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戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第三章 放浪の藤吉郎 天文二十二年~天文二十三年(1553~1554)
13/65

11 明智城

 

 天文二十二年(1553年) 尾張国愛知郡 中村郷中中村 木下家


 俺は出立の前の晩、布団に入りながら今後の事について考えを巡らせていた。


 俺が松下家にいた年月は、恐らく史実よりも短くなっていることだろう。

 次に仕官するならやはり織田家が良い。織田信長は前世からの憧れであるし、百姓出身の俺が出世を見込めるのも、家柄より能力を重視する織田家の他ないだろう。


 最初はそのまま織田家へ仕官しようとも考えたが、史実の秀吉にはいくつかの弱点があるのを思い出した。


 まず1つは百姓から身を起こしたこともあり、普通の大名家にはいるはずの、譜代の家臣が居ないことだ。

 秀吉の譜代家臣は近江長浜城主時代に登用されたものが多く、そうすると俺が30代になってからしか家臣に恵まれないことが分かる。優秀な家臣には早めに当たりを付けておきたい。


 もう1つは家臣に文官が多いことだ。

 石田三成などの五奉行など、秀吉譜代にはなぜか文官が多い。賤ヶ岳七本槍がいるじゃないか思うが、まだ産まれていないものがほとんどだ。


 史実の秀吉は武功を立てる事よりも、人たらしな性格を生かし、自身に味方するものを増やしたり、敵を寝返らせたりして出世していったが、俺にはそのような器用な真似はできないだろう。


 そうなると武功を立てて出世するしかない。俺も槍の腕前には多少の自信はあるが、俺1人では出来ることには限界がある。その為なるべく早く優秀家臣を得るほかない。



 1番大きな弱点がまだあるのだが、それは今の所どうしようもないので放っておくしかない。


 その為俺は織田家に仕官する前に、武者修行と人材登用の旅に出ることにした。





 天文二十二年(1553年) 尾張国 国境付近


 俺は故郷を出ると美濃国へ向かった。美濃国にしたのには理由がある。


 尾張国内は織田家の家臣が多く、引き抜きに躊躇する点があり却下。


 三河国は松平家に忠誠を誓う三河武士が多い。大国今川にも屈しなかった男たちだ、俺に付け入る隙など微塵もない。


 となると近場では美濃国しかない。


 美濃国は斎藤道三の国盗りにより国主が変わった。

 下剋上をした斎藤家に仕えず、野に下った旧土岐氏の家臣が多くいる為、俺にも登用できるチャンスがあるかもしれない。

 後は前世の俺が美濃出身であることから、マイナーな武将も知っていて好都合なのもある。


 俺はそうして美濃国へと足を踏み入れるのであった。





 美濃国可児郡 明智城


 俺はまず明智十兵衛光秀を訪ねた。恐らくこの時代なら斎藤家家臣として美濃で居を構えていると考えられる。史実では本能寺の変を起こしたとして有名な武将だ。

 知名度は高いが、その反面出自や信長へ仕えるまでの前半性も謎に包まれている武将である。


 前世とは全く違う地形に四苦八苦しながら、俺はようやく明智城へと辿り着いた。




「誰か居られぬか! 某は木下藤吉郎秀吉と申す旅の武芸者なり! こちらに明智十兵衛殿と申される御仁がいると聞きし次第! 一手御指南を頂戴仕る!!!」

 俺は木の扉がミシリと音を立てるほどの大音声で名乗った。


 暫くすると迷惑そうな顔をした門番が現れ、中に通すと告げられた。取りあえずは上手くいったようだ。


 俺は大広間へと通された。

 広間の戸は開け放されており、中庭が見える。よく見ると中庭の壁にはいくつかの小さい穴が見て取れた。もしかしたら火縄銃の弾痕かもしれない。



「なにか珍しい物でもありましたか?」

 中庭を眺めていると急に後ろから声がした。

 俺は声を聴いた瞬間に飛びのき、腰に手を当てた。刀は門番へ預けていた為、俺の手は虚しく空を切った。



「ふふふ、いきなり門扉の前で叫んだ不届き者へ軽い戯れをと思いましてね。私がこの城の主である明智十兵衛光秀と申します。以後お見知りおきを」

 男は面白い物を見たという表情をしながら、俺の目の前に座った。



 後ろに立たれた時に全く気配がしなかった。

 武芸を身に着けるにあたって、人の気配に敏感になった俺相手にここまで気配を消せるとは。


 見た目は直垂姿に烏帽子という装いをした若者であり、切れ長の目からは理知的な印象が見て取れるが…

 明智十兵衛光秀、とても一筋縄ではいかない男のようだ。


 とんだファーストコンタクトになったが、俺は広間で十兵衛殿にここへ来た理由について話すことにした。




「それで。貴方は当家に仕官しに来たわけではないのですね。」


「はい。我が武芸を磨くため諸国を巡っております。槍の腕についてはかなりの物と自負しております。」


「そうですか。では内蔵助(くらのすけ)と槍合わせをしては如何かな? 若いですが槍の腕は家中随一です。」


「では一手槍合わせ願います。」


 内蔵助とは恐らく斎藤内蔵助利三だろう。光秀譜代の家臣で春日局の父として有名な武将だ。

 そんな武将と腕試しが出来るとは光栄だ。俺は模擬槍を受け取ると中庭へと降りた。


「木下藤吉郎秀吉と申す!いざ尋常に勝負!」


「明智家家臣、斎藤内蔵助利三!どこからでもかかってくるがいい!」

 内蔵助殿はまだ顔に少し幼さが残る若武者だが、構えを見るに相当の使い手らしい。これは気が抜けない試合になりそうだ。



 槍合わせの結果は俺の勝ちだった。内蔵助殿が放った槍を俺が受け流し、すかさず喉元に槍先を向けた。

 内蔵助殿は悔しさを隠せないといった表情で、十兵衛殿はいい物を見たと言った顔で笑みを浮かべていた。


 俺は十兵衛殿に気に入られたようで、仕官しないかと誘われた。しかし俺の目的は仕官ではないので丁寧に誘いを断った。


 なにが面白いのか十兵衛殿は声をあげて笑うと、「このようなものは見たことがあるか?」と火縄銃を取り出してきた。

 知らないと答えると、「では見せてあげよう」と実際に的に向かって撃つところも見せてくれた。


 的までは20間以上あったが、放った弾は1つとして外れることはなかった。流石鉄砲の名手と伝わるだけある。


 俺は十兵衛殿にお礼を言うと、明智城を出て次の目的地へと向かった。





 美濃国可児郡 明智城 明智十兵衛光秀


 俺は木下藤吉郎秀吉と名乗った武芸者が城を出ると、内蔵助を書院へ招いて話をした。


「内蔵助。あの者と槍を合わせてどう感じた?」


「構えにも隙がなく相当の使い手でした。実際拙者はあの者に敗れ申した。ですがよろしいのですか?あの者に火縄銃などを見せ、剰え貴重な玉薬を用いて撃って見せるなど…」


「なんでだろうな。私にもわからぬ。」


「はぁ…」



 不思議な男だ、初めて会ったにも拘らず、私を知っているかのような目をしていた。

 どこかで会ったのかもしれないが、あの偉丈夫を忘れるほど私は忘れっぽくはない。柄にもなく仕官の誘いを何度もしてしまうほど、私はあの者に魅力を感じたのだろう。


 木下藤吉郎秀吉。かの者にはこれから先もまたどこかで会うかもしれない、私はそう思わざるを得なかった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 史実では斎藤利三が明智光秀に仕えるのは15年近く先になると思うのですが、その点はご都合主義ということでしょうか?
[一言] 明智でしたか。 奇妙な御縁です事。 斎藤利三は嫌いじゃないよ。 娘の方は大嫌いだけど。
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