隠れんぼ
3人が既に帰宅した事も知らず、由宇は男性教師と【鬼ごっこwith隠れんぼ】を続けていた。
由宇は教師を挑発し過ぎた。
相手のヘイトがマックスで全くターゲットから外れる様子はない。
だが由宇は今隠れている場所に鬼から見つからない絶対的な自信がある。
男性教師ならば……いや全ての男性が無意識に避ける心理的な死角。
全ての【隠れんぼ】における不可侵規則違反絶対領域聖域侵害の禁則事項。
その場の名称は【女子トイレ】と呼ばれていた。
すぐ近くの廊下から『怒りを懸命に抑え込んでいます』と言わんばかりの声が聞こえてくる。
彼岸の鬼が此岸へ現出したかのような呪いをたっぷりと込められた声。
「栗戸くぅん。怒らないから出てきなさい。先生は今夜学校へ泊まりだし朝まで付き合うぞぉ」
タイミングよく雷が轟く。
息を殺して鬼が行き過ぎるのを待つ由宇。
「大雨。暴風。落雷。その他もろもろ警報が出ているぞぉ。今から帰宅は困難だなぁ」
普段は使わない優しげな口調と声色の違いが由宇の恐怖を余計に煽った。
そこへ廊下中のガラスを大粒の雨が一斉に叩き風はサッシを激しく揺らす音が聞こえてくる。
「先生も1人で宿直するより楽しそうだなぁ。朝まで楽しく過ごそう。学校キャンプだょう」
由宇は身の危険を感じるが、自分の事よりも女性陣3人の事を心配した。
今無理に帰宅すれば、鶴も晶も風で吹き飛ばされそうだ。
司は風に逆らって高笑いしながら嵐を吹き飛ばしてしまいそうだが。
一度は、この絶対的な安全地帯を放棄して、3人の様子を見に行かないといけないな。
「今出てくれば宿直室へ招待してやるぞぉ。なんとカップ麺と茶、シャワーに布団付きだぞ?」
やばい。
魅力的な提案に心が揺さぶられる。
「お前は……と東海林も大丈夫そうだが、根本と黒井は屋根付きでも野宿に耐えられるかな?」
確かに司は全く心配いらないが、晶と鶴がとても心配だ。
由宇は決心して孤独な籠城戦を終わらせる。
出す方の心配が全く要らない素晴らしい籠城先ではあったが、補給の見込みも全くなかった。
男性教師が【女子トイレ】から出てくる由宇を見て額の血管が切れそうになった事は次の話。




