第九十一話 騒がしい朝とリア充
「おはようございます、御主人さま」
耳元で優しく起こしてくれるのは銀髪の天使。
あれ……? 俺……いつの間に戻って来ていたんだ?
女神さまと布団に入ったところまでは覚えているんだけど……。
「どうなさったんですか、ボーっとして。キスします?」
葵……どうしてそうなるのかよくわからないが、とりあえず頼むよ。
すぐに葵とおはようのキスをしたいところだが、そうは問屋が卸さない。まずは身動きできるように許嫁をはがしていかなければならない。
くっ……なぜ理子ちゃんはいつも顔のすぐ近くに居るんだ?
躊躇っている暇はない。理子ちゃんに目覚めのキスをする。
「…………」
ずばーん!!
寝ぼけ眼で引っ叩かれた。身動きできないから避けようがない。
それでもおかげで目がはっきり覚めた。ゆり姉、茉莉、菖蒲、杏、どんどんキスで起こしてゆく。大変ではあるけれど、天使のような美少女たちの寝顔を見ながら起こしてゆくのは至福の時間ともいえる。
「ん……おはよう、お兄さま」
「おはよう、すあま」
すあまはあまり朝が得意ではないのか、ほっぺたをかじってくる。気持ちはわかるが残念ながら日中は食べられないんだ。
「…………」
……駄目だな、まあすは何をしても起きる気配すらない。死んでいるのかと思って焦ったが、寝息は立てているから寝ているだけなのか?
「お兄さま、まあすはお昼過ぎにならないと起きないから無駄無駄」
一体どういう生活をしているんだろう? まあそういうことなら寝かせておくか。
「霧野先輩、朝ですよ……ってうおっ!?」
で、でかいな……見ている角度もあって迫力がすごい。パジャマから8割方はみ出しているんじゃないだろうか。下手に近づくと圧死する恐れがある。
そして、その隣には狙ったかのように雅先生が寝ている。これはまさに世界最大級の谷間に迷い込んでしまった探検隊のようだ。
「お兄さま、危険です。どうかおやめになって!!」
「止めるな妹よ。俺も探検隊の端くれ、山があれば登るのが使命なんだ」
「……それは登山家じゃないの天津?」
的確なツッコミ感謝だ茉莉。ただ、そのジト目は心が痛いからやめて欲しい。
「ごめんなさい……私のは丘ですよね……登る価値もないですよね」
そんなことないぞ菖蒲、俺はどちらかといえば、丘の方が好きだ。今度ぜひ登らせて欲しい。
「ほら命、早くしないと間に合わないわよ?」
たしかにゆり姉の言う通り、二人の間のゲートが閉じようとしている!!
「くっ、間に合えっ!!」
二人の間にダイブすると同時に、ゲートが閉じた。
「ぐわああああっ!! い、息が出来ない……」
「天津命……何がしたいんだ?」
理子ちゃんの冷静な質問が辛いが、返事をする余裕などない。何とかここから脱出して二人を起こさなければ……。
霧野先輩の脇の下に手を差し込んで持ち上げようとするも、何かが邪魔して上手くいかない。
『むにゃあむにゃあ……』
……猫がいたっ!?
仕方がない、方向転換、先に雅先生を起こす。
下から持ち上げて……な、なにぃ!? 手が……手がめり込んで……抜けないだと?
何という柔らかさだ。まずい……このままだと雅先生に取り込まれてしまう。
「杏、助けてくれ」
仕方が無いから忍びの助けを借りる。
「はっ、承知。忍法布団の術!!」
とうとう忍術まで使い始めた!?
「「きゃああ!?」」
杏の忍術で布団が吹っ飛んで、無事? 雅先生と霧野先輩を起こすことが出来た。
まあすとひだにゃんは……相変わらず寝ているけどな。床で。
そして……最後は撫子さん。
これだけ騒いでいても俺の背中にひっついて眠り続けるのはすごい。そして背中で感じる感触もすごい。
「ん……? おはようみこちん、良い朝だな」
ぱっちりと開いた瞳はまるで宝石箱のように美しい。
「おはよう、撫子さん。今日も良い朝だね」
しばし見つめ合うと目を閉じてキスをねだる撫子さん。ははっ、しょうがないなあ、今したばかりじゃあないか。
だが、そうなると他の許嫁たちも黙ってはいないだろう。ふふ、困ったなあ。
「……御飯が冷めます」
「「「「「「……ごめんなさい」」」」」」
葵の凍てつくような一言でようやく朝が動き出す。
◇◇◇
「あの……私、本当にお邪魔じゃないですか?」
朝食の席で遠慮がちに聞いてくる菫さん。聞けばずっと一人で食事をしてきたんだとか。可哀そうすぎるだろ。
「当たり前じゃないか菫さん。自分の家だと思ってくれていいからね」
そうだった……今日から菫さんもいるんだった。あまり変なところは見せられないから気を付けないと。ほとんど女子寮みたいな状況だから、俺さえ気を付ければ問題ないからな。
菫さんはこれからしばらくの間、雅先生と同じ離れの部屋に住むことになる。ただ、雅先生は夜は俺の部屋で寝ているけれど。
「じゃあ命くん、学生の本分、頑張ってね」
桜花さんと楓さん、雅先生は、仕事があるので一足早く家を出る。
ピンポーン!!
こんな朝に誰だろう?
「おはよう、菫さん!! 迎えに来たよ!!」
……直樹? お前わざわざこっちまで来たのかよ。
「おはようございます、直樹さん。わざわざ迎えなんて必要なかったのに……」
そう言いつつもめっちゃ嬉しそうな菫さん。
「何言ってんの、万一のことがあったら大変だからね。じゃあな命、また学校で」
仲良く家を出てゆく二人。
なるほど……これがリア充オーラか。確かに爆発してしまえ、ただし直樹に限ると言いたくなる気持ちもわかるな。
俺も周りから見たらそう思われているんだろうな……たぶん、いや間違いなく。
うん……今後、より一層言動や行動には細心の注意を払おう。もう手遅れかもしれないし、気休めにしかならないかもしれないけど。




