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第八十四話:獣人族軍の戦況

「くぅ……このままじゃまずいにゃ」


 ニャッフルは戦況を少し高い台の上から見つめ、奥歯を噛み締める。

 獣人族の精鋭達は、襲いかかってくる獣型モンスターに対して慣れた様子で戦ってくれている。

しかし―――


「なんか、モンスターの動きが変にゃ。妙に揃っているというか……なんか、頭がいいような気がするにゃ」

「まあ、そりゃモンスターを統率してるボスキャラがいるからだろうなぁ」

「ふにゃ!? ユウキ!? いつのまに隣にいたにゃ!?」


 ニャッフルは突然隣に現れた祐樹に驚き、尻尾をぴんっと立てながら返事を返す。

 祐樹は先ほどのニャッフルと同じように戦況を見つめながら、構わず言葉を続けた。


「それよりお前の軍。苦戦してるみたいだな。個々の戦闘では上回っちゃいるが……全体を見ると、押されていることがよくわかる」

「そ、そうなんだにゃ。あいつら、普段はただ襲い掛かってくることしかしないのに、今日は急に退散したり援軍を呼んだりしたりして、とにかく厄介なんだにゃ」


 ニャッフルは真剣な表情で戦況を見つめる祐樹に対し、両手をばたばたとさせて言葉をぶつける。

 祐樹はその言葉を受けると、ボリボリと頭を搔いて言葉を返した。


「さっきも言った通り、そりゃボスキャラが指示を出してるからだろうな……ってことは、そのボスキャラさえ倒せばあいつらの統率は崩れるってわけだ」

「にゃ、にゃるほど! じゃあ早速、そいつをぶっとばしにいくにゃ!」

「ちょいまち」

「ふにゃ!? し、尻尾を掴むにゃ!」


 駆け出そうとしたニャッフルの尻尾を、思い切り掴む祐樹。

 ニャッフルは全身に鳥肌を立たせ、ぷりぷりと怒った。


「行くってお前、ボスの居場所わかってんのか? ていうか、この軍勢をかき分けて行くなんて無茶すぎんだろ」

「うう、で、でも、やっつけないとみんなが危ないにゃ……」


 ニャッフルは祐樹の言葉を受けると、悲しそうに耳を垂れ下がらせ、俯きながら言葉を紡ぐ。

 祐樹はそんなニャッフルを見ると、にっこりと笑いながらその頭を撫でた。


「ま、その点は任せとけ。とりあえず、俺の肩に手を置いてくれるか?」

「へ? こ、こうかにゃ?」


 ニャッフルは祐樹に言われたとおり、素直にその肩に手を置く。

 それを確認した祐樹は、にっこりと微笑み、思考を回転させた。


『さっきは一応呪文詠唱したが……今度は短縮詠唱でいけそうだな。ま、時間もないし、一気に行きますか』


 祐樹は頭の中で思考を回転させ、次にすべきことを決定する。

 そして、ゆっくりとその口を開いた。


「行くぜ……“クリティカルジャンプ”」

「ほわ!?」


 祐樹が呪文の名前を唱えた瞬間、二人の姿が忽然と消える。

 その場にはただ、空っぽになった指令台だけが残された……



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