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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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「よそ者に教えることなんかなにもねぇよ」

「そうですか、失礼いたしました」


 最新の六十階層の情報を集めるためには、地道な聞き込みが大事である。特に現役でその辺りの探索をしているパーティからの情報は得難いものだ。

 しかし彼らも飯の種を尋ねられて軽々に答えるようなお人好しではない。

 けんもほろろに断られることを繰り返しながら、時折有力な情報を手に入れる。

 ヴァンツァーのパーティからも色々と聞いているが、いざ他のパーティに聞いてみると、少しばかり毛色の違う情報なんかもたまに得られる。例えば魔物の連携特徴とか、ある地点にはたくさん魔物が出る代わりに宝箱の出現率が高いとかである。


 当然のように嘘を吐く者もいるので、テルマもすべてをうのみにしているわけではない。様々な情報を集めて、自分なりの六十階層攻略の手引きを作っているのである。

 ジークは安全を確保してくれるし、ヴァンツァーたちは容易に情報を落としてくれるが、それに甘えてばかりはいられないという探索者としての矜持のようなものでもあった。

 また、先日ジークに言われた『もっと全力でやれ』という言葉についてもテルマは気にしている。全力というのが自分に出せるだけの力を出し切る、という意味なのであれば、確かにテルマは全力を出していない。

 しかし、探索者として塔で生きていくためには全力を尽くしているつもりである。

 再びあんなことを言われないためにも、次に塔へ挑むときまでには、知識を蓄え、確実に対策を練っておくつもりであった。


「すみません、少しお時間よろしいでしょうか」


 今度は普段六十階層を縄張りにしている、五十に差し掛かろうかというパーティの下へ行って声をかける。まさにベテランの彼らは、テルマが声をかけると、おっというような顔をして片手で椅子を引いた。


「ま、座りなや。そんなにかしこまらなくていい、どう見たって暇そうなおじさんたちだろ?」

「いえ、ご歓談のお邪魔になるかと思いまして。ありがとうございます」


 おじさんたちは顔を見合わせてからどっと笑った。

 テルマは何を笑われているのか今ひとつわからないまま、引かれたイスに腰を下ろす。男はしばらく笑ってから、目じりをぬぐってから「あーおかしい」と言って言葉を続けた。 


「ご歓談の、と来たかい。なんだ、随分良い育ちなんだなぁお嬢さん。よくもまああのジークなんかと一緒に塔に潜っているもんだ。それで、用事は何だい?」

「六十階層の……」

「六十階層の情報ならただじゃ漏らさないぜ」


 探索者を長くやっている男は、酔っぱらっていても当然のようにギルド内の会話に耳を傾けていた。テルマが六十階層の情報を求めて歩き回っていたのを知っていながら、牽制するためにわざと先に喋らせたのだ。


「そうですか。お邪魔してすみませんでした」

「まぁ、待て待て、そう急くな」


 男は両手を前に出して手を上下に振り、腰を浮かしかけたテルマに座れとジェスチャーを送る。


「しばらく話に付き合ってくれりゃ、少しくらい有用な情報を漏らすかもしれんだろ。いいところの嬢ちゃんは知らないかもしれないが、丁寧に頼み込むことだけが交渉じゃないぜ?」

「……私は、別にいいところの嬢ちゃんではありません。母は……両親ともに探索者であったと聞いています」

「噓だろ。それにしちゃあ行儀がいいな? ま、若くして高層階へ行くようなサラブレッドは物が違うってことか。ほんと、そんな真面目そうな性格で、よくあのジークと一緒にいられるな」

「……あの人も、噂されるほど悪い人ではありませんよ」


 ジークは付き合いが長くなるほど、三十路男には似合わぬ純粋さみたいなものが見えてくる。再度のこき下ろすかの言い草に、テルマは思わずジークのことを庇った。言ってしまってから、相手にもされないだろうとため息を吐いたところに、男は意外な返事をする。


「んなことは知ってる。ありゃ馬鹿で粗暴なだけだ。俺はあいつがこの街に来た頃から知ってるからな」

「……そうなんですか」

「お、興味ありそうな顔したな。この情報ならそうだな……、今日の飯をおごってくれれば話してやってもいいぜ」

「いりません」


 確かに興味はあるが、勝手に聞くのもどうかと欲求を振り払ったテルマである。


「なんだよ、折角ただ飯が食えると思ったのに」


 男は生活に困らないくらい十分に稼いでいるのだが、ただで食える飯ほどうまいものはないと考えている。交渉に失敗すると残念そうに言葉を吐き捨てた。

 そして懲りずに提案をもう一度。


「……酒いっぱいならどうだ?」

「……いりません」

「今ちょっと考えたろ! 聞きたい癖に頑固な嬢ちゃんだな!!」


 テルマの顔を指さして男はわははと楽しそうに笑う。

 一方テルマは内心を言い当てられて少し不機嫌だ。


「ああ、おかしい。ま、ジークの過去が酒代になったためしなんて過去に一度も……あ、いや、あの兄妹は買ってたな」


 ずいぶん昔にあの美形兄妹が金貨袋をテーブルにたたきつけて聞いていったのを思い出した男は、また一人で思い出し笑いをして酒をあおった。


「ようし、今日は機嫌がいいから特別にあいつが来た頃のことを教えてやろう」

「……六十階層の話が聞きたいのですが」

「嬢ちゃん、冷めること言うなよ。俺がノリノリで語ってやろうってんだから、話を聞いて盛り上げて、その流れで六十階層のことを聞く。これが交渉のテクニックってもんだぜ?」

「はぁ、そういうものですか……?」


 言ってることは間違っていないのだが、テルマにそんな話術はないので実行は難しいだろう。


「そんなわけで、ジークの過去だ。そう、あいつが来たのは実に今から十年……、あ、いや、十二年くらい前だったか? どうだったかな、おい、どうだった?」

「十五年前だよ」


 テルマが戸惑っているうちに語りが始まってしまった。

 内心ジークの過去が気になっていたテルマは、今度は好奇心にあらがえなかった。

 だって男が勝手に話し始めたのだ。聞いてしまった自分は悪くない。いや、実は悪いかもしれない。

 そんな葛藤をしている間に、男の話は進んでいき、止めるタイミングを見失ってしまった、ことにしたテルマである。


「あいつは半ば破れかけたぼろぼろの服で、剣だけは今の立派なやつを携えてギルドに現れた。それも片手に街の探索者を一人引きずってな。あの頃はウームが副ギルド長に就任するかもって頃でな、丁度その場で他の候補とバチバチに口げんかしてたわけよ。だからその内の誰かが殺し屋でも雇ったんじゃねぇかって、俺たちゃあひやひやしながら行く末を見守ったね。なぁ、お前ら?」

「そうだな。一言喋ったら斬りかかってくるんじゃねぇかってな。しかしその引きずってきた探索者ってのが、よく見りゃ悪たれで有名なやつでな。同業者を殺して塔の七十階層に籠りやがってたくそ野郎だったんだ」

「あまりに顔がぼこぼこになってて、最初はそいつだってわからなかったけどな」


 そこで男たちはガハハと笑う。

 酷く物騒な話も、彼らにとっては酒の肴でしかないらしい。


「誰も声をかけられなかった。ギルド長様がここを通る時よりもシンと静まり返る中、ジークがずーりずーりと生きてるか死んでるか分かんねぇ奴を引きずって歩く音だけがしてた。今よりは随分若かったが、すでにジークの体格はできあがっててな。目つきなんて今よりよっぽど鋭かったぜ。そんな中、なんと声をかけたのが、あのウームだったってわけだ」

「『誰だか知らんがそいつをこっちに寄こせ、そいつは探索者殺しの指名手配犯だ』だっけか?」

「お、真似が上手いじゃねぇか!」

「だろー!?」


 脱線しながらも話は進む。

 ゲラゲラとよく笑う男たちの話に耳を傾けながら、テルマは思考をめぐらせていた。そうか、ジークも他の街の出身者であったのか、と。

 ならばまさか送金の相手は……となるのは自然なことだった。

 年のころはそれほど変わらなさそうに見える。

 高層階の探索者で金もあり余っているようだ。

 というか、よく考えれば、テルマの家で飼っている犬の名前はジークである。これはもちろんテルマではなく、母であるハンナがつけたものだ。

 あまりの符合の多さにまさか、本当に……、となったテルマだが、次の瞬間にすんと、その考えを否定した。

 少なくともジークは小さくてかわいい弟のようなタイプではない。

 あれを小さくてかわいいと形容する人間は、おそらく目の悪い巨人か何かだ、少なくとも母はそれにあたらないので、まぁまず間違いなく別人であろうと納得したのであった。

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犬w
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