三兄弟
ジークは塔へ到着すると迷いなく中へ入り、転移の宝玉に手を伸ばす。
「お、おいおい待ってくれよ」
そこへ後ろから声をかけてきたのは、昨日の三人組であった。
いることには気が付いていたが、助けた後に妙な言いがかりをつけられることの多いジークは、あえて無視して通り過ぎたのだ。
いかにも構ってもらうの待ちで腕を組んでちらちらと見てきていたけれど無視である。
おそらくテルマがいても気づかないふりをして素通りしたことだろう。
人というのは喉元を過ぎれば熱さなんて忘れるもので、助けられたのを借りと考えて、相手をかえって悪く思うことがある。
争いを避けたいのならば、情報収集を終えた彼らと会話することは避けるべきだろう。
珍しく判断が同じであったはずなのに、あちらから話しかけられては仕方ない。
他の探索者とあまり関わらないほうがいい、とニコラに言われたばかりだが、あちらから来られては仕方がない。
「なんだ」
普通に返事をしただけで話しかけてきた男が怯む。
よくもまぁ、そんな調子なのにジークに話しかけてきたものだ。
「いや、昨日の相棒はどうしたんだ。一人じゃ危ないだろ」
「問題ない」
「いや、でもな」
「用がないなら行く」
「あ、待……」
人と関わらないほうがいい、を実践することにしたジークは、勝手に話を斬り上げて四十階へと転移する。
さて先へ進むかと一歩踏み出したところで、すぐ後ろに三人の探索者も転移してきた。
「待てって!」
「なんだ、しつこい奴らだ」
「いや、あのな、納得いってねぇんだよ」
これは喧嘩になりそうかと思ったジークは、三人の武器や体つきを改めて確認する。
他の街ならば五十から六十階くらいまでなら行ってもおかしくなさそうな三人組だ。
年のころは二十代半ば。
脂ののった年頃で、相当腕にも自信があるはずだ。
怖いもの知らずで突っかかってきてもおかしくはない。
どう適当に始末をつけるかとジークが考えていると、怪我を治してやった探索者が前に出てくる。
「あのな、足生やすようなポーション使ってもらって、あれくらいの礼ですむわけねぇだろ。昨日はしくじっちまったが、これでも俺たちはそれなりに腕に自信があるんだ。あんた、この街じゃ顔を見ねぇし、何か礼ができねぇかって待ってたんだよ。そんなそっけなくすることねぇだろうが」
「相棒もなしじゃ流石に危ないんじゃねぇのか?」
同じようなことを言ってきた奴らに不意打ちをされたこともあるジークである。
自分より格下と思っているジークに助けられたというのが、プライドを随分と傷付けたのだろう。
ジークからすれば訳が分からんやつらでしかない。
こっちがそれでいいと言っているのに、しつこく礼をしようとする輩なんて、何かを企んでいるか、よっぽどの善人かのどちらかである。
そしてジークが出会ったことがあるほとんどの者は前者だった。
「一人でいい」
「なんだこいつ」
「まじで変な奴だな……」
「でも強そうなんだよな……」
三人ともぶつぶつと文句を言うが、帰る気配はない。
ついてこられると鬱陶しいなと思いつつ、ジークは仕方なく勝手に塔の攻略を始めることにした。
目指すのは五十階。
ヴァンツァーが手に入れた地図と照らし合わせつつ、その真偽を確認しながら最短ルートで塔を進んでいく。
「あんた名前はジークだったよな。俺はシュンイ。昨日怪我してたのがリャンで、そっちがソンミ。俺が長男の三人兄弟だ」
「そうか」
「昨日の女の子はどうしたんだ? かわいかったよな」
「今日は別の用事がある」
「強いのか?」
「お前よりは」
最後に質問したソンミは、煽るようなことを言われても、肩をすくめてヘラっと笑っただけだった。
他にも余計な雑談をいくつか交わしたが、何を聞かれても短い言葉で適当に返すジーク。
その割には邪険にしてどこかへ行けとも言われないことに、三人組はだんだんとジークの扱いが分かってきたようである。
適応力の高い男たちであった。
「なぁおい、それあんた、この辺の地図か?」
「そうだ」
「あんたよそ者だよな? なんでそんな地図持ってんだ? 高かっただろ」
「うるさい」
「実は俺たちも少し前にこの街へ来たとこでな。なかなか協力が得られなくて困ってたんだよ。なんか目的があるなら手伝うから、一緒に行動しねぇか?」
ジークは立ち止まってじろりと三人を睨んだ。
どうだっていいことだが、このタイミングで他所の街から探索者が移住してくるというのは妙な話だ。
ヴァンツァーやテルマだったら色々聞きだすんじゃないだろうかと考えて、何を聞くべきかわからずまた無言で歩き出す。
すげなく断られたと思った三兄弟は、やっぱり肩を竦めただけで、黙ってジークの後についてきた。
幾度かの戦闘を挟んでも、三兄弟はジークに襲い掛かってこなかったし、うまく連携してきちんと役立つ動きをしてみせた。
三位一体の動きを見て、ジークは三兄弟の実力をもう一段階上に評価する。
四十七階層で空中を飛び回る鋭い牙を持ったコウモリの魔物を相手している最中、ジークは妙な気配を感じて目の前の敵を叩き切ってからすぐに、視界の端に目をやった。
地面が盛り上がっており、何かがそこにいた気配がある。
「くそっ、この塔! めんどくせぇな!」
「聞いてた通り、妙に敵が強いんだよなぁ!」
「ジーク、あんたも気をつけろよ!」
自分の方に向かってくる敵をさっさと片付け終えたジークは、一応三兄弟の方が終わるまでその場で待機する。
先ほどまで盛り上がっていた地面はあっという間に、元のように戻って、何者かの気配もなくなってしまっていた。
魔物をすべて倒し終えたところで、三兄弟は周囲を見回し、真ん中のリャンが「あ、あった! あれだ!」と声をあげる。
見ればそこには、本当に何の変哲もない黒く丸い何かがころりと転がっていた。
「俺の足を吹っ飛ばしたのはあれだ。ちょっと待ってろよ……」
リャンは苦々しげな顔で、魔物の死体を黒石に向かって投げつける。
それがぼとりと上に落ちた瞬間、破裂音がして血肉があちらに飛び散った。
確かに、あれを体に食らったらただでは済まなそうな威力だ。
「よし、見せられてよかったぜ。ジーク、あんな色の石ころには気を付けるんだぜ」
「……そうだな」
満足そうにうなずいたリャン。
ジークはここにきて、この三兄弟がもしかすると本当にただ、礼をするためについてきているだけなのかもしれないと考え始めるのであった。




