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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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「いやぁ、別の街の人なんだろう? いくらギルドの受付嬢が保証すると言ってもねぇ……」


 渋っているのは高級住宅街を担当する不動産屋だ。

 不動産屋と言っても、高級住宅街、すなわち領主の館近くの土地の管理を任されているものというのは、領主から公的な身分を与えられている。

 怪しいものには絶対に土地を売り渡すわけにはいかないのだ。

 下手なものに土地を売ったり貸したりしてしまうと、後で上から叱責されかねない。彼もまた仕事であるから、あまり好き勝手なことはできないのだ。


 加えて金を払うと言っているジーク、そして世帯主と住人となるであろうハンナとテルマは探索者だ。

 探索者というのは基本的には仕事がないものが命懸けで金を稼ぐ職業であって、一般的な見られ方としては下の下の職業である。高層階探索者となれば大金持ちで有名だけれど、それでも出自からか乱暴なものも多く、身分の高い者たちは必要以上に関わり合いになることを嫌がる。


 というか、代々不動産屋をやってきたこの人物は、単純に探索者というぽっと出の成金が嫌いであった。


 ヴァンツァーくらい名が知れており、身形も整っている上礼儀もしっかりしているとなれば話は別だ。

 しかしそれと比べて目の前にいるジークはどうだ。

 背は高く、髪は明らかに自分で切っているし、髭も少しばかり伸びている。

 三白眼は向けられるだけでも恐ろしく、顔には傷があり、眉もひどく薄い。

 隣でニコラが一生懸命にこやかに交渉をしているというのに、終始無愛想で、不動産屋が身動ぎする度にじろりと視線が向けられるのだ。

 本当ならば今すぐにも、どこでも自由にお住み下さいと言ってしまいたいところだ。

 しかし彼にも責務というものがある。

 何とか逃げ出したい心を抑えつけて、無理ですよと何度もお断りしているのだ。


「しかし、ジークさんはこの街の塔の最高層到達者ですよ?」

「いやいや、それはヴァンツァーさんだろう? 嘘は良くない」

「噓ではなく、最近情報が更新されたところなんです!」

「そうは言ってもなぁ……。あの、ほら、やっぱり難しいよ。本当に申し訳ないが、次の約束も迫ってるんだ」

「おい」


 ジークが立ち上がりニコラに声をかける。


「ひぃ、お、お金ならいくらでも払いますからご勘弁を!!」

「迷惑になる。帰るぞ」

「ジークさん、もう一押しですよ!」


 ビビっている不動産屋を見て押せば行けると判断したニコラだったが、ジークは変な顔をして勝手に外へと出て言ってしまった。

 そうなってしまうとニコラも戦う意味がなくなってしまう。


「……すみません、失礼しました」


 急に素面に戻ったかのように冷静になったニコラは、深々と頭を下げてとぼとぼとジークの後に続いた。

 残された不動産屋はこれだから探索者は嫌なんだと思いながら、火を自由に起こせるスクロールをいじってティータイムとしゃれこむことにした。

 この人物は、探索者なんていなくても世の中はうまく回っていくと信じているし、塔からの恩恵なんてものにも大して期待していなかった。

 このスクロールもまた、塔からの恩恵であることを、不動産屋はほんの少しも意識していなかった。


 ニコラが外へ飛び出すと、ジークはその場に佇んで待っていた。


「悪いな」


 うまくいかなかったことを謝ろうとしたニコラの機先を制するようにジークが謝罪をした。

 滅多に悪いと思わないだけで、ジークだって謝ることはある。

 いつもなんでも容易く冷静に物事を処理しているニコラが、自分のために一生懸命言葉を尽くしているのを見たのだ。難しいことを頼んで、余計な苦労を掛けたことくらい流石のジークにもわかった。


「謝ることなんて……」


 大口をたたいておいてうまくいかなかったニコラは焦っていた。

 ジークのことだから、できないならいいとあっさり他の方法を探してしまう恐れもあった。ここが駄目ならまた別の……、と提案をしようとすると、又もジークの方が先に口を開いた。


「他の家を探すのを手伝ってくれ」

「……はい、わかりました。じゃあ、別の不動産屋へ行きましょう」


 驚いたニコラだったが、すぐに気を取り直すとジークの腕を取り、高級住宅街の閑静な道を歩いていく。よく考えてみればジークがよく訪れるであろう家が高級住宅街にあるのはあまりよくない。

 ジークは悪さをするわけではないが、人に勘違いをされやすい人物だ。

 こんないけ好かない場所に家を構えたら、きっとどこかでジークが嫌な思いをすることになるだろう。

 これで良かったのだ。


「ジークさん、良いことを思いつきました」

「なんだ?」


 少しだけ体重を預けて歩いても、ジークはびくともしない。

 照れることもないのが少しだけ残念だが、これを当たり前にしていけば、世間の認識は勝手にニコラとジークは付き合っている、という方向へ進んでいくことだろう。 

 外堀から埋めていくことも大事である。

 あとはヴァンツァーに邪魔されないように気を付けるだけだ。


「お二人にとって、治安が良ければいいんですよね?」

「そうだな」

「じゃ、ぴったりの場所があります」

「そうか」


 そう言って鼻歌交じりにやってきた、いや、戻ってきたのはギルドだった。

 どうしてここにと思いながらも、文句を言わず、腕をとられたままギルドへ入っていくジーク。ニコラは周りに見せびらかすようにして、そのままギルドの奥へ進んでいき、一つの扉をノックする。


「すみません、ニコラです。ジークさんも一緒です」

「ジークだぁ? いいぞ、入れ」


 ジークとはまた違った強面の男は、ガラガラの低い声で空気を揺らして二人の入室を許可した。

 デスクの前に腰かけて筆記具を置いたのは、副ギルド長のウームだ。

 私服のニコラを見て肩眉を上げると「……なんの用だ?」といぶかしげに首を傾げた。


「ウームさん、ギルドの前に倉庫として使っている建物ありますよね?」

「ああ、あるな」

「この間資料は全部ギルド内に移動させることを決めたじゃないですか。その後はあの建物をどう使うつもりでした?」

「下層階探索者のための宿とかにしようかと思っていた。部屋数も多いし、駆け出しのためになるだろ。まぁ、長くは滞在させないがな」


 本当に駆け出しの探索者というのは、しばらくろくに食事や宿も取れないような日々が続く。折角探索者になるというのだから、未来への投資として序盤の間の世話くらいしてやって、後々恩返ししてもらおうという魂胆である。


「……なるほど。あの建物、ジークさんに売る気はありませんか?」

「なんでだよ」

「テルマさんとそのお母さんが住む家を探しているそうです。犬が飼えて、安全な場所に」

「ギルドの近くが安全だぁ?」


 むしろもっとも治安が悪いと言っても過言ではない地域だ。

 ただしそれは、当人の実力による部分が大きいけれど。

 例えば、名の知られている探索者からすれば、この辺りの治安を悪くしているような者たちは全く脅威になりえない。

 馬鹿なことをと言おうとしたウームだったが、少し考えてから、確かに割と安全なのではないかと思い直す。


「……まぁ、テルマも実力のある探索者だし、確かその母親も元々探索者なんだったか? それにジークがしょっちゅうギルドにたむろしてること考えりゃあ、手出しするようなアホはそういないか。むしろ何かありゃあ誰かがすぐ駆け付けられる」

「どうでしょうか」

「……いやしかしな、折角だから活用もしてぇし……。そうだ、そのテルマの母親ってのを連れて来てくれ。もし住みたいってぇなら、直接交渉した方が早いからな。どうだ、できるか?」

「分かりました。ではお義姉さんにこのことを伝えてみます」

「おねえさん?」

「いえ、ハンナさんに。行きましょう、ジークさん」


 腕をとられてそのまま歩きだすジーク。

 結局この部屋に来てから一言も発していないが、本人は一切不満はないようだった。


「お前、案外嫁ができたら尻に敷かれるタイプだな」

「意味が分からん」

「ウームさんったら、そんなことしませんよ」

「そうかよ」


 本当に理解していないジークと、勝手に自分が嫁だと決めつけて照れるニコラ。

 ウームは呆れた顔で見送ったが、案外いい話を持ってきてくれたかもしれないと、空き家の活用方法について本格的に考えを進めてみることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
こんなに誰もがみんな主人公とくっついて欲しいって思える作品も珍しいかもしれない。 みんな応援したい。頑張れ!
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