手鏡は迷宮探索の必需品
司と鶴の2人は教室を出て職員室前の廊下を目指す。
未だ警報音を自ら鳴らし続ける男性教師と不意に遭遇する心配もない。
外では酷くなる一方の暴風雨が内では教師の怒号が人の少ない校舎から静けさを奪っていた。
男性教師の説教を階下に聞きながら司と鶴の2人は職員室へ到達する。
教師が同じ言葉を繰り返すのは、由宇が都合の悪い質問へまともに答えず無駄に抵抗する為だ。
意味の無い謝罪の回数でギネス記録へ載りかねない人の口調まで真似をして相手の怒りを煽る。
由宇からは森羅万象を担当している偉人と同じで、どんな言葉を投げても同じ答えが返される。
自分と関わりない事ですらイライラするのに、ついに司を巻き込む発言が聞こえてきた。
「私や司が関係していたという事になれば、それはもう間違いなく、学校も学生も辞める」
とある偉人の言葉をパクっているが、どんな物証や証言が出てもしらばっくれる気満々だろう。
この手の人物と真面目に付き合う事は莫迦莫迦しい為、司ならば問答無用で手を出し黙らせる。
教師という人種は我慢強いと思えた。
司は意識下から由宇を強制排除し、職員室扉の窓から携帯用手鏡を使用して、中の様子を探る。
手鏡は言うまでもなく司の所持品ではない。
本来は鶴の物だが司が抵抗する間も無く彼女の胸ポケットから自由に取り出し使っている。
但し必要なく身なりを確認しない事が「磨けばもっと光るのに」と言われる【残念美人】の由縁。
「確定は出来ないけど職員室に居る教師は1人ね」
「…返して…」
司の手から手鏡を取り返した鶴が中を確認して一言。
「…彼女なら私がひきつける…九九を覚えるより簡単…」
彼女……今年2年目の新人数学教師は鶴の事を良く思っていない。
彼女は自作の図形問題をその日に習った公式で解かせようとしたのだけど抜け道が存在した。
公式を使わずに……むしろ使わない方が簡単に解けたのだ。
鶴はそれを実行し「公式に慣れる為の問題」と言い張る彼女を言い負かせた。
鶴に悪意はなく自分の疑問をオブラートで包む事無く並べただけ。
だが鶴は事実だけを並べるだけに対して彼女は自分の問題を正当化しようとしている。
どちらの発言に無理が出てくるかなど、自明の理とも言える事だった。
彼女はチャイムを待たずに泣いて教室から逃走。
この事件をきっかけに鶴は一般生徒から更に距離を置かれる事となるが4人の結束は強まった。
「…数学の問題なら疑問は幾らでもある…」
そう言い残して鶴が堂々と職員室に入り教師の元へ向かう。
鶴の姿を確認した教師の顔が青ざめた事は司の目から見ても明らかだった。




