面白れぇ男
国王がぽかんとした顔で固まり、隣にいる副ギルド長のマクマンが顔を真っ青にする。同時にその人物が国王であることを知っている探索者たちの空気も凍り付いた。
ジークはわざわざ進路を遮ってきた国王を邪魔だなと思いながらも、どかないので仕方なく押しのけようとした瞬間、武器を向けてこようとした護衛をじろりと睨み、もう一度国王に向け「どけ」と忠告。
道が空いたことでそのままニコラの元へ向かった。
「用は終わった、帰るぞ」
「……そうね」
ニコラはちらりと国王の方を見る。
今の時点でどこの誰かははっきりと聞かされていないが、その正体は当然看破していた。ヴァンツァーと目が合い、そのまま行け、とアイコンタクトで訴えかけられる。
この場にジークが残っていてもややこしくなるだけだ。
ニコラが同意すると、ジークとニコラ、それに顔を隠しているドグラが歩き出し、ジークの対応に何やらニヤついたカッツがその後に続いた。
「無茶苦茶だな」
「何がだ」
カッツが後ろから声をかけると、何も理解していないジークが返事をする。
とっくにジークが無茶苦茶なことは分かっていたし、そんな無茶苦茶に強い男が魔物に対しても圧倒的な戦闘力を発揮したのを見た。極めつけに国王に対して『邪魔だ、どけ』だ。
ジークにボコボコにされて人生の価値観をぶち壊されたカッツとしては、ジークがめちゃくちゃである程、なんだか小気味よい気分になってくる。
自分が折れたのも仕方がねぇかと納得できる。
「それで、何で帰るんだよ。あの場で全部ぶちまけてやりゃいいだろ」
「俺は留守を頼まれた。心配だから見に来たが用事は終わった。頭を使って作戦を立てるのはヴァンツァーの仕事だ。俺は知らん。あいつならうまくやる」
そのヴァンツァーは今ジークの行動によってさぞや困っているだろう。
それを想像するとカッツはまた笑えてくる。
いつもスマートに、何でもうまくこなすヴァンツァーが、この強い男の行動一つに振り回されているのだ。考えるだけで面白かった。
「ああ、なんだかな。探索者ってこんな感じだよな」
およそ半年、勝手に妄執に取りつかれていた自分を、死んでいった仲間たちが見ていたら何と言っていただろうと想像する。
ダサいと、馬鹿だと、俺たちを言い訳にすんじゃねぇよと笑っただろう。
「おい、俺はあんたに協力するぜ、なぁ、ジーク」
「……それはさっきも約束しただろ」
「そうだな」
そもそも、曖昧に納得しただけで、きちんと返事もしていなかったはずだが、ジークは、ドグラとニコラをカッツに任せて前線に飛び出していったのだ。ドグラが万が一変になって暴れるようなことがあれば、お前が殺せ、と言って。
ドグラもそれに納得して頷いていた。
とっくに協力者として認められていたのだ。
少し前まで敵対していた自分を信頼するなど、大馬鹿だと思う。
しかし打算のない信頼を受けたからこそ、カッツは何もする気になれなかった。
何もする気になれず、黙ってジークが暴れて帰ってくるまでを見守ってしまった。
「敵わねぇな。なぁ、ヴァンツァーの妹」
「ニコラです」
つい先ほど衝撃の光景を見て、その意味を理解しているはずなのに、ニコラはジークと腕を組んで楽しそうに歩いている。小言の一つも言わずにだ。
「あんた見る目あるぜ」
「そうでしょう」
ぎゅっと抱き着いたニコラは誇らしげににっこりと笑った。
「おや、どうなりました? ……何やらすっきりした顔の旦那もいるようですが」
宿へ帰ると、クエットが四人を迎え入れる。
相変わらずロビーで待機するつもりで、ジークが適当にソファに腰掛けると、そこに全員で集まって話をすることになる。
「どうもこうもねぇ。ジークが危ないところに登場して、魔物を蹴散らして帰ってきただけだ。最後には称賛しに来た国王に向かって『邪魔だどけ』だ。無茶苦茶だぜ」
「ジークさんらしいですねぇ」
「兄さんがうまくやると思います」
女連中まで度胸が据わっているのを見て、カッツはまたも降参である。
アプロムは自分の正義を信じて、度々そのようなことを口にしていたが、真に何かを変えるのはこんな奴なんだろうなと天井を見上げた。
しばらくグダグダと過ごしていると、ヴァンツァーたちが宿へ帰ってくる。
長く戦っていたテルマたちよりも、特にヴァンツァーがすっかり疲れた顔をしていたが、ジークの顔を見るとにっこりと笑って駆け寄ってきた。
カッツは、こりゃあ怒ってんじゃねぇのかと思っていると、ヴァンツァーはカッツとジークの間に無理やり体をねじ込んでくる。
カッツも仕方ねぇかと少しずれてやるが、何やらヴァンツァーの様子がおかしい。
機嫌は極めて良さそうで、流し目でジークを見ながら報告を始める。
「話はまとめてきたよ」
「そうか」
「明日改めて陛下たちと会談。まぁ、ジークさんはいてくれるだけでいいから」
「わかった」
「にしてもさ……」
はじまるか、とカッツが構える。
「さすがジークさんだよねぇ、魔物ばっさばっさ倒してさぁ!」
ヴァンツァーは冷静でスマートな男であるはずだ。
それがどういうことか、お気に入りの英雄譚を語る子供のように、大喜びでジークの活躍を語り始める。
カッツは何事かと首をかしげた。
よくよく観察すれば、ヴァンツァーの目は先ほどニコラが誇らしげに『そうでしょう』と答えた時とそっくりだった。顔立ちもよく似ているのでよく分かってしまう。
カッツは馬鹿らしくなってソファに寄りかかり、なるほどと納得した。
この兄妹がジークといういかれた男にすっかり脳を焼かれているのだと、カッツが気づいた瞬間だった。




