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第四十六話:試合の行方

「し、しししし、師匠! どういうことですか!? 何故レオナさんが、S級魔法を!?」

「ゆゆゆゆ、揺らすなアオイ。喋れないってば」


 興奮した様子のアオイは、祐樹をガクガクと前後に揺さぶる。

 祐樹の言葉を受けたアオイは、「し、失礼しました」と呟き、その両手を離した。


「あいつには、才能があったのさ。ヒーラーとしての才能じゃない。攻撃魔法の、それもとびっきりの才能がな」

「攻撃魔法の!? そうか、だからこんな大魔法を……って、このままじゃまずいです師匠! 逃げましょう!」


 アオイは空からゆっくりと落ちてきている炎の塊を確認し、祐樹の手をとる。

 しかし祐樹はやんわりとアオイの手を払うと、「だーいじょうぶ、今消すから」と笑って見せた。


「彼の者を傷付けることは許されず、彼の者を脅かす者もなし。その英知よ、無に帰すが良い。”フレイム・キャンセル”」


 祐樹は左手をポケットに入れたまま、右手の人差し指と中指を立てて空に向けると、呪文を詠唱する。

 するとその刹那、水の波紋のようなものが空に広がり、先ほどまで会場を圧していた炎の塊が消え去っていた。


「きゃ、きゃきゃ、キャンセル魔法!? さ、さすが師匠! 凄いです!」

「お、おう、ありがとよ」


 アオイは感激して祐樹に近づき、キラキラとした瞳で言葉を紡ぐ。

 祐樹は近づいてきたアオイから香った良い匂いに驚き、視線を外しながら言葉を紡いだ。


「ギャレット……あんたとの決着、今つけるべきかもね」

「ひっ……!?」


 レオナはゆっくりと杖の先端を、ギャレットへと突きつける。

 それを受けたギャレットは腰を抜かし、その場に倒れこんだ。


「ま、まままま、待ってくれ! 君の凄さはわかった! 僕の負けだ! 勘弁してくれ!」

「これまで学園内であたしがされてきた嫌がらせの数々……その鬱憤を、今晴らさせてもらうわ」


 レオナはギャレットの言葉を完全に無視し、精神統一を始める。

 ギャレットはついに涙目になりながら、レオナへと懇願した。


「い、今まで馬鹿にしてきたことは謝る! 謝るから、勘弁してくれぇ!」

「深遠の闇よ、世に出ずる全ての物に、絶対の支配と創生を。無に帰れ……」


 ギャレットの言葉を相変わらず無視し、レオナの呪文詠唱が始まる。

 それは紛れも無く闇のS級魔法で、その事実は他ならぬギャレットが一番に理解していた。


「ひ、ひっ……!?」


 ギャレットはレオナを見つめたままガクガクと震え、ついに失禁する。

 それを見たレオナは、大きくため息を落とすと、呪文詠唱を中止した。


「……はあ。ま、いいわ。その醜態でチャラにしといてあげる」


 レオナは杖を背中に仕舞うと、くるりと踵を返して歩き出す。

 すると、静まり返っていた会場が、一斉に沸きあがった。


『すっげええええええええええええ!!』

『見直したぞ、レオナー!』

『きゃー! 素敵―!』

『やったにゃ! れおにゃー!』


 観戦していた学生達は声が枯れるまで、声援をレオナに向ける。

 当然のその中にニャッフルが混ざっていたのは、言うまでも無い。


「……これもあいつのおかげ、か」


 レオナは歩きながら、客席の中の祐樹を探す。

 やがてその姿を見つめると、ニッコリと笑いながら、親指を立てて見せた。


「へっ……あいつ、良い笑顔してるぜ」


 その姿を見た祐樹は、ぐっと親指を立てて返してみせる。

 そしてアオイはそんな二人の姿を見て、何故か涙ぐんでいた。


「ぐすっ。よかったですね、レオナさん。本当に、よかった……」

「……お前、本当良い奴だな。さすが勇者」

「???」


 感動して涙ぐむアオイを見た祐樹は、ぽつりと呟く。

 アオイはその声が良く聞こえず、頭に疑問符を浮かべて首を傾げた。


「さーて、と。次なる冒険に、出発しますかぁ」


 祐樹は、ぐーっと体を伸ばし、やがて声を荒げているニャッフルを呼ぶ。

 会場内の歓声は、レオナが立ち去った後もしばらく止むことは無く。

 学園都市全体を、包み込んでいるようだった。


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