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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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 ジークは秘めたる誓いなどまるでないかのように、平然と、堂々とギルドを歩き、ウームたちが待つ部屋へと向かう。話を聞いたヴァンツァーの方が、よほど肩に力が入ってしまっているくらいだ。

 それもそのはず。

 ジークは常々、何か大事が起こるようであれば敵となり得るものを殺すだけの、そして場合によっては殺されるだけの覚悟を持って生きている。

 今回は求められたからその常在戦場の心持ちを言葉に表しただけで、やることは普段と一切変わらないのだから緊張のしようもない。


 ためらいなくドアノブに手をかけるジーク。


「ちょっと待ってくださいね」


 ヴァンツァーは声をかけてそれを止めて、一応ノックをして定型文のやり取りを行う。いざとなれば戦うことはともかくとして、わざわざ相手の不興を買うような真似をする必要はない。

 というかヴァンツァーは、一応注意こそしたものの、基本的には殺し合いになるようなことはないと思っている。メリッサはなぜかジークの無礼を見逃してばかりいるが、いつ打ち首になってもおかしくない態度は控えるべきだ。


「失礼します」


 メリッサの許可を得てから入った部屋で、執事に案内されるがまま、ジークとヴァンツァーはソファに腰を下ろす。


「待っていたぞ」

「何の用だ」


 メリッサの言葉に待たせて悪いなも何もなく答えるのがジークだ。

 普通ならばメリッサを待たせたと知れば慌てて謝罪の言葉を尽くすものである。

 だが、ジークに堂々と用件を尋ねられたメリッサも、特段不機嫌そうな様子はない。

 会話が始まってしまえばもはやヴァンツァーが口を挟む隙はなかった。

 正面に座るウームと共に、はらはらしながら見守ることしかできない。


「ベッケルの塔でしゃべる魔物が頻繁にでて、上位の探索者たちが多数殺されているらしいから、行って事を収拾してもらいたい」

「わかった」


 これまた迷うことなく承諾したジークに、ウームとヴァンツァーが驚き、メリッサですらしばし固まった。危険だとわかる任務で、まだ何も説明していないのに了承するなどどうかしている。

 ベッケルの塔というのは、王国の首都にある塔で、メリッサの甥であり現国王が治める土地だ。


「説明を続ける。ベッケルの塔の管理者は、王都で起こった塔の不祥事を内々で処理すべく、上位の子飼い探索者に喋る魔物の討伐を依頼した。命を無駄に散らした挙句、最近では強い魔物が塔からあふれ出し、あわや街になだれ込みかけたそうだ。もしあそこの副ギルド長が、もっと早くに相談をして対策を練っていればこんなことにはならなかっただろう。私個人の推測だが、喋る魔物の侵蝕が進むほど、塔から漏れ出す魔物の数が増え、質が上がるのではないか?」

「そうかもしれん」

「分かっていたなら先に言え」

「そうかもしれんと思っただけで、分かっていたわけではない。俺はあんたほど賢くない」

「何か推論でもいいから考えがあれば言え」

「わかった」


 驚くほど無礼な対応だが、メリッサは気にすることなく話を続けるし、ジークもぶっきら棒ながら言うことは聞いている。無駄が省かれた会話は互いの立場や人間性を知らなければ聞いてて心地よいくらいだが、ヴァンツァーとウームの胃はきりきりと痛んだ。



「アイオスではないのか」

「何がだ」

「喋る魔物の侵蝕だ」

「調べた限りないようだ。お前がしゃべる魔物を殺しまくったからそれどころではないんじゃないか?」

「そうか。もしあれば教えろ」


 命令口調に思わず執事も目を見開いたが、メリッサはニヤッと笑って答える。


「言われずともお前に向かわせる」

「ならいい。他に何かあるか」

「ヴァンツァー、お前は王都の塔にも登ったことがあるな? ジークのサポートをせよ」

「承知しました」

「すでに手遅れではあるが、街だけでは手に負えないような状況だと一般市民に悟らせたくない。いつも通りの普通の遠征として向かえ。新たに据えた副ギルド長には事情を伝えてある。住む家は用意させる。報酬もだ。何でも言って便宜を図ってもらえ。ただし事情はばれぬようにだ」

「めんどくせぇ」

「すまんが頼む」


 ごちゃごちゃとした条件にジークがぼそりと愚痴を吐くと、メリッサが命令ではなく頼みごとをした。頭を下げるわけでもなく、つんと鼻の先を天井に向けたままであったが、その場にいる当人たち以外の三人の聞き間違いではない。

 初めての頼みごとに、ジークは眉を片方だけ上げて、頼むと言うのなら、できるだけ条件を守ってやるかと寛容な心で依頼を受け入れることにした。

 やはりジーク相手には素直にお願いをすることが大事である。


「喋る魔物を殺したら帰ってきていいんだな」

「そうだ」


 ジークは腕を組んで天井を睨んだ。

 身軽に生きてきたジークだが、今は訓練をつけてやらなければならない家族が増えて、守ってやらなければいけない家族もこれから増えるところだ。


「……テルマとハンナを連れていく。あとニコラもだ」

「好きにすればいい」

「テルマとハンナはわかるが、ニコラはなんだ?」


 何も聞かされていなウームからすると、仲がいいとはいえ、受付嬢を連れていく意味が分からない。ヴァンツァーにも同時に問いかけたつもりでいたが、そちらの方は珍しくウームの言葉を聞こえないふりをして、じっと天井を睨んでいた。

 妹のことをちゃんと考えてくれているジークに感動しつつ嫉妬をするという、実に微妙な感情を表情で表していた。


「ニコラがなんだ」

「だから、なんでニコラを連れてくんだ」

「家族になるからだ」

「は?」

「ニコラと結婚することになった」

「は? なに? 結婚? お前が?」

「そうだ。だから連れていく」

「聞いてないぞ、なんだその話。おい、ヴァンツァー……」

「黙れ」


 天井を睨むヴァンツァーに事の詳細を聞こうとしたところで、凍えるような冷たい声でメリッサが命令を発した。日々探索者ににらみを利かすウームも、その鶴の一声の前には大人しくソファの上で小さくなる。


「嫁でも娘でも何でも連れて行け。ことが済んだら帰ってこい。移動の馬車は用意する。出発は明日だ」

「わかった」


 話の終わりを察してジークが立ち上がると、その背中にメリッサが最後の言葉を投げかける。


「ベッケルのギルド長は私の甥である国王陛下だ。くれぐれも無礼のないように」


 ジークは振り返ってメリッサを睨み、ふんと鼻から息を吐いて部屋から出ていった。明日には同じく出発しなければならないヴァンツァーもまた、急ぎメリッサに挨拶をして退室しようとする。


「僕も準備があるので失礼します」

「よい、行け」


 残されたメリッサは、右後ろに待機している執事に振り返りもせずに声をかける。


「して、隙は」

「ございません。いつどの時に仕掛けようと、返り討ちにされていたでしょう」

「お前ほどのものでも無理か」

「傷の一つくらいならばあるいは。毒を使ってそれが効くかが勝負でございます。効かねばそれまででございます」

「なるほど、頼りになる。あとは陛下さえやらかさなければ問題はなかろう」


 メリッサに対して妙に対抗心を燃やす若き王。

 周囲には佞臣もいるが、それ以上に古くから仕える能臣もいる。

 一応ジークには無礼の無いように忠告しておいたが、効果があるとも思えない。

 まぁ、ここで家臣を制御できず大事にしてしまうような王であれば、いつまでも玉座に収まられても困るというものだ。

 特に甥陛下に恨みがあるわけでもないけれど、うまくやれなければそれまでだ。

 野心ではない。義侠心でもない。

 メリッサは自分の管理下にあるものを最大限に活かし、できる限り守るべく、塔の謎と暴走に対して自分が打つべき手を冷酷に模索するのであった。

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王の叔母かよw
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