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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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 ヴァンツァーがやれ食事だ休憩だと誘ってくるのをすべて却下したジークは、塔の中の一階から五十階層までを、まる三日ほどかけて踏破する。

 通りすがられた探索者たちはさぞかし驚いたことだろうけれど、ジークには悪意などこれっぽっちもない。ただ塔の現状把握と、下層から中層の探索者たちの実力チェックをしていただけだ。

 歩き方、扱う武器に対しての筋肉のつき方などで、なんとなくの実力はわかるが、本人たちが戦っている姿を見ることが出来れば、その情報はさらに完ぺきに近いものになる。

 伊達に十何年も同じことを繰り返してはいない。

 はじめの頃は、あいつら危なそうだなと思った場合は、同じタイミングで塔に乗り込んだりしていたものだ。数年たったころには目利きが上手くなって、わざわざ現場に行かなくても大体の実力も分かるようになったけれど。

 忠告をし始めたのも、悪評が広まりはじめたのもその頃であった。

 それまでは不気味な奴として遠巻きにされていたぐらいであったのだが、やはり人のプライドを踏みにじるような行為は嫌われる原因となるものだ。

 逆に言えば、それなりに年を重ねており、本当に実力のある探索者たちからは、ジークはそこまで嫌われていない。

 彼らの中には悪評に眉を顰め、それを払しょくしてやろうかとジークに声をかけた者もいた。しかしジークはそれらをけんもほろろに断るものだから、すっかり腫れもの扱いになってしまったわけである。

 今付き合いがある様な人たちは皆、勝手にジークの事情を察したり、よっぽど深く恩を感じている者。それから、恋をしている趣味の悪い兄妹ぐらいなものだ。


 一度塔の外へ出たジーク、物資を補充してすぐに塔へ戻る。

 今度は六十階層から九十階層までを巡回するつもりだった。

 途中人が先を歩いた気配があれば、念のためそれをたどって後を追っていく。

 その中で見つけたパーティは三つ。

 一つはジークの顔を見ると舌打ちをして去っていき、一つは「相変わらずだな」と声をかけて苦笑。そして最後の一つ、七十八階層で見かけたパーティは、物言わぬ遺品となっていた。

 砕かれた骨がいくつか。

 それから服の切れ端と荷物と武器がばらばらに散らばっている。

 ジークはそれらに目を落としたまま、木の上から音もなく落ちてきた巨大なヒルの魔物と、足元から忍び寄ってきた大蛇をあっさりと斬り捨てる。ついでに鉤で引っ掛けた大蛇を振り回して、遠くから魔法を放とうと準備していた妖精にぶつけて圧殺した。

 ここで命を落とした探索者は年は多少いっているが、八十階層に手が届くようなベテランたちであった。堅実な探索をするパーティで、危険を冒すようなタイプではない。

 一方で彼らは昔ながらの自分たちのやり方を妄信しているところがあった。

 近頃上層階から魔物が下りてくることが増えていると、ジークは彼らに直接伝えたこともあるが、若造は黙っていろと言わんばかりに無視されたことがある。

 戦いの跡を改めて眺めてみると、数体の大蛇の骨と、何対かの妖精の羽根が落ちていた。散々に踏み荒らされた地面は長い時間戦ったことを表している。黙ってやられたわけではなく、相打ちぎりぎりくらいの勝負だったのかもしれない。

 落ちている羽根に一対だけ混ざっている赤みを帯びた妖精の羽根は、九十階層にも出現する、あの破裂するシャボンの魔法を使う妖精のものだ。

 対策がとれずに時間をかけた結果、敵の増援が来てやられたというところだろう。


 ジークはしゃがんでいくつかの武器や防具を拾い集める。

 それらはジークの鉤付きの大剣のような、今は亡き彼らそれぞれを象徴するような武具である。

 一通りを拾ったジークは、深く深くため息をついて、やるせない気持ちと共に「戻るか……」と誰にも届くことがない言葉を漏らした。

 八十階層九十階層に挑むようなパーティは稀で、彼らが塔に入るとなれば少し前からギルドではそれなりの話題になる。巡回したところで今は誰もいないだろうと推測の上でのことであった。


 八十階から転移の宝玉を使い塔の外へ出たジークに声がかかる。


「お疲れ様です、ジークさん」


 どうやら今日の番人は、馴染みのオルガノであるようだ。

 ジークはさっそく持って帰ってきた遺品をまとめて、オルガノへ差し出した。


「これって、グリュウさんたちの……」

「遺品だ、頼む」

「……わかりました。報告は……」

「俺がやる。ウームに言いたいことがある」

「……よろしくお願いします」


 短いやり取りは、事態の深刻さを現していた。

 高層階の探索者は数が少ない。

 だからこそ、手を取り合うことも難しい。


 これまで高層階の探索者に侵蝕による死者はいなかった。

 はっきり言ってしまえば、ギルドや街にとっては、替えの利く軽微な被害しかなかったのだ。ジークはウームに今回の件を伝え、どうするべきなのかキッチリと話を聞くつもりでいた。


 夕方の遅い時間にギルドに姿を現したジークは、まっすぐにニコラのいる受付へ向かう。その険しい表情に列に並んでいた探索者がそそくさと逃げて行き、ジークは待ち時間ゼロでニコラの下へたどり着くことに成功した。


「ウームさんですか?」

「頼む」

「ちょっと待っててくださいね」


 金の入った袋を持っていないし、いつもよりも表情が少し険しい。

 何か大事な話がありそうだけれど、そんな時は大抵ニコラではなくウームを呼び出す必要がある。

 まさに阿吽の呼吸でニコラが受付から奥へ引っ込み、しばらくすると戻ってくる。


「来客対応をしているので、呼ばれるまでいつもの部屋の前で待機してほしいとのことです」

「分かった」


 迷いなくギルドの奥へ足を踏み入れたジークは、早足で部屋の前までたどり着く。

 ジークが真正面に立って腕を組み、扉を睨みつけていると、意外なことにすぐに扉が開かれた。


「中入れ。大人しくしろよ」


 ジークはウームの発した後半の言葉の意味を理解しないまま部屋へ入る。

 どうやら室内には知っている顔が三つある様だった。

 右手のソファにはシーダイの街の公式最高層階到達者のヴァンツァー。

 その向かい側の手前には、いつもとは違い体を小さくして座った、副ギルド長のウーム。

 そしてその隣、奥側にはギルド長であるメリッサが足を組んで座っていた。


「ジークか、座れ」


 話に来たのだから否やはないが、ジークはこのメリッサという女性があまり好きではない。現場にあまり顔を出さない上に、理由も述べずに様々なことを却下する気が強くて偉ぶった女性というイメージしかないのだ。

 メリッサは付き合いの浅いジークから見ればそういった側面を持った女性であるが、同時にウームが居心地悪そうに隣に座らなければならないだけの権力者でもある。

 メリッサからの覚えのいいヴァンツァーが、ジークの同席をお願いし、あっさりとそれが許可されてしまったのは、ウームにとっては誤算であった。


 ちなみにこのメリッサの公的な身分はギルド長以外にも存在する。

 例えば、この街の統治者であったり、この国の若き国王の叔母であり、公爵位をもつ本当に偉い人であったりする。しかし、塔で育って探索者に育てられたジークからすれば、そんなことは糞ほどどうでもいいことであった。

 ジークは今まで生きてきた中で、階級とか身分とかいうものに何の恩恵も受けてこなかったので、仕方がないと言えば仕方がない。


 この国は比較的貴族への礼儀に緩めの国風で知られている。

 塔が出来てしばらくした頃に、探索者の存在を重要視した国王が、規律を少しばかり緩めてくれたのだ。

 とはいえ、公爵に謁見してろくな挨拶もせずに、「ああ」とか言いながらソファに腰を下ろすのは、適当な罪をでっちあげられて死刑にされてもおかしくないくらいには無礼な行動だ。

 かつてウームはジークの態度を注意したことがあるのだが、ジークはそれにまったく理解を示さなかった。

 だからこそウームは、ジークを説得することを諦め、今まで会わないように調整してきたという経緯があるのだが、残念なことに今日ばかりは避けることが出来なかったようである。

 メリッサとジークの面会は、実は心の広いメリッサのお陰で成り立っているということに、無作法者であるジークは未だに気が付いていなかった。


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