。
「お伝え出来なかったことは本当に申し訳ない。ただ、どうも資料を漁る限りその様な記載はどこにもなかったのですよ」
「助けた探索者は噂には聞いていた、というような話をしていたそうですが?」
「……お恥ずかしい話、私は探索者たちとあまり仲がよくありません。言い訳をするようですが、状況が状況なものですから、なかなか信じてもらえないのですよ。どうやら、最近の塔の様子を意図的に隠している探索者グループがあるようなのです。最近めきめきと力をつけてきた若い探索者たちなのですが……、どうも皆、私よりもその探索者のいうことを聞くようでして……。まさかそんな大事な話まで共有していないとは思いませんでした。改めて謝罪いたします。大変申し訳ありませんでした」
決して軽い頭ではないだろうに、マクマンはたかだか探索者に対して深く謝罪をしてみせた。
ここまでされるとこれ以上責めることができない。
「……信じていいんですね」
「はい、もちろん。ただ、探索者の間だけで共有されている情報については分かりません。私に聞くよりは、直接探索者と交流を持っていただいたほうがよろしいかと。いっそ私のお渡しした情報は、一昔前のものと考えていただいた方が良いかもしれません」
「……わかりました。そのように対応します。何か新たな情報があったら共有していきましょう」
「お役に立てず申し訳ない」
「いえ、こちらも命がかかっているので気が立っていました」
特に被害がなくとも作戦の責任はヴァンツァーにある。
仲間たちには見せない厳しい顔を見て、テルマは静かにヴァンツァーという一流の探索者の姿に感心していた。




