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戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第五章 織田家の藤吉郎(馬廻編) 天文二十四年~弘治二年(1555~1556)
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47 稲生の戦い 上


 弘治二年(1556) 八月二十四日 

 尾張国愛知郡  鳴海荘 末森城 広間


 末森城では出陣に先立ち、軍議が行われていた。

 城下には集められた兵が整然と並んでおり、信勝はそれを目にすると、満足そうな表情を浮かべていた。


「兵はどれだけ集まったのだ?」


「総数およそ二千、その内半数を某が率いております」

 通具は自慢するかの様に話すと、自らの胸を叩いた。


「あい分かった。 ではこれより清州に向け出陣する! 美作は兵千を率いて名塚砦を攻めよ! 兄上は砦を救援すべく必ず出陣するはずだ。 そこを権六が叩け! お主にも兵千を任せる!」


「「はっ!!」」

 勝家と通具は信勝に向け座礼をした。



 その後、集まった将兵に対し、各自の陣立てを言い渡していた。

 呼ばれた者の中には、先日守山城で暗殺事件を起こした、角田新五の名も含まれていた。


 しかし、続々と将の名前が呼ばれる中、総大将であるはずの信勝の配置は一向に上がらなかった。


「陣立ては以上だ、皆の武運を祈る!」


「「「「はっ!」」」」」



「して、殿は出陣されませんので?」

 信勝の配置が明かされなかったのを疑問に感じ、勝家が問いかけた。


「此度の戦では俺は城に残る。 その為、権六に軍目付(いくさめつけ)を任せる、しかと励めよ?」


「はっ、謹んでお請け致します」

 勝家が返事をすると、信勝は将兵の前へ歩み出た。




「者共!しかと聞け!!! この戦に勝利した者が、真の弾正忠家当主となる! 末森織田家の為、織田上総介の首を必ずや挙げて来るのだ!」


「「「「「応!!!!」」」」」

 信勝の檄に集まった将兵が応えた。 その迫力には凄まじい物があり、城壁がビリビリと震えるほどだった。



「「出陣!!!!」」

 勝家と通具の下知で、末森から二千の兵が清州を目掛けて出陣した。



 しかし、その様子を何者かに見られている事に気付いた者は、誰一人としていなかった。

 その者は密かにその場を離れると、清須方面へと駆けだした。






 同時刻

 尾張国春日井郡 清州城 信長私室前


 伝令から報告を受けた恒興は、私室にいる信長の元へ駆けだした。


「殿!! 末森の方角から狼煙が上がりました! 狼煙の色からしますと、名塚砦に向け出陣した模様!!」


 襖越しに声をかけた所、勢いよく襖が開かれた。

 開かれた先には、既に甲冑に身を包んだ信長が立っていた。


「儂も確認した、数日のうちに出陣すると見込んでおったが、見事に予想が当たったわ。 既に名塚砦には大学と兵三百が入っておる故心配するな。 すぐに軍議を行う故、広間に将兵を集めよ!」


「はっ!」


「やはり戦わねばならないか…」

 恒興を見送った信長は、一言そう呟くと広間へと向かった。





 清州城 広間


「では陣立てを言い渡す! 尚、此度の戦はこちらが寡兵となる故、馬廻りを各隊へ与力として遣わす! 馬廻り衆は各隊の将に従って戦に臨め!」


「「「「「はっ!」」」」」


「先手大将は佐々孫介に任せる! 兵は百名、そして与力として内蔵助と山田治部左衛門を付ける!」


「はっ!」


「二陣は森三左衛門! お主には兵百五十と又左と藤吉郎を付ける!」


「「承知致しました!」」

 可成と利家は声を挙げたが、俺は此度の戦に際してやらねばならないことがあった。



「殿!!! 申し上げたきことがございます!!!!」

 俺は思い切ってそう叫んだ。



「一体何事だ? 今は軍議の最中じゃ、つまらんことなら後にせい! …それとも、何か不服でもあるのか?」

 信長はそう言い放つと、俺に厳しい目を向けてきた。


 周りの武将も、軍議の最中に話すなどと言う非常識極まりない行いを非難するかのように、冷たい視線を送ってきた。



「此度の戦ですが、先程殿が申された通り、我らは兵数において後れを取っております! その為、某は少しでも差を縮めるべく、自ら兵を集めて参りました! その数は某を含め二十五名ですが、皆武勇に優れる精鋭であります! どうかその者らも戦列にお加え頂きとう存じまする!!」

 俺はそう言い放つと、額を床に擦り付けた。




 史実の稲生の戦いでは、信長軍七百に対し信勝軍は千七百にも及んだ。

 兵数差は倍以上あったが、信長自身が前線で槍を振るい、美作守を討ち取ったことによって勝利を収めた。


 しかし信長軍の損耗も激しく、小豆坂七本槍に数えられる猛将であった佐々孫介を始め、半数ほどの兵士を失っている。 正に紙一重の勝利と言えるだろう。


 しかもこの世界では林秀貞が隠居したことにより、林家の全兵士が美作守と共に出陣してくると思われる。

 そうなればこの戦いの行方がどうなるか分からない。


 もしかすると、信長が()()()()()()ことになるかも知れない。



 そう考えた俺は、前々から木下屋敷の面々に戦が起こることを伝え、準備するように言っておいた。


 元土岐家家臣として戦場を駆けた兵庫は勿論として、鬼三人衆はこれが初陣になるが、後世に名を残す名将たちである。

 二十名の兵たちも選りすぐりの精鋭であり、兵庫たちが自ら鍛えたことにより、一般の足軽より格段に強い。


 俺を入れても僅か二十五名だが、その数以上の働きが出来ることは間違いないだろう。

 数が少ない為、出来ることは限られるかもしれないが、史実には居なかった者たちが加わることで、最悪の結末を防ぐことができるかもしれない。


 俺はそう考え、危険を承知で軍議の場で発言をしたのだ。



「そのお主が言う精鋭とやらは本当に強いのか? 戦と言うものは急拵えで何とかなる物ではないのだぞ?」

 信長はそう不機嫌そうに言った。



 これは拙かったかと思っていたが、思ってもいなかった人物が助け舟を出してくれた。


 俺は思わず顔を上げ、声の主の方を見た。 そこには先程俺の与力相手として名が呼ばれた、森可成がいた。



「藤吉郎殿の麾下(きか)には、某の知己で元土岐家家臣の各務兵庫助殿が居ります。 かの者は土岐家でも重責を担っていた経験があり、土岐家を慮って野に下りはしたものの、以前藤吉郎殿の所に行った時に話しましたが、その能力は当時と変わっておりませなんだ。 その際に兵の調練も拝見しましたが、練度も中々の物でござった。 その者らはきっと殿の御力になると、某も考える次第であります。 某からもその者らを隊に加える事をお願いしたく存じます」

 可成はそう言うと、深々と頭を下げた。



 重臣の中でも、特に大きな発言力を持つ可成が擁護したことで、冷たい目線を向けていた将たちも、「そうなのか?」「三左殿が言うなら間違いないのでは?」と俄かにざわめきだした。


 その様子を見て、仕方がないと思ったのか、信長は深くため息をつくと俺に話し出した。


「此度はお主の申し出を受け入れよう。 だが!! お主が不甲斐ない姿を見せようものなら、儂自らがお主の首を叩き切る!! それでも良いな?」


「寛大なお心遣い、誠にありがとうございます!! この藤吉郎!身命を賭して励むことを誓いまする!!!」

 俺は再び深く頭を下げた。



「藤吉郎! お主にもう一つ言い渡すことがある! お主はその兵共を率い、遊軍として動け! お主の判断で戦場を駆けて見よ!」

 そう言うと信長はニヤリと笑った。



 おいおい… それは想定外だよ…



 まさかの命令を前にして呆気に取られている俺を置いて、軍議は進んでいった。


「右備は佐久間右衛門と兵百二十五! 与力は川尻与四郎じゃ! 左備は丹羽五郎左衛門! お主には兵百二十五と金森五郎八、新助、小平太を任せる!」


「「「「承知致しました!」」」」


「後備は造酒丞と兵百! 与力は蜂屋兵庫頭と塙九郎左衛門! そして本陣は儂自らが兵百を率いる!勝三郎は儂と共に来い!」


「「はっ!」」



「先程も申したが此度の戦は、儂らが数では圧倒的に劣っとる! だが儂らは数々の戦を潜り抜けてきた精鋭じゃ! 日和見を決めて戦っとらんかった末森の弱兵とは違う!!! 各々が死力を尽くせば、必ずや勝利は我らの物となろうぞ!!!」



「「「「「応!!!!!」」」」」



「織田家の家督はこの上総介の物じゃ!!! 者共出陣せよ!!!」

 信長の檄の下、信長軍総勢七百二十五名が清州を出立した。





 戦はもう目の前まで来ている。


再び危ない橋を渡る秀吉…


<人物解説>

織田造酒丞信房 織田の苗字を名乗るが、実は一門ではない。(信長公記では一門扱いのようだが…) 

小豆坂七本槍の一人であり、武勇に優れる人物である。(その戦功で織田姓を与えられたのかもしれないと筆者は考えています)

記録としては、小豆坂の戦い、稲生の戦い、桶狭間の戦いで戦功があるが、その後の消息は分かっていない。

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― 新着の感想 ―
おお。ここに木下家の精鋭部隊が来ましたか!ほとんどが後に鬼の異名をつけられる猛者ばかりですがそれでもまだ分かりませんね。 そして信長にとんでもない無茶ぶりを受ける藤吉郎。しかしこれを乗り越えなければ…
藤吉郎…自ら危険に飛び込むか……。   ……Σ(゜Д゜)ハッ!!…まさか……ドMか…?(笑)
2024/10/17 07:17 ざまぁ好き
織田勢(敵,味方)があっと言う位、活躍できる可能性のある戦場が出来上がりましたね。今回の戦を逃せば、次は対今川戦となるのでまだしばらく先。 立身出世のためにも、主人公らしさを見せるためにも今戦…楽しみ…
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