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第27話 掛け声の合図は『女神は~』?

「組み体操……?」


 フローラたち以外の保護者や子どもたちは、戸惑いの表情を浮かべながら首を傾げている。

 そんな周りの皆とは全く違う反応を見せていたのが、フローラたちだった。


「やりましたね、ルイト様」

「うんっ! ぼく、『くみたいそう』だいすき!」


 彼女がにっこり笑いながら声をかけると、ルイトは嬉しそうにきゃっきゃとはしゃぎながら両手をあげている。

 そして、隣にいる高貴な彼もまたニヒルな笑みを浮かべていた。


「ルイト、これは勝ちにいくぞ」

「うんっ!」


 三人はもう一度目を合わせて、にっと口を開いて笑った。


 すると、先生が大きな紙に組み体操の一つ目のポーズを見せた。


「では、最初のポーズはこれです! 青色が保護者さん、赤色がお子さんです。この担当でポーズを決めてくださいね! それでは、よーいスタート!!」


 競技が始まり、皆ざわざわと話し始める。

 それも当たり前であった。

 『組み体操』はこの国で50年以上前に行なわれていたもので、今は危険性が伴うと一部貴族派閥の反対があったところからこの学院では長らくやっていなかった。


(この『組み体操』と私たち世代で知っている人やしたことのある人はほとんどいないはず……)


 しかし、フローラは元々家が男爵位で庶民の暮らしや文化に触れていたため、幼い頃に父親と『組み体操』をしたことがあったのだ。

 父親も母親も一人娘のフローラに丈夫な体を作ってほしいと、積極的に昔の遊びや運動をさせていた。

 そうした過去もあり、フローラ自身はもちろんハインツェ伯爵家で預かっていたルイトも一緒にしたことがある。


「君たちの『組み体操』ごっこに巻き込まれて、まさかそれが役に立つ日が来るとは」

「ええ、私もびっくりです」


 ヴィルは笑みを浮かべながらフローラに告げる。


「君は、本当にとことん運を掴む。幸せの女神だよ」

「そ、そんなことは……きっと、ルイト様が天使なんですよ!」


 二人の会話にルイトは首を傾げて不思議そうに耳を傾けている。


「さあ、早速戸惑う皆々様に、我々の実力をお見舞いしましょうか」


 ヴィルが立ち上がって三人で円陣を組む。


「ヴィル様、これは?」

「円陣だよ。やっぱりこれで結束力を高めていかないとね!」


 フローラとヴィルは小さなルイトの背に合わせて屈みながら、円陣を組む。

 二人と肩を組めてルイトのワクワクは止まらない。


「ヴィル! いまからなにするの!?」

「僕が、『女神は~』って言ったら、『フローラ様~!』って答えるんだよ」

「ヴィル様、それは!」

「さ、行くよ~!」


 フローラの制止も聞かずにヴィルは勢いよく叫ぶ。


「女神様は~!?」

「フローラ様~!!!」


 ルイトの元気な声が部屋中に響き渡った。

 それと同時に嫌々声を出したフローラの声は二人の掛け声の中に消えていく。


「さっ! フローラ、そっちのポーズお願い。それで、ルイトは僕の足に乗って!」

「うんっ!」

「はいっ!」


 円陣でひと悶着あったものの、すぐさま三人は『組み体操』を進めていく。

 まわりはどうやってやるのか、そして自分の上に子どもであるものの人を乗せることにためらいがある者が多く、一向に一つ目のポーズすらクリアできない。


 しかし、フローラたちはあっという間にピラミッドのポーズをすると手をあげて先生を呼ぶ。


「せんせー!!」


 ルイトの声で先生が駆けつけると、彼女は両手で大きく丸をつくって合格を出す。


「よしっ!」


 続いてもフローラとルイトがやったことがある鷲のポーズ。

 一人の保護者が土台となり、その上でもう一人の保護者が子どもを抱える。


「わし、できた!!」


 ルイトがフローラに抱っこされながら両手を大きく広げて羽をつくると、先生たちは満面の笑みで合格を出した。


(いよいよ最後っ!)


 最後のポーズの瞬間にはもう周りは皆降参してフローラたち三人の『組み体操』に魅入っていた。


「がんばれ、ルイト!」

「がんばってー!」


 ルイトの友だちたちの声が響く。

 最後のポーズは最難関とされる時計塔という技。

 この国の象徴でもあるベリス時計塔をつくる大技で、三人が縦にのぼっていく技である。


「僕が下で支えるから」

「はいっ!」


 ヴィルが四つん這いになって土台をつくると、その上にフローラが同じ形で乗った。

 そして最後にルイトがフローラの上にのぼり、ゆっくりと立ち上がろうとする。


(ルイト様、頑張って!)


 この技は一番上の人が立って完成する。

 ルイトはゆっくり慎重にフローラの肩から手を離していく。


 皆が固唾を飲んで見守る中、ルイトはしっかりと立ち上がって時計塔の針を腕で作った。


「ゴーン! おひるでーす!」


 真っすぐ天を指してルイトは叫んだ。

 その瞬間、一瞬時が止まる──。


 そして、沈黙を破るようにジルバートが拍手をし始めた。


「すごいぞ! ルイト!」


 それに合わせて園児たちも保護者も皆、感動して拍手喝采。

 先生たちはあまりの完成度に涙する者もいた。


 フローラたちは見守ってくれた皆に向かって、お辞儀をして笑みを浮かべた。


「ルイトくんチーム、優勝です!!」


 拍手が鳴りやまない中、フローラとルイト、そしてヴィルはハイタッチして喜んだ。

『組み体操』の授業参観編でした!!

皆さん読んでいただきありがとうございました!

評価やブクマ、大変励みになっております。

またリアクションもいつもたくさんありがとうございます!(楽しませていただいております!)

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