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第21話 失意の二人、そして

 金髪の男の子の罵声を浴びて、ルイトは体が動かなくなってしまう。

 聞き間違いだろうか。

 いや、それでも自分のほうを向き、指さして「おやにすてられたやつ」と彼は言った。


 男の子の言葉を聞き、フローラは咄嗟にルイトの耳を塞いだ。


(まずい、このままじゃ……)


 しかし、ルイトは彼女の手を振り払って男の子の声に耳を傾けてしまう。


「どういうこと……?」


 あどけない表情でそう尋ねるルイトに、彼は追い打ちをかける。


「すてられたって、ぼくのおかあさまがいってた! おまえは『すてられたこ』なんだ!」


 残酷にもルイトにもう一度そう告げてしまう。

 フローラがルイトの肩に触れた瞬間、か細い声で呟く。


「フローラ、ぼくすてられたの……?」

「ルイト様っ! ちがっ……」


 弁明しようとした彼女の手を振り払って、ルイトは幼稚園に背を向けて走り出した。


「ルイト様っ!」


 急いで追いかけようとしたフローラの耳に、男の子の声が届く。


「あなたもたいへんですね。かわいそうなこをそだてることになって」


 その発言はフローラの神経を逆撫でした。

 彼女は子どもたちの方へ向き直し、冷たい声で言い放つ。


「子どもといえど、言葉の暴力は許されません。必ず、ルイト様を傷つけたこと謝っていただきます」


 それだけ言い残し、フローラはルイトを追いかけた。




(ルイト様っ!)


 少し目を離した間に、ルイトはすでにフローラの視認できる距離からいなくなっていた。

 息を切らせながらフローラは彼を探す。


(やっぱり行かせるべきじゃなかった。私のせいだ……)


 悔しさで唇を噛みしめながら、彼女は走り続けた。

 何度もさっきの光景と残酷な言葉がよみがえってきて、彼女の後悔の念はどんどん深くなる。


(ルイト様っ! どこっ!?)


 大通りの道まで来た彼女だったが、周りに子どもは見当たらない。

 家から幼稚園までは歩いて行ける距離だから家に戻っているかもしれない。

 しかし、どうにもフローラの勘はルイトが別の場所にいると告げていた。


「はあ……はあ……ルイト様……」


 辺りを見渡して再び走り出した瞬間、フローラは後ろから口元を塞がれた。


「んっ!」


 突然のことに驚きジタバタする彼女の耳元で、聞き慣れた声が響く。


「僕だよ」


 その瞬間、フローラは見知った銀色で長髪の彼を思い出す。

 そして、口元を塞がれていた彼女は、ようやく解放された。


「殿下っ!」

「しっ! ルイトが気づく」


 彼は人差し指を唇に当てて、静かにするように告げると、今度は真っすぐ指をさしてルイトのいる場所を示す。


(ルイト様っ!)


 公園の箱状の遊具の中に隠れるように彼はいた。

 しゃがんで小さくなったその姿は、小刻みに震えており、膝を抱えて顔を伏せている。


「ひくっ……ふえ……」


 涙を流す彼を見て、フローラは気づいてしまった。

 今まで彼には意図的に「育児放棄」の事実を伝えないようにしていたが、彼はすでにその気配を感じていたのだということに。

 もちろん四歳のルイトが全てを理解しているわけではないだろう。

 しかし、これだけ長い間親が会いに来ることはなく他人であったフローラと過ごす日々に違和感はあったはずだ。


 フローラは悲痛な表情を浮かべ、目を閉じた。


(早く言うべきだった。誰かに言われて傷つけられる前に。私からきちんと話すべきだった……)


 フローラはその場にしゃがみ込んで顔を手で覆う。

 涙は出ない。

 ただひたすら後悔する想いと、ルイトを傷つけてしまった自分の愚かさに絶望した。


「フローラ」

「殿下、私は取り返しのつかないことをしました」


 失意の闇に呑み込まれる彼女に、ヴィルは助言する。


「まだ間に合う。ルイトは君の手の届く場所にいる。話してきてごらん。彼と」

「殿下……」


 フローラは顔をあげてヴィルを見ると、彼は「大丈夫」というように頷いた。


(まだ、間に合う……)


 彼女は傷ついた彼のもとへ、歩みを進めた。

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